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鮮度の心配はもはや不要? 「輸入野菜」が急速に進化している背景

富永浩司(富永商事株式会社CEO)

2024年01月19日 公開

農林水産省が発表した「野菜をめぐる情勢」(令和5年7月)によると、令和2年の野菜の国産生産量は1144万トン、輸入量は298.7万トンで、輸入野菜が全体の約2割を占めた。また、輸入量のうち生鮮野菜の割合は23%で67.9万トンとなっている(そのうち、玉ねぎ、カボチャ、人参、ネギ、ごぼうの5品目で約7割)。

この量を多いと見るだろうか、意外に少ないと見るだろうか。

「輸入野菜」と聞くと、「新鮮ではない」「残留農薬が多い」などのイメージを持つ人もいるが、青果の輸入や海外市場の開拓などの事業を展開する富永商事の富永浩司社長によると、それは今や昔の話。輸入野菜は国産野菜より品質が高いものが増えているという。

 

外国の生産者は生産技術の向上に熱心

――統計を見ると、近年、野菜の輸入量は減少傾向にあるようですが、それはどうしてなのでしょう?

確かに数字だけで見ると輸入量が減っているのは事実ですが、以前に比べて輸送途中でダメになってしまう野菜が大幅に減っているので、日本の消費者の手元に届く量まで減っているわけではありません。

これは、輸入する際に野菜を運ぶコンテナの温度調節技術やCA輸送(CA=Controlled Atmosphere。庫内を低酸素、高二酸化炭素状態にすることで野菜を冬眠状態にして、鮮度保存期間を延長)が使われているため、歩留まり率が高くなっているからです。そのため輸入量は減っていても、国内での消費量はむしろ増えていると思います。

スーパーのような量販店は国産野菜を仕入れることが多いですが、全体的なマーケットとしては輸入野菜のほうが伸びています。円安の影響で輸入野菜の価格が国産野菜に比べて高くなっていますが、それでも輸入野菜のほうが売れているという感覚が私にはあります。

――輸入野菜は国産野菜より品質が高いものが多くなっているということですが、それは本当なのでしょうか?

日本は数多くの小さい農家が生産しているので、野菜の品質がまちまちです。それに比べて輸入野菜は企業が大規模な農場で生産していて、1つの野菜につき日本に輸出している企業は5社前後しかありません。ですので、生産者の顔がよく見えるのは、実は国産野菜よりも輸入野菜のほうなんです。

また、昔の中国や韓国は、輸出する際に手前のコンテナにだけ品質のいいものを入れて、あとは質の低いものを入れてごまかすということをやっていましたが、今はどちらの国も野菜生産の技術力が日本より上になっているので、そういったことはやらなくなっています。

正直、輸入野菜の品質が上がっていて、国産野菜はそれに負けてしまっているのが現実です。

――野菜生産の技術力が上がっているというのは、どういうことなのでしょう?

簡単に説明するのは難しいのですが、例えば日本の野菜は基本的に国内消費がメインなので、採れてから1週間以内に消費されればいいという考え方で生産されています。

一方の輸入野菜は船で数週間かけて運んでくるので、収穫から2〜3週間たっても採れたて同様の品質になるように生産しています。しかも、それを大量に生産してコストを下げています。

このように、外国の生産者が高品質のものを生産するための技術向上に熱心に取り組んでいる一方で、日本はいまだに30年前と同じやり方で野菜作りをしています。

先ほど、1つの野菜につき日本に輸出している企業は5社前後しかないと言いましたが、これは、いい加減な野菜作りをしてきた企業はすでに淘汰されていて、この5社は常に技術革新をして生き残ってきた技術力の高い企業ばかりなのです。

例えばアメリカの農業などは、政府からの補助金もなしに自力で勝負をしていく世界なので、淘汰されて残る会社は多くありません。玉ねぎ農家はワシントン州の一番大きい産地でも5、6社しか残っておらず、どこも大規模で、そこの農業主は大手企業のオーナーのような存在になっています。

 

残留農薬の危険性は?

――輸入野菜というと、残留農薬の面で心配する消費者も多いかと思います。こちらについてはどうでしょう?

野菜が日本に輸入される際には厳格な基準があり、税関できっちりと検査して、残留農薬の基準が超えていると日本に入れることができません。ですので農薬の体へ影響の心配はありません。

外国から日本に野菜を輸出する企業にしても、残留農薬の量が一回でも基準をオーバーしてしまうと、その企業のビジネス自体が危うくなってしまうので、農薬の量についてはしっかりと管理しています。もちろん輸入野菜の全てを検査しているわけではありませんが、検査される割合は国産野菜に比べて輸入野菜の方がずっと高いのです。

また、湿度の問題もあります。野菜は一般的に暖かい時期に向かって成長していきますが、この時期に湿度が高いと、うどんこ病などの病気が発生しやすい。それを防ぐためには農薬をたくさん使う必要があります。輸入野菜の生産地は、一般的に湿度がそれほど高くないので、農薬の使用量は少なくて済みます。

それらを考えると、輸入野菜の残留農薬を心配する必要はないのです。

 

2024年には輸入野菜の価格も低値になる

――スーパーの野菜売り場に行くと、並んでいる生鮮野菜はほとんどが国産です。輸入野菜はどこで消費されているのでしょう?

日本の量販店は国産野菜を売りたがる傾向にあります。輸入野菜のうちの2割から3割が量販店消費と言われていて、残りの約7割は外食産業や食品加工メーカー、大手食品メーカーで使われています。

スーパーの売り場だけを見ていると国産野菜しか食べていないように感じられますが、実際には外食や加工食品などで輸入野菜もけっこう消費されているのです。

では、なぜ外食産業や食品メーカーが輸入野菜を使いたがるのか。それは品質と量、そして価格が安定しているからです。

品質については、先ほど申し上げたとおり、高い技術力で大量に生産しているので、品質と量にバラつきがありません。また、季節の変化によって異なる生産地から輸入するので、入ってくる量が安定しています。

価格に関しては、国産野菜の場合「収穫できたので来週の値段はいくらにしましょう?」というパターンで動きますが、輸入野菜は収穫の半年くらい前には価格が決まるので、外食産業や食品メーカーにとっては原料確保が早くできて、価格のブレも大きくないので、好都合なんです。

――今後、日本における輸入野菜の価格や輸入量はどのような動きになっていくと思われますか?

今は円安で、しかもウクライナ戦争の影響で原油価格が上がって輸送コストも上がったことで輸入野菜の価格が上昇しています。

その一方で、このところは世界的に見ると、野菜の消費が落ち込んで輸出入のマーケットが弱くなっているんです。そのため、生産国の農家がコスト割れの価格で野菜を出すようになっています。

なので2024年は、輸入野菜が以前よりも安い価格でどんどん日本に入ってくる状況になります。これまで野菜の価格は高い水準で推移していましたが、それも落ち着くのではないかと推測されています。それに合わせて、国産野菜も価格が下がっていくのではないかと思っています。

弊社が扱っている輸入カボチャなどは、もう絶対的に国内産よりもメキシコ産の方が美味しい。ですので、みなさんにできるだけ多くの輸入野菜を食べていただけたらと思っています。

 

著者紹介

富永浩司(とみなが・ひろし)

富永商事株式会社 CEO,代表取締役社長

兵庫県神戸市出身。2011年 関西学院大学を卒業後、父親が経営する富永商事株式会社に入社。2014年には3代目社長に就任する。2020年には富永商事ホールディングス株式会社を設立。青果関連企業の買収や海外拠点の設立によってグループを拡大し、海外の新たな市場開拓に尽力。青果の総合商社「世界のTOMINAGA」として、世界中の産地で育った旬な野菜を国内だけでなく、アジアの食卓に届けるために日々奮闘している。

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