日本の農業に「ギガファーム」時代が到来? 農地集約で進む規模拡大のリスク
2025年12月08日 公開
高齢化の進行や後継者不足、拡大する耕作放棄地――。日本の農業が抱える課題は、ニュースやSNSでも頻繁に取り上げられています。では、そうした厳しい現状の中で、実際の農家や農地はどのように変化しているのでしょうか。
本稿では、ジャーナリスト・山口亮子さんの著書『農業ビジネス』をもとに、農地の集約化や大規模化の動きを解説します。
※本稿は、山口亮子著『農業ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
珍しくないメガファーム、常識になるギガファーム
「メガファーム」という言葉があります。日本の農家の7割が生産するコメを例にとると、一般的に100ヘクタール以上を耕作する農家を指します。学校の運動場1面がだいたい1ヘクタールなので、大変な広さです。かつてメガファームはほとんど存在せず、珍しいからこそ、この呼び名が使われました。
ところが、そもそも規模が段違いに大きい北海道はもちろん、東北や北陸でもいまや、この規模の農家が珍しくなくなっています。1000ヘクタールに迫る農家も現れて、業界関係者から「100ヘクタール程度でメガファームと呼んでいいのか」という声すら上がるくらいです。
水田作の規模拡大は、目を見張るものがあります。先見の明のある農家は、高齢な農家の離農によって農地が否応なしに集まる将来を見据え、倉庫や乾燥調製施設などの設備をあえてオーバースペックに作っています。巨大な建屋のごく一画に、コメやムギ、ダイズなどに対応する穀物乾燥機が置かれ、あとはがらんどう。そんな倉庫を各地で目にしてきました。
ただ、農地の集約にブレーキをかけかねない不安要素もあります。
まずは、規模拡大してもスケールメリットが得られず、作業の効率や収益が上がらなかったり、むしろ悪化したりするという落とし穴が挙げられます。
日本は1人の地権者が持つ農地が狭いうえに点在しがちです。そのため、大規模な農家が耕作する水田が面的につながらず飛び地になる「分散錯圃(さくほ)」が起きやすいのです。遠く離れた農地に農機を移動させるのに時間がかかり、効率が悪くなりやすい状況があります。
加えて、労働力を確保するには雇用が必要ですが、コメが中心だと冬場の仕事がありません。その間も人件費がかかり、収益が悪くなるという問題もあります。
メガファームという呼び方は酪農でも使われます。一般的に、生乳生産量が1000トン以上で、乳牛を100頭以上飼う経営を指します。北海道ではメガファームが珍しくなくなり、さらにその10倍である1万トン以上の生乳を生産する「ギガファーム」まで出現しています。
わずか1農場で、1つの県を超える生産規模を誇ると言えば、その巨大さが実感できるでしょうか。2021年の生乳生産量でいうと、東京、福井、大阪、和歌山の4都府県は1万トンを下回っているのです。
規模拡大のリスク
規模拡大による経営の効率化が進み、北海道の酪農の労働生産性は、本州以南よりも高くなっています。ただし、規模拡大はよいことばかりではありません。ひとたび経営が悪化すると、甚大な影響が出ます。
典型的なのが、酪農と肉用牛の両分野で全国2位の規模に成長したノベルズグループの経営悪化です。十勝地方の上士幌町に本社を置く農業法人の株式会社ノベルズは道内と山形県に15の牧場を持ち、約660人の従業員が3万3000頭を飼うギガファームです。
飼料の高騰や肉牛の価格の下落で経営が悪化し、2023年に官民出資ファンド「地域経済活性化支援機構(REVIC)」から25億円の出資をはじめとする再生支援を受けることになりました。
「機構は『日本の食料自給率を下支えする重要な事業者』などとして支援を決めたとしている」と朝日新聞(「官民ファンドが大規模畜産グループの再生支援 北海道・十勝」同年12月9日)は報じています。
経営規模がここまで大きくなると、経営を継続するか否かは単なる経営判断ではなく、政治的な判断にすらなるわけです。
農業はもともと家族経営が基本です。それが近年急速に離農が進み、放出された農地を吸収する形でメガファームやギガファームが現れています。
こうした経営は、家族経営や何軒かの農家が一緒に行う共同経営をベースにすることがほとんどです。経営の内実を生産規模に見合った水準に高めるのは、簡単ではありません。
経営に行き詰まる農業法人が増え、M&Aが増えている現実があります。