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「眠れない人」が「眠れる人」になるには

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2012年10月25日 公開 2024年12月16日 更新

ストレスがますます過剰になる現代社会では、「眠れない」とうったえる人が激増している。何が人を「眠れない」状態に追い込んだのか。自らも不眠症体験を持つ加藤諦三氏は、この「眠れない」という状態は、その人の人生に対する考え方そのものに起因していると考える。「眠れない」自分とどう付き合ったら、眠れるようになるのだろうか。

※本稿は加藤諦三著『眠れない人のための心理学』(PHP研究所刊)より一部抜粋・編集したものです。

 

なぜ、地獄から抜け出せないのか

人間関係で運の悪い人は、今まで運が悪くなるように生きていることが多い。例えば、運の悪い人は、すぐに「魔法の杖」を求めてしまう。つまり「今、この苦しい自分が、苦しまないようにしてくれる人」を求めてしまう。

自分を助けてくれる人を安直に求めてしまう。そんな人がいるはずがない。誠実な人は、相手の魔法の杖にはなれない。そこで質の悪い人と拘わる。その結果、さらに酷い状況に陥る。

それはお金に困ったときに安易にサラ金からお金を借りる人のことを考えれば分かる。最初はまだ良い。返せなくなればもっと酷い業者に救いを求める人が出てくる。最後は違法な闇金と言われる業者にまで行く人もいる。

その場、その場を安易に解決しようとすることで、一歩一歩、確実に地獄に近づいていく。不眠症になったときに、「今、この苦しい自分が、もう苦しまないでいいように、助けてくれる人」を求めているのも同じことである。

「自分はなぜ自律神経失調症になって不眠症になってしまったのか」「自分はなぜ不安になって不眠症になってしまったのか」と、自分の今までの生き方を反省することが第一である。

それが心の多重債務に陥るのを避ける方法である。「自分は運が悪い」と思う人はとにかく時間をかけて今の人間関係を変えていかなければいけない。今は幸運の波に乗っていない。

 

「運が悪い」と思ったら、人間関係を変える

50歳を過ぎたらどんなに「冷たい」と思われても良いから、偽りの人間関係を切っていく。そういうように行動していくといつか運がまわって来る。人間関係を変えるのにはエネルギーがいる。

たとえ気に入らない人がいても、なかなか関係を変えられない。「あの人もいつか変わる」と思って今の人間関係を変えない。その方が心理的には楽であるから。

エネルギーがないと、今自分に都合のいい人に、今自分によくしてくれている人に、気持ちを持っていってしまう。人を騙す人とか、人を陥れる人は、今は悪いが、いつか変わるだろうと思うが、変わらない。

それは彼らが、人を騙すこと、利用することで甘い汁の味を知っているからである。人を搾取して生きてきた人、人を利用して生きてきた人は、そう簡単には変わらない。

自分は運の悪い人だと思っている人は、それぞれの様々な理由から、そうした質の悪い人と拘わり合ってしまっているのである。とにかく「自分は運の悪い人だ」と思ったら、冷たいと思われても良いから、今の人間関係を切っていくことである。

死ぬときには誰でも力がない。死ぬときには自分はどうしようもない。幸運か不運かは、人生最後の時に周囲にどの様な人が居るかで決まる。生きることに疲れた人は、今楽になろうとして、屑をつかむ。

質の悪い人に利用されてもっと生きるのが辛くなる。もっと生きることに疲れる。今楽になろうとする人は、現実から逃げてしまう。現実逃避は確実に今よりも苦しくなる行動の仕方である。

今までの自分の生き方を考えたら、今が楽なはずがないのに、今が楽になろうとする。今が熟睡できるはずがないのに、熟睡しようとする。それで寝る前に深酒をする。その結果さらに眠れない人になる。

だれでも変化が怖い。人間関係の変化が怖いから人間関係依存症になる。離れようとしても離れられない。アルコール依存症と同じである。

アルコールを止めようと思っても、止められない。しかし思い切って乗り越えたときには、「変化は大切だな」と感じる。変化をしなければ波に乗って行けない。

 

 夜を乗り越えるために

眠れない原因は、悔しさとか怒りとか欲とか、いろいろとあるだろう。そのことはすでに書いた。そうしたマイナスの感情を心の中に溜めておくと、具体的には何もしなくても心身共に消耗してくる。

マイナスの感情を溜めておくと、そのことにエネルギーが使われてしまう。従ってマイナスの感情を寝る前に吐き出すことである。悔しいときには書くことである。

直接面と向かって言えないことも、誰も見ない紙に向かってなら書ける。言える。悔しいという気持ちのままで寝床に入ってもなかなか眠れない。

またあることが不運で、悔しくて寝られない夜は、その悔しい気持ちを吐き出すこととは逆に、1つ1つ自分が恵まれていることを数える。そしてそれを紙に書く。

あいつには酷い目にあったけど、自分には家族も友達もいる、こうして温かいベッドで寝られる、働く場所がある、涼しい風に当たりながら座っていられる椅子がある、明日も散歩が出来る、就職で面接の時にたまたま自分を気に入ってくれた人がいた、昨日も鳥の声を聞くことが出来た、何でもいい。

悔しくて寝られない夜は、1つ1つ、そうした自分が恵まれていることを数える。恵まれたことを書くのは、マイナスの感情に囚われないためである。寝る前にこのことを紙に書いてベッドにはいる。そしてその紙をベッドの側に置いておく。自分の意識を自分の恵まれている点から離してはいけない。

【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

 

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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