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死ぬ間際に「もっとメールを返せばよかった」と思う人はいない 本当に守るべき資産とは

デヴォン・プライス(著), 佐々木寛子(翻訳)

2026年04月14日 公開

「もっと成果を出さなければ」「メールはすぐに返さなければ」

私たちは日々、まるで見えない誰かに追い立てられるように「生産性の向上」を求め続けています。しかし、その先に待っているのは、本当に私たちが望んだ幸福なのでしょうか。

『なぜ休むことに罪悪感を覚えるのか』では、あるエリート学者の衝撃的な決断を通じて、現代人が陥っている「仕事量=自分の価値」という危うい思考の罠を暴いています。

※本稿は、デヴォン・プライス (著), 佐々木寛子 (翻訳)『なぜ休むことに罪悪感を覚えるのか』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

キャリアの絶頂で「終わりのないレスポンス」を捨てた女性

産業組織心理学者のアネット・タウラー博士は、職場の生産性や従業員のウェルビーイングを研究する専門家でした。彼女はシカゴのデポール大学で「テニュア(終身在職権)」という、学者として最高の栄誉と安定を手に入れていました。

しかし、ある日彼女は、そのすべてを捨てて大学を去る決断をします。

きっかけは、自身の研究対象である「職場の有害さ」が、自分自身の足元にも蔓延していると気づいたことでした。そこでは教員も学生もストレスにまみれ、休憩も取らずに高い業績を出すプレッシャーが常にありました。

誰もが「誰がどれだけ動いているか」に目を光らせ、疲れ果ててイライラし、自分より立場の下の人を叩くことでストレスを解消する――。心理学の専門家として「健やかな職場」を追求してきた彼女は、皮肉にも、届き続ける要求に対して「常に反応し、生産性を証明し続けなければならない仕組み」の一部になっていることに耐えられなくなったのです。

 

「仕事量」という呪縛からの脱却

大学を去ったアネットは今、マラソンに参加し、アート作品を作り、ミステリー小説を執筆しています。もちろん仕事もしていますが、それは彼女にとって「やりたいこと」を選んだ結果です。かつてのように、外部から押し付けられる締切や、絶え間ない連絡を最優先にすることはありません。

彼女が手に入れたのは、仕事の成果によって定義される自分ではなく、「自分の意志で時間を使う自由」という名の資産でした。

私たちは、「人間は8時間程度は座って作業をこなせるはずだ」という前提の中で生きています。しかし、本書はこの前提そのものが非現実的であると指摘します。

生産性が低い、と自分を責める人は多いが、実際には、私たちは健康でいられる業務量をはるかに超える仕事をしている。

私たちは、すでにキャパシティを越えた「返信」や「作業」を自分に課しているのです。

 

あなたが本当に守るべき「資産」とは

仕事に没頭し、誰よりも早くメールを返すことは、一時的な達成感や「自分は必要とされている」という安心感を与えてくれるかもしれません。しかし、人生の終わりに「もっとあの時、メールを返しておけばよかった」と後悔する人は、おそらく一人もいないでしょう。

あなたが本当に守るべき資産は、組織から与えられた肩書きや、日々のタスクを処理するスピードではありません。それは、アネットがそうしたように、「優先順位をつけて、自分にとって大事なことに時間や関心を割く自由」です。

もし今、あなたが「生産性が低い」と自分を責めているのなら、それは能力不足ではなく、心身が発している「これ以上は限界だ」という自然な警告サインです。

一度立ち止まり、問いかけてみてください。
「今日、私が本当に大切にしたかった時間は、画面の中の反応だっただろうか?」

他人の期待に応えるための仕事量を減らすことは、怠慢ではありません。自分らしい人生を取り戻すための、最も勇敢で知的な決断なのです。

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