「毎日なんとなくしんどい」「布団の中にいるのに疲れていて、仕事に行きたくない」――そんな感情をそっと心にしまい、「まだ私は大丈夫」と言い聞かせながら日々を過ごしていませんか。
そうした悩みを抱える人たちに長年寄り添い続けている、臨床心理士・公認心理師の佐瀬りささん。本稿では、佐瀬さんが勧めるイライラやモヤモヤなどを手放すコツについて紹介します。
※本稿は、佐瀬りさ著『こころの「安全基地」のつくりかた』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
こびりついてしまった「こころの汚れ」を落としてあげる
こころのセルフケアの最初のステップは「落とす」です。スキンケアが、はじめに汚れを落とすことから始まるように、こころもまずは、「落とす」からスタートします。
ところで、こころの汚れとはなんでしょうか?
それは「受け止められず、こころに残っている不快な感情」のことです。イライラ、モヤモヤ、不安、心配、怒り、悲しみ、嫌悪、悔しさ、嫉妬、絶望など、自分が「嫌だな」「つらいな」と感じる気持ちが、こころの汚れです。
多くの感情は、時間とともに自然に流れていきますが、うまく流れていかずに残っているとき、それがこころの汚れとして積み重なっていきます。こころにこびりついたまま、夜になっても、次の日になっても残っている「こころの汚れ」は、「続く」「繰り返す」こころの未病へとつながっていきます。
また、感情だけでなく、胸や喉が詰まる感じや、肩の緊張や全身の重さといった身体の感覚が、不快な感情が残っていることを教えてくれていることもあります。「なんであんなことしちゃったんだろう」「どう思われただろう」と何度も考えたり、同じ場面を繰り返し思い出しているような、思考のぐるぐるも、不快な感情が残っているサインです。
1日の終わりに、そんな「こころにこびりついてしまった汚れ」を落としてあげる。それが、この最初のステップです。
「汚れないように」は可能性を狭めるので注意
もしかすると、毎日汚れを落とすより、「そもそも、不快な感情が起こらないように生きたほうがいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。とくに、不快な感情が「続く」「繰り返す」傾向がある場合は、嫌な気持ちになること自体を避けたいと思うのは自然なことです。けれど、不快にならないように生きようとすることは、さまざまな可能性や、「生きる」ことそのものを小さくしてしまいます。
砂場で遊ぶ子どもを想像してみてください。「楽しんで遊んでね。でも、汚れちゃダメよ」と言われたらどうでしょう。きっと、思いきり遊ぶことはできませんよね。
生きることも同じです。新しい経験をすれば、思いがけないことが起こり、感情が揺れるのは自然なこと。不快な感情は、外の世界と関わり、人とコミュニケーションをしているからこそ起こってくる、思いっきり生きている証でもあるのです。
これまで、不快な感情を「未熟だから感じるもの」「我慢するもの」「爆発してしまうもの」と、厄介者扱いしてきたかもしれません。確かに、不快な感情が「続く」「繰り返す」のはつらいことですが、その気持ちは「落とす」ことができ、次第に落ち着けるとわかっていれば、それほど怖いものではなくなっていきます。
ワーク1「快の時間、不快な時間を感じてみる」
※イラスト:楠わと
こころの汚れを落とすためには、まず、それに気づくことが大切です。朝晩の洗顔のタイミングに合わせると、自然と習慣化しやすくなります。そこで、洗顔をするときに、こころにもそっと意識を向けて、「今日はどんな気持ちが残っているかな?」と感じてみましょう。
たとえば晩の洗顔の場合、今日1日を、朝から振り返りながら、快の時間(心地よさを感じていた時間)、不快な時間(心地よさを感じられなかった時間)がどれくらいあったかを、感じてみることが、最初のワークです。
はじめはどの時間が快で、どの時間が不快だったのか、「よくわからない」「あまり感じない」と思われるかもしれませんが、意識をしていくことで次第に感じられるようになります。「こころの汚れ落としフローチャート」に沿って、落とすワークを進めていきましょう。
ワーク2「イメージで落としてみる」
1日の約8割を「快」で過ごせた日や、8割に満たなくても、不快な感情が「続いたり」「繰り返されたり」していないときは、落とすワークをせずに寝てしまっても大丈夫です。それは、睡眠には、こころや身体を回復させるだけでなく、感情を整理してくれる働きもあるからです。
「快」の時間が8割に満たず、不快な感情が残っていると感じるときは、ワーク2をやってみましょう。ワーク2は、イメージを使って不快な感情を手放すワークです。無理に消そうとするのではなく、やったらどうなるかを少しずつ楽しみながら、気持ちや身体の変化をゆっくりと感じてみてください。
慣れてきたら、リスト以外のあなたにぴったりのイメージを探して、書き足してみるのもおすすめです。少しでも軽くなったら、ここで終えて大丈夫です。まだ不快な感情が残っているのを感じたら、ワーク3に取り組んでみましょう。
<リスト:イメージで不快を手放す>
・洗顔の泡やオイルと一緒に流す
・風船につけて空へ飛ばす
・棚にそっと置く
・ゴミ箱アイコンにドラッグ&ドロップする
・ベッドに寝かせて休ませる
・「今日はここまで」の箱に入れる
・小さく丸めてポイッとする
・ゲームの敵のように倒す
・燃やして灰にする
・ロケットに乗せて打ち上げる
ワーク3「書いて落とす」
※イラスト:楠わと
ここまでのワークでも不快な感情が落ちなかったときは、ワーク3に取り組んでみましょう。これは①から④へと進んでいきますが、不快な気持ちが軽くなったと感じたら、途中でもこのワークは終わりにしてOKです。
①そのまま書き出す
こころに残っている出来事や気持ちを、ありのままに書き出します。ここでは、自分のこころの中をできるだけ、そのままに書き出すようにしてください。
きれいに書こうとしなくて大丈夫。筋を通さなくても大丈夫。書いていく中で見えてくるのは、あなたの中の「赤ちゃん」の気持ち(湧きあがる感情や「こうしたい」という気持ち)です。
嫌だったことや、つらかった気持ち、「こんなふうに感じてはいけない」と思っていた気持ちなど、どんなものでもかまいません。あまり頭で整理しようとせず、感じたままを書いていくのがポイントです。書いてみて、不快な気持ちが軽くなったり、スッキリしたらここで終わりでOKです。
②寄り添う言葉を書く
書くだけでは軽くならないときは、別の色のペンに持ち替えて、①で書いた内容に、寄り添う言葉を書き添えてみてください。
「そんな気持ちになるよね」
「そう思って当然だよ」
「よく頑張ったね」
こんなふうに、親友や大切な人に声をかけるような言葉を書いてみましょう。ここで書き添える言葉は、あなたの中の「お母さん」の言葉(自分の中にある「こうしたい」という欲求と「こうあるべき」という社会的な基準の間でバランスを取る存在=お母さん)です。ここではあなたの中の「お母さん」が、あなたの中の「赤ちゃん」に、そっと寄り添っていきます。
言葉を書こうとすると、批判する考えや自分を責める気持ち、また一般的な「正しさ」の声が浮かんでくることもあるかもしれませんが、それはあなたの中の「おばあちゃん」の声(「こうあるべき」という社会的な基準)です。ここでは、それをいったん横に置いて、まずは「赤ちゃん」に寄り添うことを大切にしてみてください。少しでも軽くなったらここで終えて大丈夫です。
③本当はどうだったらよかったかを書く
①②で変化を感じられないときは、「本当はどうだったらよかった?」と問いかけてみましょう。答えは、現実的なことではなくても大丈夫です。子どものような願いでも、魔法のような願いでもかまいません。こころに残っている出来事が、本当はどうだったら残らずにすんだのか――思いつくままに書き出してみてください。
ここでは赤ちゃんの声やお母さんの声、おばあちゃんの声が自然と混ざりながら出てくるかもしれませんが、それで大丈夫です。どの声も否定せず、出てくるものをそのまま、書きとめてみてください。
書くだけで少しスッキリすることもあります。その場合はここでやめてもOKです。まだ気持ちが「落とせていない」と感じたら、最後のステップに進んでみてください。
④変えられることと変えられないことを分ける
③で書いた内容を、「自分で変えられること」と、「変えられないこと」に分けてみましょう。変えられないものには二重線を引きます。「どうせ線を引くなら、最初から現実的なことだけ書けばいいのでは?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。
まずは、どんな願いもジャッジせずに出し切ること。それが、「赤ちゃんの声」をしっかり受け取ることにつながります。出してあげることで、気持ちは少しずつ静まっていきます。
最後に残った「変えられること」の中から、「次はこうしてみよう」と思えるものを1つだけ選んでみてください。それが「こころのお守り」です。お守りは、「これがあるから大丈夫」と感じられるもの。こころにもそれがあることで、少し安心して次に進むことができます。