高学歴芸人として知られるお笑いコンビ・ロザン。漫才の構成を担う菅広文さんのコミュニケーション能力は、ファンやスタッフの間でも「人の話を引き出す力がある」と高く評価されています。その"菅さん流のコミュ力の使い方"を体系化した一冊『学力よりコミュ力』が、12月に刊行されました。
今回、菅さんにお話をうかがうと、「相手に同調しすぎると、会話が広がらない」という印象的な言葉が飛び出しました。
コミュ力が高い自覚はなかった。しかし宇治原さんは...
――本の中では「コミュ力を伸ばすには、話す力よりも聞く力が大事」と書かれていました。YouTubeなど拝見していても、菅さんは「引き出す力」「聞く力」がとてもおありだと感じます。ご自身では、そうしたコミュニケーション能力は、いつ頃どのようにして形成されてきたと思いますか。
【菅】どうなんやろう......。本にも書かせてもらったんですけど、僕、自分のことを「コミュ力が高い」とは思ってないんですよ。
だから、コミュ力が高いからこの本を書いた、と思われるのは、ちょっと恥ずかしいなと。
――あまり自覚はなかったのですね。
【菅】そうですね。でも、この本を出しますって周りに言うと、「ああ、コミュ力高いもんな」と言ってもらえることが多くて。
逆に「コミュ力の本、書いたらいいのに」と言われることもありました。新しい仕事が決まったときのお相手の方から、打ち合わせで何度かやりとりする中で言ってもらえることが多かったです。「いや、今度出るんですよ」と。そういう反応は、うれしい発見でしたね。
――関わり始めたばかりの方からも言われることもあったのですね。
【菅】自分から「僕、コミュ力高いんです」っていうのは、むちゃくちゃ恥ずかしいじゃないですか。
そういうのって周りから言ってもらえるものであって、自分で「高い」と思わんほうがええんちゃうかな、とは思ってます。
......まあ、宇治原さんは自分で学力が高いと思ってますけど(笑)。
――(笑)
会話が広がるのは「同調しすぎない」から
――本の中では、聞く力にも通じる話として「自分の発言の引き出しは開けず、相手の引き出しを開けることが大切だ」とありました。ただ、相手を楽しませようとするあまり"八方美人"に見えてしまうと、信頼を失ったり、周囲に嫌われてしまうケースもあると感じます。そうした"八方美人問題"については、どう考えていますか。
【菅】僕は仕事上でもプライベートでも、「八方美人って、そんなに悪いことかな?」と感じているところがあります。
ニコニコして愛想よくしていること自体が、仕事上、そんなに悪い方向には働かないと思うんですよね。
一方で、言っている内容が人によって違う"八方美人"だと、しんどくなるんじゃないですか。
――人によって意見を変えすぎてしまうことで、「あの人は信用できない」と思われてしまう。
【菅】そうそう。結論を変えちゃうから、「八方美人」に見える。
この部署ではこういうことを言う、あっちの部署では反対のことを言う――そんな八方美人だったら、それはあんまり良くないですよね。信頼性が疑われてしまうと思います。
――つまり、"嫌われる八方美人"は、「相手ごとに言うことが変わるから、信用されなくなる」という状態なんですね。
【菅】ざっくりとした例ですが、「企画がやっぱり一番大事ですよね」と言ったあとで、別の人に「いや、やっぱり宣伝が大事ですよね」とか言うと、「この人どっちなん?」ってなるじゃないですか。
だから、相手をニコニコさせるような会話をしつつも、自分の意見はひとつにしておく。僕もそこは心がけていますね。
――具体的には、どんなふうに気をつけているんでしょうか。
【菅】同調しすぎないようにしています。
違う意見があったときに、「そうですよね」とは言わない。つい言いがちなんですけどね。
僕は「確かにそういう考え方もありますよね」と言うようにしているんです。
それだと、「それが自分の考え方です」とまでは言ってないじゃないですか。
テクニック的な言い方にはなるんですけど、それでいいと思うんです。相手の意見は尊重しつつ、「それが自分の意見と同じだ」とは言っていない状態をつくる。
――相手の意見を否定はしないけれど、むやみに同調もしない。
【菅】おっしゃる通りですね。
「それは違うんじゃないですか?」とは、なかなか言いづらいですけど、「なるほど、そういう考え方ですね。そういう見方もありますね」と一度受け止めたうえで、「僕はこう思います」と言う。
そうすると、会話の幅も広がると思うんです。
やっぱり同調しちゃうと、本心じゃないから会話が続かないんですよね。
友人関係でもなんでも、みんなが同じ考え方のはずはないので。
――「考え方が同じだから仲がいい」というわけでもない、と。
【菅】そうです。
僕も宇治原さんと、考え方が違うところはちょこちょこあります。でも、それはそれで「宇治原さんの考え方」であって、僕は僕の考えがある。それをYouTubeでもしゃべったりしています。
――たしかに同調しすぎない方が、会話のキャッチボールも続きそうです。
【菅】中学の時に「ディベートの授業」をむちゃくちゃやったんですよ、うちの学校。今思うととても役に立ってますね。授業自体も、すごく面白かったんです。
たとえば「学校は制服のほうがいいか、私服のほうがいいか」みたいなテーマで話し合うんですけど、自分が本当は「制服がいい」と思っていても、くじ引きで「私服側」になったら、私服のメリットを一生懸命しゃべらないといけない。
自分の感情と理論を切り離して話す、という訓練をけっこうしたなという記憶があります。
これは会社とかでもやったらいいと思うんですよね。すごく有効だと思います。
――確かに今の社会には必要な力かもしれません。
【菅】「自分は制服派やけど、私服の良さもちゃんと考えて、人に説明する」。そうすると、私服の良さも見えてくるんですよね。
自分の意見と違う側にも、ちゃんと理由があるんだな、って。
上司の自慢話を聞きたくないとき、まず確認すべきこと
――本の中に「上司との飲み会で、自慢話を長々聞かされるのがつらい人」に向けたアドバイスがありました。「聞かされている」ではなく「聞いてあげている」というスタンスのほうがいい、とのことですが、それでも根本的には「聞きたくない」という人もいると思います。そういう人にとって、"聞いてあげることのメリット"は、どう捉えればいいでしょうか。
【菅】これは本には書かなかったんですけど、こういうことって、一回"因数分解"したほうがいいと思うんです。
なんで上司の自慢話を聞くのが嫌なんだろう、と。
「同じ話を何度も聞くのが嫌」なのか、「自慢話という行為そのものが嫌」なのか。
で、「自慢話が嫌なんだ」と思ったときに、もしかしたら「自分がうまくいっていないから」嫌なのかもしれない。
そうなると、「上司だから嫌」っていう話じゃなくなるんですよ。友人でも同僚でも、自慢話は全部嫌になるはずですから。
根本に「自分がうまくいってない」があるなら、「じゃあ自分がうまくいくにはどうすればいいか」を考えた方がいい。
――「上司との飲み会の問題」ではなく、自分の状態の問題として捉え直すということですね。
【菅】僕は「他人は変えられないけど、自分は変えられる」と思っていて。
つまり、「自分がうまくいってないから、この人の話を聞くのが嫌なんだな」と気づいたら、自分がうまくいくように努力するしかない、という考え方です。
ポジティブに捉え直して「バロメーター」にしてもいいと思うんです。
「あ、今日、自慢話聞くのが嫌やな。そうか、最近自分がうまくいってないからか」とか。
逆に「今日はあんまり嫌じゃないな。今、自分がそこそこうまくいってるからかも」とか。そういうふうに、自分の状態を知るきっかけにする。
――ただ「嫌だ」で終わらせてしまうと、何も変わらないですよね。
【菅】そうなんですよ。ただ「嫌だ嫌だ」と思い続けていても、何にもつながらない気がしていて。
もちろん単純に「Netflix見たい」とか「今日は家でゆっくりしたかった」という理由もあると思うんです。それでも良いと思います。
要因を、自分なりに一回ちゃんと考えてみたほうがいいんじゃないかな、と。
(取材・編集:PHPオンライン編集部 片平奈々子)