1. PHPオンライン
  2. 生き方
  3. 好きの反対は「ウケる」 苦手な人の受け止め方が変わるギャルマインドの本質

生き方

好きの反対は「ウケる」 苦手な人の受け止め方が変わるギャルマインドの本質

赤荻瞳(渋谷女子インターナショナルスクール校長)

2025年07月29日 公開

「きっとこの記事に目を止めてくださったあなたは、やりたいことを見つけて、なりたい自分に近づきたい、自分を変えたいと思っているはずです。まずは、そんな向上心を持っているあなたのことを、私に褒めさせてください!えらすぎ! すごすぎ! 大優勝!」

21歳のとき、当時休刊となっていた女性向け雑誌『egg 』の編集長に就任し、多くの若い人たちをプロデュース。結婚を機に編集長を退任、専業主婦を経て、より多くの若者の夢を応援し、導く存在になるべく、現在は渋谷女子インターナショナルスクールの校長先生を務める赤荻瞳さん。

そんな赤荻さんは著書『平凡な会社員がギャルに出会って人生変わった話』で、ご自身の経験の中で培ってきた「なりたい自分に近づくための6ステップ」の進め方を、若い人たちだけでなく、より多くの人たちに届けられるよう、小説形式で解説しています。

内定をもらえた企業になんとなく入社、やりたいことが見つからない26歳の会社員・藤原大紀は"カリスマギャル"の高萩さんに導かれて少しずつポジティブになっていくが.......。本稿では、苦手な先輩との関係に悩む藤原大紀と高萩さんのやりとりをご紹介します。

※本稿は赤荻瞳著『平凡な会社員がギャルに出会って人生変わった話』からの抜粋です。

 

達成できたことを可視化する

あらためて挙げてみると、自分は本当にこんなにたくさんのことに挑戦できていたのか、とにわかには信じられないような気持ちになる。

「けっこうえらいじゃん」
口にしてみると「達成した」という実感が湧いてくるようだった。

どうせならもっといいものを買ってくればよかったかもしれない、と大紀はキッチンに目を向け、帰りに買ってきた割引弁当の袋を見て思う。まだ週の半ばだけれど、こんなにいろいろなことを達成できたなら、ちょっと贅沢をしたい気分だった。

ひとまずご飯でも食べようと弁当をレンジに放り込んでから、再びノートに目をやる。すると、ふいに「たか主任」のことが思い出されて、ため息が出た。

......あの先輩とは、いまだにきちんと話せたことがない。 

繁忙期のせいか、最近のたか主任はいつになくイライラしているようだった。

キツい口調で指示されるのが嫌で、ペン先輩やウサさんと話せるようになってからも、たか主任とのやりとりはチャットに頼ってしまっている。

このままではいけないと思ってはいるものの、たか主任を前にすると「苦手だ」という意識が働いて、いつも頭が真っ白になってしまうのだ。

まずは、自分の中にある苦手意識をどうにかしないと......。

弁当はとっくに温め終わっていたが、ヒントを求めて、しばらくノートと向き合い続けた。

 

好きの反対は「ウケる」

『―それで、また連絡をくれたんですね!』

数日後、仕事を終えて帰宅した大紀は、高荻さんと再びオンライン会議をしていた。

いろいろ試してみたものの、心の中にある「たか主任」への苦手意識は一向に解消されなかったからだ。

声をかけたほうがスムーズに仕事が進む場面でも、たか主任が相手となるとチャットに頼ってしまう。業務にタイムロスが生まれることもあり、これはよくないとまた相談をお願いしたのだった。

『はい。職場にどうしても苦手な人がいるんですけど、どうしたら声をかけられるようになれるかなと思って......』

簡単にたか主任のことを説明すると、耳に装着したイヤホンから『あー、なるほど』と何かを察した声が聞こえてくる。
『わかります。いつもピリピリしてる人ってイヤですよねー』

『そうなんです。だから、つい話しかけないようにしてしまいがちで』

『かといって、同じ部署だと関わらないわけにもいかないですもんね』
画面の奥でノートをめくりながら言う高荻さんに、大紀はうなずく。

なにかいい対策はあるだろうか。期待して待っていると、高荻さんは顔を上げた。
『でも、苦手だからって「この人のことは嫌いだ!」ってすぐに拒否っちゃうのは、かなりダサいなーって思います』

『いや、嫌いとまでは』

『藤原さんがそうだって言ってるわけじゃないですよ! そういう人もいるよねって話です』

『そ、そうですか』
たか主任のことが嫌いになりつつあった自分の気持ちを見抜かれているようで、大紀は恥ずかしくなる。でもたしかに、「ダサい人」にはなりたくない......。

『じゃ、じゃあ、高荻さんは苦手な人が現れたとき、どうするんですか?』

『私の場合は、好きの反対は「ウケる」だなって思うようにしてます!』

......ウケる?

『えっと、それってどういうことですか?』

『苦手だなーって思う人がいたら、この人の考え、自分と違いすぎておもしろいなって考えてみるんです。好きでも嫌いでもなくて、よくわかんなすぎてウケる、って気持ちで接してみると、案外うまくいくんですよ』

そんな感じでいいのだろうか。大紀は試しにたか主任のことを考えてみるが、どうにも苦手意識が先行してしまって、「よくわかんないけどおもしろい」とは思えそうになかった。
『ちょっと、すぐにはできなさそうです』

『こればっかりはクセですね。藤原さんがこれまで言い換えで自分のマインドを変えてきたのと同じように、まずはなんかウケるなー、興味深いなーって部分を見つけるクセをつけていきましょう!』

『つまり、何回もやってみるしかないってことですね』
改善方法がわからないのなら、とにかくトライしてみるしかない。いつからか、大紀の中には「とにかくやってみる」という前向きなマインドが芽生えていた。

やってみて、ワンチャン成功したらラッキーだ。

そんな大紀の姿に、高荻さんは「おお!」と驚いた声を上げる。
『藤原さんの口からそんな言葉が聞けるなんて、なんだか感動しちゃう!』

『そうですか?』

『そうですよ! きっと、これまで達成してきたたくさんのことが今の藤原さんの自信につながっているんですね!』

考えてみれば、「やるしかない」という考えの根源には、「以前もどうにか成功できたから大丈夫」という過去の体験が詰まっている気がする。特に、自分から動いて総務部のふたりと話せるようになった経験は、大きな自信につながっていた。
『全部、高荻さんのおかげです』

『そんなことないですよ。方法を知っていても、実行しなかったらなにも起きませんから。ぜーんぶ藤原さんの行動の結果です!』

『あ、ありがとうございます......』
照れくさくなって、カメラから視線を反らす。

すると、高荻さんは思い出したかのように、そうそうと続けた。
『その素直さが、藤原さんのいいところですよね』

『素直さ?』

『私、藤原さんの強みは素直なところだと思うんですよ! まずは素直に話を聞いてみる、言われたことを素直に取り入れてみるって、なかなかできることじゃないし』

『そういうものですか?』
大紀としては、自分の考えよりも人から言われたことのほうが正しい、と思って従っているだけのつもりだったが、高荻さんは「そうですよー」と肯定する。

『藤原さんの中ではそれが当たり前になってるかもしれないけど、全員ができることじゃないですから。その素直さがきっと、役に立つときがくると思いますよ』

『覚えておきます』

『うんうん、素直ってそういうところです。大丈夫、今の藤原さんなら苦手な先輩ともうまくやっていけますよ!』

高荻さんと話していると、やはりなんでもうまくいくような気がしてくる。
『はい、やってみます!』
力強くうなずいて、高萩さんとの通話を終えた。

兎にも角にも、自分の中にある苦手意識をどうにかしなければ、話しかける勇気なんて持てるはずがない。まずは、たか主任に興味を持つところからだった。

先ほどメモした内容に目を向けると、勇気が湧いてくるのを感じる。
よし、やるぞ。大紀は自分に言い聞かせて、明日の準備をした。

関連記事

アクセスランキングRanking