愛着に問題を抱え、苦しんでいる人には共通して「周囲にとても気をつかう」傾向があるといいます。他人には優しくできるのに、自分には厳しくしてしまう人に必要なセルフケアの方法について、書籍『大人の愛着障害』より解説します。
※本稿は、村上伸治 (監修)『大人の愛着障害』(大和出版)を一部抜粋・編集したものです。
不安定な関係性のなか、顔色を読み、注意を引こうとする
最初に母子間で愛着形成が行われるのは、3歳くらいまでの時期です。お腹がすいて泣く、乳をもらう、安心する、こうした要求と応答という母子間の相互のやりとりがベースとなります。このとき子どもは受けとるだけです。ギブアンドテイクでいうと、ギブする必要はないのです。
ところが、なんらかの原因でこの相互関係が不安定になると、情緒も安定しません。お腹がすいて泣いても、乳をもらえるときともらえないときがある。そこに一定のルールもない場合、子は混乱します。
ワンオペ育児をしている、母親になんらかの病気や障害があり、安定的な育児ができない、など原因はさまざまです。いずれにせよ、こうした不安定な関係性のなかで、生存をかけた要求を通すために、より一層親の顔色を読み、注意を引こうとします。
次第にそれは、他の人との関係にも応用されます。幼い頃から親にも周囲にも気をつかうことが習慣化するのです。
自分の内面が評価されているとは感じられない
愛着形成がうまくいかないと、自己がうまく確立できません。自己が不安定で空虚だと、つねに不安なまま周囲に気をつかい続けなければなりません。相手に気をつかい、つい「なにかしてあげなければ、ここにいてはいけないのではないか」と思うようになるのです。それによって感謝されても、あまり嬉しいとは感じられません。
ほめられているのは自分の内面(自己)ではなく、自分の外側(自分の行為)だと感じてしまいます。まるでメイクした女性が「美しいね。いいコスメ使っているんだね」とほめられるようなものです。
人にほめられるほど、それと引き換えに「もっとがんばらなくては」という気持ちが強くなり、心が満たされないまま、ひたすらがんばり続けることになります。
他人に寛容で優しくするのと同じだけ自分にも優しくしてみる
愛着に問題を抱えている人は、他人に優しく自分に厳しい......まるで、人に優しくする反動で自分を傷つけているかのようです。「自分を大事にすることは自己中」と思い込んでいるのかもしれません。
こうした思考パターンがいつ、どこで身についたのかを考えてみる必要があります。もちろん生まれながらの気質ということもあります。でも、もし幼少期に親や周囲の人から「人になにかしなければ、自分は存在する価値がない」などと言われていたならどうでしょう。
ほめられることに罪悪感を覚える、親にほめられると、反動で否定する言葉が浮かぶ、という人もいます。誰かに植えつけられた思考が習慣化し、素直に自分を大切にすることができなくなってしまったのです。
自分を他人より優先することが難しければ、少なくとも優しさを均等にふり向けましょう。他人に優しくしたら、それと同じだけ自分自身に「お疲れさま」「がんばってるね」と声をかけてあげてください。
自分自身をいたわる
愛着の問題を抱えている人は、心の奥底で「自分のことはどうでもいい」といって自分のケアを後回しにしがちです。しかし、自分自身をかわいがる「セルフケア」を怠ると、いずれ疲弊し、心と体の健康を保つことがで
きなくなります。
もし、他人には優しくできるのに、それを自分に向けることにためらいがあるなら、他人を許し、他人に優しくしてあげたことを、そのまま自分にも同じ量だけしてみてください。意識的に自分をケアする時間を徐々につくっていきます。
1. 自分の感情を認識する
自分の気持ちに正直になる。ネガティブな感情を無視せず、そこにその感情が存在することを認める。心のなかで「今日はちょっと疲れているな」「少しイライラしているな」と感じたら、その感情を言葉にしてみる。
2. いたわる時間をつくる
ベッドでゴロゴロする、好きな本を読む、どこかに行く、おいしいものを食べる、静かに音楽を聴くなど、自分がいま本当に望むことを少しだけやってみる。人の目を気にせず、人の期待を気にせず、ひとりで実行してみよう。
3. 自分に優しくする言葉をかける
自分を責めてしまいがちな人は、内なる声が自分の希望を非難することがある。自分を励ます言葉を意識的にかけることが大切。「昨日はがんばったから、休んでいいよ」といった言葉を自分に向けて言ってみる。