上手に相手の話を聞くにはどうしたらいいのでしょうか。宇都出雅巳さんは、「人」に焦点を当てて質問することが重要だと指摘します。相手を満足させる"聞き方"のコツを紹介します。
※本稿は、宇都出雅巳著『絶妙な「聞き方」』(PHP文庫)より、内容を一部を抜粋・編集したものです。
<イラスト:今井ヨージ >
「事柄」を聴いて、「人」を聴いていない
あなたには、こんな体験はありませんか? 相手からあれこれ質問されて、たくさん話したのに、なんだか聴いてもらった感じがしない。逆に、自分としては一所懸命聴いたつもりなのに、相手から「ちゃんと話を聴いてよ!」と言われた。
話し手がたくさん話し、聴き手は質問をしたりして、一見、よく聴いているようなのに、話し手は「聴いてもらった」気がしないという不思議な体験です。
この原因はどこにあるでしょう? それは、聴き手の焦点にあります。聴き手が相手に焦点を向けていても、その方向には2つあり、どちらの方向かで大きな違いがあるのです。
1つは、相手が話している「事柄」。もう1つは、話している相手そのもの、「人」です。具体的な例で説明しましょう。
たとえば、相手が「昨日、映画観たんですよ」と話しかけてきたとします。このとき、聴き手であるあなたには2つの聴き方があります。
1つは、「どんな映画だったんだろう?」と、映画という「事柄」に焦点を当てる聴き方です。そしてもう1つは、「この人は映画を観て、何に感動したんだろう?」というように、相手そのもの、「人」に焦点を当てる聴き方です。
ちょっとした違いですが、この違いが、一見、同じように相手の話を聴いているようで、大きな違いを生みます。それでは、相手が「自分の話を聴いてもらった」と思うのは、どちらに焦点を当てた聴き方でしょう?
もうおわかりですよね。後者の「人」に焦点を当てる聴き方です。相手があなたに話しかけた理由を考えてみればわかるでしょう。おそらく、相手は映画を観て何か感動したり、感じたりしたことがあって、それをあなたに伝えたかったのでしょう。
「人」に焦点を当てて聴くことが、相手の話したいことを聴くことにつながるのです。「事柄」ではなく、「人」に焦点を当てて聴くことで、相手は話を聴いてもらったと感じるのです。
もちろん「事柄」を聴くことも大事です。なかには「事柄」を話したい人、「人」に焦点を当ててほしくない人もいるでしょう。
特に仕事では、「事柄」に焦点が当たることがほとんどです。それは必要なことです。たとえば、何か大きな問題が発生したときに、まずは何が起こっているか、正確に「事柄」を把握するのは大事です。
ただ、仕事でも、最終的に大事なのは「人」です。いくら「事柄」を論理的に詰めて明確にしても、その「事柄」を考え、実行するのは「人」だからです。
「人」は論理だけでは動きません。論理以外の感情や感性で動きます。それらの要因は「事柄」に焦点を向けて聴いているだけでは、なかなかわかりません。
ビジネスといえども、「人」に焦点を当てていくことが大事なのです。ましてや、それ以外の人間関係においては、「事柄」ではなく「人」がより大事になるのです。
「人」を聴けばわかる「人の面白さ」
「『人』よりも、相手の話す『事柄』に興味があるんですが...」という声が聞こえてきそうです。そんな人も「人」に焦点を向けることを意識していくうちに、だんだんと「人」に興味が出て、楽に「人」に意識が向くようになっていきます。
「人」に焦点を当てて聴くことで、これまで聴けなかった話が聴けるようになり、相手という「人」の持つ面白さ・可能性がわかるからです。
あなたも、少しずつでいいですから、「人」に焦点を向けることを意識してみてください。これまで知らなかった相手の思わぬ一面が聴けるようになっていきます。
「こんな人だったんだ」と驚くことが増えていくでしょう。「人の面白さ」に気づいたあなたは、「人」にも楽に焦点が向くようになっていきます。