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部下が「パワハラ」を訴えたのに...感情的に怒鳴った課長が懲戒を免れた背景

村井真子(社会保険労務士)

2025年09月29日 公開

「ぬるい職場」では、客観的にハラスメントとは言えない状況でも、労働者が過剰に被害意識を抱いたり、労働者としての義務を果たさないまま権利ばかりを主張する傾向が見られます。その結果、やる気のある社員が浮いて離職したり、温度差からトラブルが生じる悪循環が起こりやすくなります。

本稿では、そんな「ぬるい職場」で発生した実際の複数の事例をもとに匿名化・再構成したご相談に基づき、その特徴とリスクを書籍『職場問題ハラスメントのトリセツ』より解説します。

※本稿は、村井真子著『職場問題ハラスメントのトリセツ ~窮地の前に自分を守る、取るべきアクションと相談のポイント』(アルク)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

感情のコントロールが下手な人

感情のコントロールが苦手な人や下手な人は、自分の感情のままに衝動的に行動したり、攻撃的な言葉を口走ることがあります。本人が悪気なく行っている場合でも、職場内での信頼関係の低下や、組織全体の職場環境の悪化を招くことになりかねません。

相手の感情をケアする前に、自分を責めることで謝罪を忘れたり、逆に勢いづいて暴言を重ねるなど、二次的な被害を生みやすいのも特徴です。また、自分の感情を周囲にアピールするかのように発散することで、周囲に困惑や不安を与え、威圧していると受け取られる場合もあります。

[典型的な行動例]
▼突発的な暴言や、衝動的にモノにあたることがある。
▼感情の起伏が激しく、周囲に気を遣わせる。
▼自分の非を鑑みず、自分にそのような感情を持たせた相手が悪いと考える。

 

気が高ぶって、怒鳴ったり大声を出す上司

[相談]
決算期前の繁忙期に、経理課の課員が長期入院することになりました。その補充として異動してきた社員のミナミさんと課長との間のトラブルについて相談します。経理課長のサダさんは明るくて面倒見のいい人なのですが、ときどき衝動的に大きな声を出すことがあります。本人もハッとするようで、すぐに私たちに謝ってきます。

ところが、ミナミさんが異動前の上司に相談したらしく、パワハラ疑惑が出ています。課長もミナミさんに対して「そんなことまでいちいち聞かないで」とか、「この間も同じことを注意したでしょう」といった感情的な対応がありました。

でも、ミナミさんも何度も同じミスをしたり、勝手に書類を処分したりと問題がないわけではありません。私から見ても、課長が怒るのは当然に感じます。それでも課長は、パワハラをしたことになってしまうんでしょうか? 

ミユキ(30代・女性)

 

ミユキさんやミナミさんは、従業員数500名ほどの映像製作会社に勤務しています。ミナミさんは総務課の所属でしたが、簿記の資格があったため、繁忙期の経理課に異動を命じられました。ただ、実務経験はなかったので、ミユキさんら他の社員がOJTを行いました。しかし、決算期前で忙しく、行き届いたサポートはできませんでした。

ミナミさんは休職中の社員の仕事を一部引き継ぎましたが、業務理解が浅かったため、質問すべき相手がわからず、頻繁に課長に尋ねました。けれども、多忙な課長からは丁寧な指導を受けることができません。課長以下全員が忙しいことがわかったミナミさんは、やがて自己判断で仕事を進めるようになりましたが、かえって課員の確認の手間を増やしてしまうことになりました。

ミナミさんは一生懸命に仕事をしていましたが、課長に「子どもじゃないんだから何度も言わせないで。バカなの。何度教えたらできるようになるの」と感情的に怒鳴られ、席を立たれたことで精神的に限界を感じ、元上司である総務課長に相談しました。

すると、総務課長がハラスメントではないかと疑問視したため、ミナミさんはハラスメント相談室で相談することになりました。相談室の社内調査の結果は次の通りです。

・ サダ課長がその発言をした事実はある。課内の複数の職員が現場を目撃しており、サダ課長も発言したことを認めている。
・ ミナミさんに引き継がれた仕事は、商業簿記ができれば難易度が高いものではなかった。しかし、ミナミさんの理解が浅く、仕事の精度は粗かった。そのため、サダ課長が何度も口頭やメールで指導した履歴がある。口頭での記録はないが、メールの内容は業務指導の範囲を逸脱したものではない。

課長はヒアリングにおいて、自分も余裕がなく、異動してきたばかりのミナミさんへの配慮が足りていなかったことを認めました。また、離席したのは開始時間が迫っていた会議に出席するためで、ミナミさんに対して他意はないこと、自分の不適切な言動について謝罪したいと伝えてきました。

ハラスメント相談室は調査にあたって、どのような発言がどのような状況下でなされたのかの事実を明らかにする必要があります。その事実認定をもとに、ハラスメントとして認定するかを検討するからです。

会社は「サダ課長からミナミさんに対する対応は不適切であった」と認めましたが、本人が強く反省していること、ミナミさんは何度も指導を受けているのに改善できていないこと、初歩的なミスを繰り返すこと、などの課題があったこともあり、課長がミナミさんへ直接謝罪することを条件に、懲戒処分は行わないことにしました。

これは調査中、課内からサダ課長をかばう声が多かったことも起因しています。パワハラの認定には「平均的な労働者の感じ方」が考慮されますが、今回は客観的に見て、「就業する上で、看過できない程度の支障が生じたとまでは言えないものだった」と言えます。ミナミさん本人は強いストレスを感じていますが、パワハラにはあたらないというもので、この事例には「ぬるい職場」の特徴がよく表れています。

 

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