「正論なのに傷つけてしまう」のはなぜ? 相手に誤解されない「伝え方」の技術
2026年06月12日 公開
相手のことを想って事実を伝えたのに、なぜか心の距離が開いてしまった――普段口数が少ない人の中には、そんな経験をしたことがある人もいるかもしれません。
たとえ事実や正論であっても、相手が責められたと感じることがあるため、「言葉に体温を持たせることが大切」だと語る、研修講師の三上ナナエさん。本稿では、三上さんに誤解を与えない話し方のコツを紹介していただきます。
※本稿は、三上ナナエ著『控えめでも存在感のある人がしていること』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「責めない言い方」の魔法の法則
◎「事実だけ」では勘違いされやすい
控えめな性格の方は、コミュニケーションにおいて、とても素敵な強みを持っています。それは、冷静に「何が起きているか」という事実(ファクト)を見つめる力です。激しい言葉で相手を圧倒するのではなく、客観的な視点を持って淡々と語る。その知的で穏やかな姿勢は、本来、周囲に安心感を与える大きな武器になります。
けれど、こんなふうに悩んだことはありませんか?
・相手のために伝えているはずなのに、なぜか相手がムッとしている......
・正しいことなのに、心の距離が開いてしまう気がする......
それは、あなたが伝えた「正しい事実」がとても正確だったからこそ、体温の通わない「無機質なもの」として相手に届いてしまったからかもしれません。そこで提案したいのが、「事実という骨組み」に「自分の意思という体温」を通わせるという魔法です。
感情をぶつけるのではなく、今の気持ちを説明する。「体温を通わせる」といっても、無理に情熱的に振る舞ったり、感情をむき出しにしなくても大丈夫です。大切なのは、今あなたが心の中で感じていることを、ひとつの「大切な情報」として、事実にそっと添えてあげることです。
◎「アイ・メッセージ」で温もりをプラス
たとえば、何度も締め切りを守れない同僚に、声をかける場面を想像してみてください。
「期限が3日過ぎています。至急提出をお願いします」
これは間違いのない事実です。でも、これだけだと相手は「責められた!」と感じて、心を閉ざす可能性があります。ここに、あなたの「体温」をほんの少し混ぜてみます。
【具体例1】感じていることに、柔らかい「思い」を乗せる
【事実】期限を三日過ぎています。
【体温】このままだと、他のメンバーに負担がかかってしまわないか、(私は)少し心配です。今日中に進捗を教えてもらえますか?
【具体例2】言葉に血を通わせる
【事実】期限から3日が経ちました。
【体温】もしかして、1人で抱え込んでいることはないかな、と気になっています。状況を教えてもらえたら、一緒に調整を考えたいです
「心配している」「困っている」「本当は助けたいと思っている」、そんなあなたの内側にある柔らかな想いを、「私(I)」を主語にして伝えてみてください。これが、相手の心に届く「アイ・メッセージ」の力です。
全部を完璧に言おうとすると、最初は難しいかもしれません。そんなときは、一言、「抱え込んでいるかなと思って」「忙しいのかなと思って」など「〜かなと思って」を付け加えるだけで、言葉に血が通います。控えめな人が事実を大切にするのは、相手に対して誠実でありたい、嘘のない言葉を届けたいという「優しさ」があるからです。その温かな根っこを、事実の裏側に隠してしまうのはもったいないことです。
「事実」という鋭い刃をそのまま手渡すのではなく、あなたの「想い」という柔らかい布で包んで、手渡してあげてください。「私はこう願って、この事実を伝えているんだよ」という体温が伝わったとき、あなたの言葉は、相手の心を動かす本当の力を持ちはじめます。
<POINT>
「控えめな人」が「〜かなと思って」を加えることは相手が一歩踏み出す弾みになる
「だと思います」を言い換える
◎「遠慮がちで控えめすぎ」に注意
プロフェッショナルとして、あなたはこれまで真摯に知識を蓄え、経験を積み上げてこられたはずです。目の前の課題に対して、深く、慎重に考えを巡らせている。それにもかかわらず、意見を交わす場で自分の意見がすんなりと通らなかったり、周囲から本来の意図とは裏腹に「頼りない」と受け取られたりしてしまう......
原因は、ただ、あなたの話し方が「遠慮がちで控えめすぎる」のかもしれません。周囲の状況を察する能力に長けている分、「自分の意見を押し付けたくない」「相手に不快な思いをさせたくない」、そんな気持ちが先に働いてしまいます。
そのため、無意識のうちに言葉のトーンを落としたり、断定を避ける話し方を選んでしまうことがあります。しかし、この配慮が、ビジネスというスピード感のある現場では、ときとして「自信のなさ」や、「責任の回避」という形に、「誤解」されてしまうことがあるのです。
相手に自信のなさとして伝わってしまう言葉として、代表的なものは「〜だと思います」という言葉です。あなたが配慮として添えたこの言葉が、聞き手の耳には「確信が持てていない」という不安材料として届いてしまう。これは、誠実に仕事に向き合っているあなたにとって、もったいない損失です。
厄介なのは、この言葉は「無意識」のうちに口から出やすいということ。私自身、話し方の練習をしていたときに、録音した音声を聞くと、「思います」という言葉を、想像以上に使っていることに驚きました。
◎断定できないときの伝え方
とはいえ、ビジネスには、どうしても現時点では断定できない不確定要素がつきものです。そんなとき、逃げに聞こえる言葉を使う代わりに、「確信の度合いを具体化する」という手法があります。ポイントは3つです。
①確率や条件を添えて言い切る
曖昧な表現を使う代わりに、条件を明確にして言い切ります。
「来週には終わるかと思います」ではなく、「現時点の進捗率から逆算すると、来週中に完了する見込みです」「不測の事態がなければ、来週月曜日に納品できます」
②「わからないこと」を言い切る
「はっきりとはわからないですが、たぶん......だと思います」と濁すのが、一番信頼を損ないます。わからないときは、わからないという「事実」を言い切ります。
「その点については、現時点では確実な回答を持ち合わせておりません。確認し、改めてご報告します」
③それでも不安なら、言い切ったあとに相手に返す
「......です。いかがでしょうか?」
これで相手の反応を確認することができます。明日から急にすべての語尾を変えようとしなくて大丈夫。まずは、会話の中で、自分が「思います」と言ったときに、「あ、今、自分は『思います』と言ったな」と自覚するところからはじめてみてください。もし、「思います」と言ってしまったら、その後に一言だけ事実を付け加えてみましょう。
「......と思います。理由は、〇〇だからです」
その練習をしておくと、どうして言い切れなかったのかが自分でも明確になってきます。でもまずは、無意識に使っていた言葉に意識を向けるだけでも一歩前進です。
<POINT>
「控えめな人」が断定できないときは「理由」をつけると言い切りやすくなる