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オノマトペの多用は逆効果 “温度感が伝わる文章”の技術

茨木彩菜(文章コンサルタント)

2025年09月01日 公開

温度感の伝わる文章とは、どのようなものを指すのでしょうか。文章コンサルタントの茨木彩菜さんは、ただ事実を伝えるだけでなく、温かさや親しみ、情熱など書き手が意図する温度が伝わる文章だと語ります。

茨木さんの著書『文才ゼロでも書ける人になれる「国語力」の磨き方』より、温度感を伝えるための技術の身につけ方に関する一節をご紹介します。

※本稿は、茨木彩菜著『文才ゼロでも書ける人になれる「国語力」の磨き方』(インプレス)より内容を一部抜粋・編集したものです。

 

温度感のある文章は「技術」で書ける

温度感のある文章とは、読者が文章から感情や雰囲気を感じ取りやすいものを指します。ただ事実を伝えるだけでなく、温かさ、親しみ、情熱、優しさ、冷静さなど、書き手の意図する「温度」が伝わる文章です。

【例】
今日、雨が降った。

今日の雨はしとしとと静かで、冷たい空気が心まで染み込むようだった。でも、その中でふと傘に落ちる雨音が心地よくて、不思議と安心感を覚えた。

●温度感が求められる場面

・SNS投稿:フォロワーとの心の距離を縮める。
・広告コピー:商品やサービスに感情的な価値を感じてもらう。
・ブログ記事:読者に親近感を与え、共感を生む。
・エッセイや小説:読者を物語の世界に引き込む。

●読者の隣で話しかけるような文章

書き手の温度が伝わる文章は、どのように書けばいいのでしょうか。一般的なライティング記事で求められるのは、事実を分かりやすく伝えた文章で、温度感が求められることはほぼありません。文末に「♪」を付ければ少しはポップに見えますが、温度感とは違いますよね。

温度感は、親しみやすい文章に感じるもの。親しみやすさの1つは、距離です。読者の隣から話しかけるイメージで、言葉を紡ぎます。

学校の授業では、先生はほとんど黒板の前にいます。後ろの席に座る子からは遠く、話も入りにくい。そんなときは、どうすればいいのでしょうか?壇上から降りて、聞いてほしい子の隣まで行き、目線を合わせるのが大切です。

こちらは立って、相手が座っていると、上から目線になっていかにも先生っぽい説明文章になりがちです。隣まで行って、膝を折る。同じ目線で、「こんなこと困ってない?」と語りかける。会話のキャッチボールができるように、問いかけたり、共感を促したりするのも、欠かせないポイントです。

 

五感を活かした情緒的な描写

温度感を上げるには、描写の観点として五感を使います。短歌や詩、歌詞にも五感はよく使われ、共感を高めたり、想像力を広げたりするのに効果的です。

「街の風景を描写してみて」と言われたとき、視覚や聴覚はすぐに思い浮かびますが、触覚や嗅覚って結構難しいですよね。

まずは食事をするときに、テレビやスマホをオフにして目の前の料理に集中しましょう。すぐに食べるのではなく、料理が置かれた状態から視覚・嗅覚などを働かせてみてください。私のおすすめは、外国人になったつもりで納豆を食べてみること。食べ慣れているものこそ、どんな味、食感がするのかを意識してみると、いつもと違う発見があるでしょう。

・視覚...色や形、大きさなど見えるもの
【例】太陽が若葉を照らす。

・聴覚...音や声、静けさなど聞こえる音
【例】川のせせらぎが聞こえる。

・嗅覚...食べ物の匂いや花の香りなど匂い
【例】金木犀の香りが漂ってくる。

・触覚...温かさ、冷たさ、柔らかさなど触った感触
【例】ふかふかの芝生に寝転がる。

・味覚...食べ物や飲み物の味わい
【例】甘いチョコレートが口の中で溶ける。

五感を活かした文章は臨場感を与え、物語に引き込みます。

五感描写が美しい作品で、中学国語でも定番のヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』をご紹介します。ぜひ一度、音読してみてください。

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今でも、美しいちょうを見ると、おりおり、あの熱情が身にしみて感じられる。そういう場合、僕はしばしの間、子供だけが感じることのできる、あのなんとも言えない、むさぼるような、うっとりした感じに襲われる。(中略)強く匂う、乾いた荒野の、焼けつくような昼下がり、庭の中の涼しい朝、神秘的な森の外れの夕方、僕は、まるで宝を探す人のように、網を持って待ち伏せていたものだ。
̶̶ヘルマン・ヘッセ著高橋健二訳『ヘッセ全集2車輪の下』1982年新潮社
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味覚...「むさぼる」とは食べ物を過剰に食べる際に使われることの多い表現です。限度を知らない食欲をちょうの収集に夢中になる少年の姿に例えています。

嗅覚...「荒野」とはほとんど人が住んでいない、荒れた土地のことを指します。植物がまばらにしか生えていない砂漠のような地帯で、土や砂の乾いた香りを表現。

視覚・触覚...日差しの強さを「焼けつく」と表現することで、視覚だけでなく、触覚としても訴えます。続く「神秘的な森の外れ」は「荒野」との対比表現です。森といえば緑が溢れ、水も豊かな場所。少年はちょうの収集のため、荒野だけでなく森にも赴く。どれだけ熱がこもっているかが、情景描写からも伝わってきます。

聴覚...「神秘的な」という表現からは、静けさを感じられます。また「森の外れ」「夕方」と書くことで、よりひっそりとした静かな舞台を演出していますね。

このシーンは、ライティングの教材として真っ先に思い浮かぶほど、印象的なものです。俳句や短歌の指導においても、「五感を取り入れる」と教えられますが、私は「触覚」が特に難しいと感じていました。ですが、『少年の日の思い出』を読むと、空気や温度のような手に取れないけど感じるものも触覚になるのだと気づきます。

 

オノマトペの活用法

情景や五感をより表すには、オノマトペを使ってみませんか?オノマトペとは、物事の音や動き、感情、状態を音声的に表現する言葉です。擬音語や擬態語に分類され、日本語特有の豊かな表現力を持つ言葉です。

擬音語:音を表現する言葉
【例】
・雨がザーザー降る
・雷がドーンと落ちた
・時計がカチカチと鳴る

擬態語:音以外の状態や感情、動作を表現する言葉
【例】
・ふわふわの綿あめ・じっくりと計画を練る
・そわそわと動く

 

オノマトペの3つのメリット

①読者にイメージを具体的に伝える

オノマトペは、感覚や情景を直感的に伝える力があります。単純な説明よりも、音や感触をそのまま読者に想像させる効果があります。

【例】
「風が吹いていた」

「ビュービューと風が吹いていた」

②情感を引き出す

文章にオノマトペを取り入れると、感情や雰囲気を豊かに表現できます。特に、読者の感覚に直接訴えかけることで、共感を得やすくなります。

【例】
「子どもが走る」

「子どもがパタパタと走る」

③リズム感を生む

オノマトペを活用すると、文章にリズムが生まれ、読みやすくなります。軽快なテンポや緩急をつける効果があります。

【例】
「雨が降り続いている」

「ぽつぽつと雨が降り続いている」

 

オノマトペを使う際の3つの注意点

①使いすぎに注意する

オノマトペが多すぎると、文章が軽く感じられることがあります。バランスを意識して使いましょう。

【悪い例】
このリップはつけた瞬間、ぷるんっとツヤツヤ!するする〜っと伸びて、スーッと馴染むから、メイク初心者さんでもラクラク。発色もキラッとしていて、顔がパッと明るくなります。キュンとする可愛さ、ぜひ体験してみてください。

この例の問題点は、「ぷるんっ/ツヤツヤ/するする〜/スーッと/キラッと/パッと」など、オノマトペが多すぎて、説得力に欠ける点です。

【改善例】
このリップはひと塗りで自然なツヤが生まれ、なめらかに唇に馴染みます。軽やかなテクスチャーでべたつきがなく、普段使いにも最適です。深みのある発色が、顔全体の印象をやわらかく整えてくれます。

改善のポイントは以下です。
・感覚的な語を具体的な質感や効果に置き換えた(「ぷるん」→「自然なツヤ」、「するする〜」→「なめらかに馴染む」など)
・商品の使用シーンがイメージしやすく、購入後の自分を想像できる言葉に。

②文脈に合ったものを選ぶ

ビジネス文書や正式な文章では控えるなど、読者の対象や文章のトーンに合わないオノマトペは控えましょう。

例としてビジネスメールを想定した文章を用意しました。

【悪い例】
新サービスについてのご説明がスムーズに進み、ホッとしました。資料をぎゅっとまとめているので、ぜひご活用いただけると嬉しい限りです。次回はもっとワクワクする提案をご用意いたします。

この例の問題点は、「ホッとした」「ぎゅっと」「ワクワク」などオノマトペの多用で、丁寧さや礼儀に欠ける点です。

【改善例】
新サービスのご説明が円滑に進み、安堵しております。資料もご活用いただけたとのことで、大変嬉しく思います。次回はよりご期待に添えるご提案を準備してまいります。

改善のポイントは以下です。
・「ホッとしました」→「安堵しております」
・「ワクワクするような提案」→「ご期待に添えるご提案」
語彙を丁寧語や敬語に変えて、礼儀を優先した文に修正しています。

③具体性を失わないようにする

オノマトペだけに頼らず、必要に応じて具体的な描写も加えると効果的です。
【例】
「水がバシャバシャと跳ねた」

「水がバシャバシャと跳ね、靴が濡れた」

 

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