英語の「ことわざ」で覚える英会話
2013年02月06日 公開 2020年08月20日 更新
ことわざには英語のエッセンスが凝縮されています!
最初に、忘れられないエピソードを1つ。
ハンガリー独立の英雄、コシュート・ラヨシュ(1802-94)が英語をマスターした驚くべき方法の話です。
彼は、監獄の中で、たった1枚の紙に書かれた英文を繰り返し読むことにより、英文法をあらかた身につけることができた、というのです。彼はこう書いています。
「私は英語の文法を、文字どおり発明しなければなりませんでした。シェークスピアの16行詩の中の言葉のあらゆる可能性を100万回繰り返し理解しました。すると、私の英語の知識は、あとは語彙を増やせばよいだけになっていたのです」
これは驚くべき言葉です。たった16行の英文を100万回読むことで、英文法をおおかたマスターできた、というのですから。
いまは、英語の参考書や教材が山のようにあふれています。私たちは次々に出版される書物に目を奪われ、1冊の本を読み終えることもなかなかできません。
英語には、こんなことわざがあります。
He who begins many things,finishes but few.
(たくさんのことを始める人は、ほんの少ししかやり遂げられない)
しかし、ラヨシュはたった1枚の紙切れに書かれた英文だけで、英語を深く学ぶことができたのです。
私はいまここに、英語のことわざの本をあなたにプレゼントしたいと思っています。なぜなら、ことわざには英語のエッセンスがぎゅっと詰まっているからです。
たった1つのことわざからも、じつにいろいろなことを学ぶことができます。実例をあげましょう。
It is never too late to learn.
(学ぶのに遅すぎることはない)
このことわざを、穴があくほど眺めてください。
この数単語のことわざのなかに、英語の重要な知識がたくさん詰め込まれていることがわかってくると思います。
ちょっと列挙してみましょうか。
(1)to learn は「to 不定詞(の名詞用法)」
(2)この文は「It ~ to …構文」
(3)「too … to ~」は「~するのに……すぎることはない」という重要表現
(4)never は「絶対にない」と〈頻度ゼロ〉を表す副詞
これだけではありません。
このわずか7単語の短い文から、「英語は文頭から語順どおりに読むべきだ」という英文理解の極意も学ぶことができます。
こんな感じです。
It is never(そういうことは絶対にない)
too late(遅すぎることは)
to learn(学ぶのに)
また、このことわざを覚えていると、いろいろなときに応用することができます。次のように。
It is never too late to learn a new language.
(新しい言語を学ぶのに遅すぎることはない)
It ls never too late to change your bad habit.
(悪習を直すのに遅すぎることはない)
It is never too late to show your gratitude.
(感謝の気持ちを伝えるのに遅すぎることはない)
いかがですか。たった1つのことわざから、これだけのことが学べるのです。この例から、ラヨシュが16行詩を100万回読むことで英文法を身につけたという話の信憑性を、少しは信じる気になれたのではないでしょうか。
本書で私は、たった1文からでも多くの利益を得られる「デリバティブ英語学習法」をあなたに伝授したいと思います。リスクなしの「ことわざ運用法」で、どうか莫大な知的財産を手に入れてください!
以上、英語をマスターするために、わざわざ監獄に入る必要はない、という耳寄りなお話でした。
では、内容の一部をご覧ください。面白いですよ。
達観のすすめ ~ 100年たったらすべては同じこと
【01】 Dying is as natural as living.
死ぬことは、生きることと同じくらい自然なこと。
■ことわざは達観する
人間、最悪の事態を予測すると、かえって開き直って強くなれるといいます。「どうせ人生なんてこんなものだ!」と達観すると、生きる意欲がムクムクと湧いてくるから不思議です。
ことわざには、そんな「逆転満塁ホームラン」的な名句がたくさんあります。「達観のことわざ」をいくつかご紹介しましょう。
(1)Dying is as natural as living.
(死ぬことは、生きることと同じくらい自然なこと)
人間の体は60兆ほどの細胞からできており、2カ月ほどでほとんどすべての細胞は更新されるそうです。つまり、われわれの人生は膨大な数の細胞たちの生き死にの上に成り立っているのです。それなのに、自分が死ぬときだけ大騒ぎするのが人間です。
従容とした態度で死に臨むイヌやネコを見ていると、われわれ人間と彼らと、どちらがより進化した動物なのかわからなくなることがあります。
(2)You cannot go to heaven unless you yourself die.
(死ななくては、天国に行くことはできない)
誰もが死ぬのを嫌がりますが、じつは死ななかったら大変なのです。ありとあらゆる病気をかかえて、なお死ねない――。あらゆる本を読み、あらゆる映画を見つくしたのに、まだ死ねない――。そうなったら、もう地獄の苦しみです。死んで地獄に行ったほうがマシなくらいです。それに、無事に死ねたら、天国に行ける可能性だってあるのです。
(3)It will be all the same a hundred years hence.
(100年経ったら、すべては同じこと)
2年前、母が亡くなって遺品を整理したときに、大量の写真が出てきました。親戚と思しき老女の写真が何枚も見つかりましたが、いまとなっては誰が誰やら皆目わかりません。一生懸命人生を生きたって、100年も経ったら、叔母さんなのか大叔母さんなのかもわからなくなってしまうのです。
私は、ことわざの第1の効用は達観をもたらしてくれることだと思います。人生3万日。一生のあいだに行う呼吸は3億回。人生の基本ルールは最初からおおかた決まっているのです。
私には、あと1万日ほどが残され、1億回の呼吸が許されています。そう思うと、1日1日を大事に生きよう、1回1回の呼吸を深く長く味わおう、という気持ちになります。
<復習コーナー>
穴埋めしながら音読してください。
(1)Dying is as natural as( ).
(2)You cannot go to heaven unless you yourself( ).
(3)It will be all the( )a hundred years hence.
【15】 Friendship is a plant which must be often watered.
友情は、しばしば水をやらねばならぬ植物である。
■ことわざはアナロジーが得意
日本にも「酒は百薬の長」など、お酒に関することわざがありますが、英語のことわざはちょっと趣が違います。
Wine is the glass of the mind.(ワインは心のグラスである)
いやー、趣がありますなあ。人はワイン片手に愛を語り、悲しみを語るものなのです。赤ワインには赤ワインの心、白ワインには白ワインの心があります。シャンペンでパーッと行きたくなるときもありますよね。今回は、アナロジー(類推)を利かせた、滋味豊かなことわざを何品かご賞味いただきます。
(1)Friendship is a plant which must be often watered.
(友情は、しばしば水をやらねばならぬ植物である)
有名になると、突然昔の友達が現われて、「小学校で一緒だった小林です」とか「中学でいじめられた木村です」などと言い寄ってくるそうです。ふだん音信のない遠い親戚がテレビに出て、「彼とは血がつながっているんですよ!」と自慢したりします。でも、本当の友情は、有名になろうとなるまいと関係なしに続く友情です。ただし、そんな本物の友情も、水をやらないで放っておくと枯れてしまうよ、というのです。
(2)The eyes are the window of the soul.
(目は魂の窓である)
なんて素敵な言葉なのでしょう。目は魂の窓なのです。目を適して魂をのぞき込むことができます。また、魂は目を通して世界を眺めます。窓は外から見るための穴でも、外を見るための穴でもあるのです。
ところで、英語の、window(窓)という単語は、もともとは「風の目」という意味だったそうです。いわれてみれば、どこから吹いてくるとも知れない風が、ふと家の中をのぞき込む、そんな目に見えないはずの情景が目に浮かびます。語源を調べると、あまりのイメージの鮮烈さにハッとすることがあります。
(3)Fish and guests smell in three days.
(魚と客人は3日目からにおいだす)
お客さんと魚をアナロジーで結んだことわざです。遠来の客は2日目まではガマンできても、3日目になると邪魔でしかたなくなる、というのですね。
こんな愉快なことわざもあります。The guest is dearest when he is leaving.(客は帰り際にいちばん親しみを覚える)。
<復習コーナー>
穴埋めしながら音読してください。
(1)Friendship is a( )which must be often watered.
(2)The eyes are the( )of the soul.
(3)Fish and guests smell in three( ).
晴山陽一
(はれやま・よういち)
英語教育研究家
1950年東京生まれ。早稲田大学文学部哲学科卒業後、出版社に入り、英語教材の開発、国際的な経済誌創刊などを手がける。1997年に独立。以後精力的に執筆を続けており、著書は100冊を超える。2010年4月より、ツイッターで「10秒英語塾」をほぼ毎晩開講。笑いに満ちたクイズ形式のレクチャーが注目を集めている。
主な著書に『英単語速習術』(ちくま新書)『英語ベストセラー本の研究』(幻冬舎新書)『たった100単語の英会話』(青春新書)『すごい言葉』(文春新書)『へタでも通じる英会話術』(PHP新書)など。