※本稿は、茂木健一郎著『幸福になる「脳の使い方」』(PHP新書)より、一部抜粋・編集したものです。
どんな状況でも楽しむのが幸せの達人
今の状態が幸せだと感じる人と、不幸だと感じる人の違いはどこにあるのでしょうか。
たとえば、AさんがBさんを誘ってAさんの行きつけの飲み屋さんに一緒に行ったとします。Bさんはウイスキーが大好きでこだわりを持っていたのですが、そのお店には彼の好きな銘柄のウイスキーが置いてありませんでした。そこでBさんは、「この店にはあれも置いていないのか」と不満をもらしました。
実のところAさんはその店にもう3年も通っていたのですが、Bさんに言われるまでそのウイスキーが置いてないことに気づきもしませんでした。Aさんは、ある銘柄のウイスキーがなくてもその店は料理も美味しいし、マスターとの会話も楽しかったので不満に思ったことなど一度もなかったのです。
同じ場にいたAさんとBさんですが、Aさんは満足に思っていて、Bさんは不満に感じている。この2人の違いはどこにあるかというと、「こうでなければならない」という思い込みから自由になっているかどうかです。
Bさんは、「飲み屋にはこれくらいのウイスキーは置いていなければならない」という思い込みが強いばかりに、それがないと不満を感じて不幸な気分になります。
Aさんは、シンプルなものの中に幸せを感じることができるので、飲み屋に自分が欲しいと思うものがなくてもそこにあるもので満足できます。「こうでなければならない」から完全に自由になっている。そういう人はいつも幸せな気分でいられます。
「こうでなければならない」という人の根本には、ある種の欲深さがあると思います。自分はどの人間なら、それに見合うだけのレストランに行きたい、もっと自分にふさわしい服を着たい、自分の能力に見合うだけの仕事がしたい、と欲を出せばきりがありません。
仮にそういう人とデートをした場合は、高級感漂うレストランで、サービスも行き届き、料理もお酒も一流の味でないと満足してくれないでしょう。でも本来ならば、好きな人と行けは、庶民的なラーメン屋さんでも楽しいはずです。高級レストランでもラーメン屋でも、どちらも心から楽しいと思える人でないと、本当には幸せになれないでしょう。