えこひいきする上司、太鼓持ちの部下 「職場を憂鬱にする人」にどう対処する?
2025年10月22日 公開
あなたの職場にも、「この人さえいなければ...」と思う相手はいないでしょうか。メンタルヘルスの専門家・舟木彩乃さんによると、行政機関や企業で寄せられる相談の約9割は職場の人間関係に関するものだといいます。本稿では、「お気に入りの部下をえこひいきする上司」への対処法を、書籍『あなたの職場を憂鬱にする人たち』より紹介します。
※本稿は、舟木彩乃著『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(集英社インターナショナル)より内容を一部抜粋・編集したものです
自分が一番かわいい"えこひいき上司"
人間なので相性が合う合わないはあると思いますが、あからさまに特定の部下を"えこひいき"する上司が残念ながら一定数は存在し、職場を憂鬱にしています。部署の業績に貢献してくれる部下をえこひいきするのであればまだわかりますが、単に上司である自分を気持ちよくさせてくれるだけの"太鼓持ち部下"を可愛がるケースもあります。
皆さんがそういう上司の部下の立場であったとすれば、どうしたら良いでしょうか? えこひいきする上司に困っている部下の事例を通して、考えてみたいと思います。
小沢さん(仮名、男性30代)は、中規模の会社で企画を担当するチームに所属し、これまでいくつものプロジェクトを成功に導いてきました。真面目な性格の彼は、新企画を打ち出す際のマーケティングも緻密に行っていて、上司やメンバーからの信頼が厚く、頼りがいのある存在です。
小沢さんのチームは異動が少なく、これまでほぼ同じメンバーで仕事をしてきましたが、チームの責任者である上司が別部署に異動になったことで、新しい上司が来ることになりました。チームに新たに配属になった上司は、1年前に別業界からヘッドハンティングされたというDさん(女性50代)です。
彼女は、いかにも仕事への自信に満ちあふれているように見えるタイプで、自分への反論は許さないという姿勢が垣間見えることもよくありました。
チーム内で割合ざっくばらんに意見を言い合うような打ち合わせの場で、小沢さんが自分の考えを言おうとしたとき、「私が発言の許可を出すまでは話さないでください」と、Dさんに出鼻をくじかれたこともあります。かと思うと、Dさんのお気に入りの部下Eさん(男性30代)が、定例のオフィシャルな会議で彼女の許可なく発言しても、「なるほど、なかなか面白いわね」などと、笑顔で機嫌よく反応しているのです。
小沢さんは次第に、プライドが高そうで、あからさまに"えこひいき"するDさんに、苦手意識を持つようになり、必要最低限の言葉しか交わさないようになっていきました。
Dさんがチームの責任者になってから、仕事のやり方は大きく変わっていきました。たとえば、彼女の着任前は、仕事の割り振りや担当する顧客はチームのミーティングで決めていましたが、今ではDさんの判断ですべてが決められています。
Dさんによる一連の業務大改革で、一番影響を受けたのは他ならぬ小沢さんでした。時間をかけて苦労して信頼を勝ち取った大口取引先の担当が、Dさんの一存によって、小沢さんより実績が低いEさんに変更されました。
その代わり、小沢さんにはコスパの悪い仕事ばかりが回されるようになってしまいました。その件についてDさんに何度か相談しましたが、聞き入れてもらえるどころか、逆に関係が悪くなる一方だったそうです。
Eさんは、「Dさんのように、仕事ができて人間力も高い人に憧れます! どうしたらそんなふうになれるのか、よろしくご指導をお願いしたいです」などと、歯の浮くようなお世辞を言っては、Dさんに気に入られています。彼は、売り上げが大きそうな仕事や割の良い仕事ばかりを割り振られ、それなりに実績も上がり生き生きとしている様子です。
仕事ができる小沢さんだからこそ、難しい仕事を任せられているという解釈もできますが、結果としての実績だけで評価される部署でもあるため、公平性に欠けていると言わざるを得ませんでした。
ある日、担当の役員も参加して、大型の新規プロジェクトのリーダーを決める会議が開かれました。役員も含めてチームメンバーの多くは、これまでの業績や経験から小沢さんが適任だと思っていました。しかし、Dさんの口から出た名前は「リーダーはEさんでいきましょう!」でした。
驚いたメンバーの何人かは、「小沢さんのほうがこの手のプロジェクトの経験が多いと思うのですが」などと、Dさんの方針に異論をさしはさんでくれました。しかし、Dさんは「最近のEさんの業績には目を見張るものがある。今回のプロジェクトのリーダーとしても、どんな活躍をするか期待しています」と反対意見を一蹴し、役員に同意を求めました。
「Dさんがそこまで言うならE君に任せてみようか」と役員も同意したので、結局リーダーはEさんに決まり、会議後、納得のいかない表情を浮かべる小沢さんに同僚たちは同情を寄せていたということです。
えこひいきされている同僚をよく観察してみる
小沢さんの話を聞いていて、Dさんは部下を実力ではなく好き嫌いで判断し、部署を運営しているという印象を受けました。このような上司のもとで働くようになってしまった場合、部下はどのようにすればよいのでしょうか。
上司は、従順で自分の意見に対して否定しない部下を「信頼できる」と感じることがあり、その結果えこひいきが生まれることがあります。
これは、職場での安定(地位の安定など)を求める心理が働いているためで、Dさんの場合は、仕事ぶりが皆から評価されている小沢さんに対して、自分の地位が脅かされる危機感を抱いた可能性があります。それが「小沢さんを外し、従順なEさんを重用する」というえこひいきを生んだことと関係しているように思えます。
今回のケースでは、双方の心理的背景についても着目する必要があります。小沢さんとDさんは、心理学的には「嫌悪の報復性」という関係性にあるようです。
読者の皆さんにも経験があると思いますが、人間関係において、自分が"苦手"と思う相手に、いつの間にかネガティブな感情が伝わっていて気まずい関係になることがあります。そうすると、自分が苦手意識を抱いている相手が、自分に対して同じようにネガティブな感情を抱くことになります。その逆パターンとして、自分が好意を持つと、相手も好意を持ってくれる「好意の返報性」という関係性が生まれることもあります。
本事例のようなケースでは、「一致効果」を意識するとうまくいくことがあるかもしれません。アメリカの心理学者ジョナサン・コーラーは、相手の意見に合わせる人は、その相手から信用されやすいことを心理実験で明らかにし、「一致効果」と名付けました。実力に大きな差がなければ、自分のやり方に反対する部下よりも賛同する部下を引き上げたいと思うのは、上司の心理からすれば当然かもしれません。
なので、上司に反対意見を伝えるときは、「Dさんのものの見方や考え方は、とても勉強になりました」などと相手を尊重したうえで、「ですが、今回のケースは従来と違いまして......」と、控えめながらも自分の意見をしっかり主張するようにすれば良いでしょう。
ただし、「一致効果」に期待して、あまりに節操なく相手に合わせて自分の意見をコロコロ変えていると、時間の経過とともにそのことが裏目に出る場合もあるので、注意が必要です。
えこひいきされている同僚がいた場合、その同僚を単なる太鼓持ちだと決めつける前に、自分が気づいていない魅力や特技があるかもしれないと思って、よく観察してみるとよいでしょう。実力ゼロの人が、ご機嫌取りというだけで上司に気に入られることは、実際にはあまりないように思います。