写真:齋藤清貴(SCOPE)
<<ビジネスマンにおける教養というと、歴史や宗教、近年ではアートなども言われているが、元・東レ経営研究所社長の佐々木常夫氏は「知識だけをいくら集めても、『本当の教養』は身につかない」と断言し、「ビジネスマンにおける教養とは、成果に結びつくものではならない」と提唱する。
ここでは、成果を出すのに必要な「ビジネスマンが身につけたい本当の教養」における、「部下への接し方」について紹介する。>>
※本記事は、佐々木常夫著『人生の教養』(ポプラ社)より、一部を抜粋編集したものです。
温情をもって部下に接することを原則とせよ
感覚を鋭く保ち、直感的な洞察力を働かせることは、同僚や部下に接するときにも必要になります。
私が大事な事業の計画立案の中心メンバーとして忙しく働いていたときのこと。みんなで合宿をし、集中的に課題を検討している最中に携帯電話が鳴りました。うつ病をわずらっていた妻からの、「すぐに帰ってきてほしい」という電話でした。
いまは大事なときだから無理だといっても、その日にかぎって妻は執拗で、思い詰めたような切迫した声で、どうしても帰ってきてほしいと懇願します。私は困り果てて、上司に事情を正直に打ち明けました。すると、その人は間髪を入れず、
「仕事より家族が大事だ。あとのことは私が何とかする。すぐに帰ってやりなさい」
と、部下である私の苦境を思いやってくれたのです。
タクシーを飛ばして帰る車内で私は涙がにじむのを感じました。奮い立つような気持ちで、「この人のためにもいい仕事をしよう。いい仕事をして恩返ししよう」とあらためて決意したものです。
そういうこともあって、私も部下にたいしては、「情」をもって接することを基本原則としてきました。すなわち、彼らのモチベーションを高め、彼らが仕事で成果を出し、その能力と人間性を伸ばしていけるよう支援すること、その環境を整えること、です。
また、彼らをひとつの駒や歯車として「使う」のではなく、同じ組織で働く同志として尊重と共感の思いを抱き、高い目標へチャレンジするよう絶えず「促す」。
彼らの成長のために厳しくすべきは厳しく接しながら、しかし失敗には寛大であること。そうして最終的には、彼らの自己実現と幸せに側面もしくは背後から寄与すること、を心がけました。
それがリーダーの立場にいる組織人が心がけるべきことであり、また、部下にたいして発揮すべき「教養」でもあると思うのです。