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PHPオンライン編集部
2025年07月28日 公開 2025年12月04日 更新
筑波大学附属中学校2年生の生徒たち
「ドナルド・トランプ氏のような人物の言動を、子どもたちはどう理解すればいいのか?」「複雑な世界情勢に興味を持たせるには?」――。
ジャーナリストの池上彰さんと増田ユリヤさんによる書籍「池上彰と増田ユリヤのYouTube学園特別授業 ドナルド・トランプ全解説」(Gakken)が、6月5日に緊急発売されました。長年にわたりアメリカ大統領選を取材してきた両氏が、ドナルド・トランプ氏について多角的に解説しています。
7月10日、筑波大学附属中学校で、この本を教材とした特別授業が行われました。事前に本書を読み、トランプ氏の動向を追うなどして授業に臨んだ生徒たちは、両氏に多くの質問を投げかけました。授業を終えたばかりのお二人に、教育をテーマにお話をうかがいました。(※授業の様子はYouTubeチャンネル「池上彰と増田ユリヤのYouTube学園」にて公開されています)
トランプ政権の誕生や、イスラエル・ガザの戦争、ロシア・ウクライナの戦争など...目まぐるしく変化する世界情勢に対して、子どもたちに関心を持ってもらうにはどうしたら良いのでしょうか。
池上さんは、トランプ大統領のような人物の言動についてのニュースが最初のきっかけになるのではと語ります。
「"なぜこの人はこんなことを言うんだろう?"という素朴な疑問から、"なぜ当選したんだろう?"と掘り下げていく。そうすることで、日本だけの考え方ではなく、世界には多様な考え方の人がいることに気づかせることができると思います」
増田さんは長年取材を続けてきた自身の経験から、「私たちが、正しい、こうあるべきと思っていることが、他の国の人々にとってはそうではないと知ることが大切です」と語ります。
「トランプさんのニュースはもちろん、例えばイスラエルとガザのような問題が起きたときに、"なぜこんなことが起きるんだろう?"と一つひとつ紐解いていってほしい」お話されました。
ニュースを見て生まれた素朴な疑問が、世界情勢への関心を深める第一歩になるのかもしれません。さらに、日本の政治に関心を持つための最初のステップとしては、池上さんは、選挙を身近なものとして捉えさせることを提案します。
例えば、子どもを投票所に連れて行き、朝一番で投票箱の中が空であることを確認させる案を挙げました。
「海外だと、最初から独裁者の票がいっぱい入ってたりするところがあるわけですよ。 だから日本はそうじゃないんだよということを教える良い機会になります」(池上)
増田さんは、国ごとの投票方法の違いを例に挙げました。日本では投票用紙に候補者の名前を書くのが一般的ですが、これは国民全員が読み書きできることを前提としています。一方、フランスでは透明な投票箱が使われたり、東南アジアやインドでは識字率の低い地域のために、バラやゾウなどのシンボルマークで候補者を選ぶ国もあるといいます。
「フランスでは文字を書かなくていいんです。 名前が書いてあるカードを何枚取っても良くて、カーテンの向こうに行って、封筒にカードを1つだけ入れて透明な箱に入れる。そして他のカードはゴミ箱に捨てる、というシステムなんです。それぞれの国で投票の仕方ってこんなに違うんです」(増田)
こうした身近な体験や世界の事例を知ることで、子どもたちは自然と社会の仕組みや、日本が当たり前だと思っていることが、実は世界的に見て独特なことであると気づくきっかけになるかもしれません。
また、国内外の情勢を理解し、自分なりの意見を持つことも非常に重要です。
池上さんは、海外では発言しなければ「何も考えていない」と見なされ、露骨に見下されてしまうと指摘します。日本人は多くのことを考えているにもかかわらず、発言しないために誤解されてしまう。世界で生き抜くためには、積極的に発言する「言ったもん勝ち」の姿勢が必要だと述べました。
増田さんは、周囲の声の大きい意見に流されてしまう危険性があるため、子どもたちに「何が大事だと思うか」という自分なりの視点を持ってほしいと語ります。例えば、イスラエルとガザの紛争のような問題を見たとき、「どのような問題意識をもってそのニュースを見るか」、自分なりの考えを持つことが重要だと訴えました。
特別授業の様子
池上さんは、日本の教育システムについて「小・中・高までは、世界のトップクラスの教育が行われていると思いますよ。 大学で一挙に抜かれるんですよ(笑)」とユーモアを交えつつ、日本の基礎教育を高く評価しました。
人間として必要なことをまんべんなく学べる優れたプログラムが組まれている点や、教科書、学習指導要領が明確な目的を持って作られている点は高く評価できるポイントだといいます。
増田さんは、給食やお掃除といった日本の学校ならではの教育にも言及しました。特に給食は「世界に冠たるもの」であり、法律に基づいて栄養バランスが考え抜かれている点は素晴らしいものだといいます。
フィンランドの無料の給食と比較し、日本の給食は多少費用がかかるからこそ、その質が担保されていると述べ、無償化だけが必ずしも良いことではないという見解を示しました。
「フィンランドの学校に取材に行ったときに、池上さんが大きな声で"これしかないの!?"って言ったんです。恥ずかしいからそんなこと言わないでって思ったんですが...(笑)」と当時の心境を明かしつつ、フィンランドの給食の実態を語りました。
「ポテトを炒めたようなものと、小さなクラッカーが一枚、それに牛乳だけだったんです。もちろん、色々な人種や、宗教の方がいらっしゃるので、ベジタブルのメニューなんかは備えてあるのですが。そういった実態もありますから、必ずしも無償だから素晴らしいとは言えないのかもしれないと思っています」(増田)
また、近年、急速に進むAIの進化は、日本の教育にも大きな変化をもたらしています。長年、教育現場を見つめ続けてきた池上さんと増田さんに、AIの導入についての考えもお聞きしました。
増田さんは、ある教師から「AIを使えば、生徒の評価を5分で済ませることができる」という話に感心したといいます。AIによって教師の時間的負担が軽減され、他のことに時間を割けるようになっていることを実感したそうです。
「新しいものに関してはやっぱりやってみないと分からないから、どんどん使ってみたら良いと思います。トライアンドエラーで、最初から100点満点を求めず、50点ぐらいあればいいという姿勢で使ってみることが大切だと思います」(増田)
池上さんは、AIが「ハルシネーション(でっち上げ)」をすることがある点を指摘。子どもたちに「チャットGPTが正しい答えをするとは限らない」ことを自覚させ、その使い方を考えさせる必要があると語りました。また、AIへの「プロンプト(質問の仕方)」によって答えが大きく変わることも伝え、実際にAIを体験させることで、その付き合い方を学ばせるべきだと提案しました。
「プロンプト(質問の仕方)によって、答えが全く違うわけですよね。 同じようなことでも、質問の仕方によってすごく浅い答えが来る時もあれば、深い答えがくる時もある。実際にAIを使わせてみて、付き合い方を考える必要があるのかなと思います」(池上)
(取材・執筆:小林実央)
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トランプは、世界を混乱させるトリックスターか? それとも平和の救世主か? トランプを知れば、世界の行方が見えてくる! 混迷の時代を読み解く答えがここにある! ジャーナリストの池上彰と増田ユリヤが、現代の世界を取り巻くさまざまな問題をわかりやすく読み解くYouTubeの人気コンテンツ「池上彰と増田ユリヤのYouTube学園」から生まれた本書は、トランプのアメリカと世界をめぐる、書籍版の「特別授業」です。
池上彰(ジャーナリスト)
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