ネガティブな感情に振り回されそうになったとき、どうすれば気持ちを切り替えられるのか。頭ではわかっていても、なかなか難しいものです。
『失恋カルタ』を発売したばかりの又吉直樹さん、たなかみさきさんに、落ち込んだときの気持ちの切り替え方や、共著を通じて感じたことをお聞きしました。
人間関係の問題に直面したときは
――失恋に限らず、日常の人間関係でネガティブな感情になってしまった時、気分を切り替えたり考え方を変えたりするために、何か意識していることはありますか?
【又吉】例えば、変な人に絡まれて無駄な時間を過ごしたなとか、友達のために真剣に考えて助けようとしたのに裏切られたとか、生きていたらありますよね。その労力を回収しようとするとずっとつまらなくなってしまうので、もっと素敵な人や面白い人と会う機会を増やして、ダメな世界だけがすべてじゃないという確認をさっさとしたいと考えますかね。
世の中には悪い人も詐欺師もいることはもう確認済みじゃないですか。自分がそういう人と出会うか出会わないかは運の部分も大きい。そんな存在と出会ったせいで何年も無駄にするより、自分の力で乗り越えていって、できるだけそういう人との接触を減らせるような生活を心がけています。
【たなか】失敗の種類にもよりますけど、自分だけの問題にしないことかなと思います。あと感情と事実を分けるとか。相手が悪いわけでもないし自分が悪いわけでもない、もっと大きい問題だったということもあるので。
【又吉】第三者に相談したりとか。
【たなか】そうですね。相手と二人だけや自分だけの問題にしないで、人といっぱい喋った方がいいと思います。人間同士の問題だから、いろんな人と話すのが大事かな。友達はめっちゃ大事です。
【又吉】たしかに、お金の問題が例えばあったとして、それが貧しさから来るものだとすると、今の時代にそういう経験をしている人が多いとしたら、個人間というよりは社会や政治の話になってきますよね。
【たなか】そうですね。もし何か問題を起こしてしまったとしても、その背後にどんな原因があるのか見てあげるとか。
【又吉】余裕がなくなると失敗しやすいですから。その余裕がなくなった理由がどこにあるのかという。自己責任論に収めすぎないことも大事ですよね。
苦しみに耐えれた人が偉いというよりは、みんなでその苦しみの源となってる原因を解決したら、別にみんな耐えんでええやんみたいな話になると思うので、そんな視点も大事ですね。
【たなか】実はみんなちょっとずつ関係してるというか、その問題にみんな小指くらいは絶対関わってると思うんですよね。
痛みや苦しみを自ら増幅させないほうがいい
――心が疲れている時にこれだけはしない方がいいということはありますか?
【たなか】私はSNSに怒りをそのまま書くことは絶対しないようにしています。怒りをフレッシュなまま外に出すのはやはり良くない。誤解も生むし。仕事関係でつらいことがあった時も、当事者同士で話し合って事が収まってから報告という形を取れたことが自分では良かったと思っていて。怒りをそのまま不特定多数に出さないことかな。信頼している人には話していいと思いますけど。
感情を吐くことは大事ですけど、それをそのままSNSに上げるのはやはりリスキーだし、怒りで視野が狭くなっているなと思いますね。
――負のエネルギーってSNS上で連鎖してしまうこともありますよね。
【又吉】僕は職業柄、やらない方が良さそうなことをやってみようかなとか思っちゃったりするんですよ。 要は、どこまでこの痛みを増幅させられるのかなと実験してしまうんです。
だから参考にはならないかもしれないですけど、その経験でいうと、まあ過剰に一人で飲むのはやめた方がいいですね。誰かと柔らかい感じで飲みながら愚痴を言うぐらいがちょうどよくて。自分で飲みながら整理しようというのはいいんですけど、めちゃくちゃ飲んで自暴自棄と自己嫌悪のスパイラルに入っていくのはちょっと危険です。そこに悲しみを増幅させるような音楽が加わってくると、かなりしんどくなってしまうので。
つらいい時に明るい曲を聴くより、自分の痛みや苦しみに並走してくれるような映画、文学、音楽といったアートに触れて気持ちが安らぐという人もいると思うんですけど、それを過剰に取りに行きすぎてめっちゃしんどくなることもあるので、適度に誰か相談できる人がいたら最高だし、いなかったとしても、そういう芸術作品との触れ合い方の距離感は注意した方がいいのかなと思いますね。
【たなか】今じゃなかったな、みたいな暗い作品もありますよね。
【又吉】ありますよね。それをもらいに行っちゃう時があるんですよ。
メンタルだけじゃなくて、僕、熱が37度5分ぐらい出た時に公園行ってめっちゃ走って、熱を39度ぐらいまで上げれんのかなと思ってやったことがあります(笑)。汗が出て熱下がったんですけど、その後体調が悪化しました。
だから経験上、つらいときはやっぱり自分を大事にするのが一番だと思います。
【たなか】結局はなるべくいつもの普通の生活を心がけるとか、朝起きてご飯を食べてみたいなことが大事ですよね。私もそれが完璧にできているかというと、実際は難しいですけどね。
共著だからこそ生まれたもの
『失恋カルタ』より
――最後に書籍のお話に戻るんですが、お二人で共作されて、お互いの印象で変わったことや感じられたことはありますか?
【又吉】そもそも僕がたなかさんの作品を読んだり見たりしていて、ご一緒できたら嬉しいなと思ってお声がけしたので、たなかさんの印象自体は変わっていないです。
読み札に対して絵を描いてもらったんですが、特に打ち合わせもせずにたなかさんの感性で自由に描いてもらったので、共通する一つの言葉でも人によってこれだけイメージを広げられるんだという発見はありました。すごく助けてもらったという感覚もありますね。
抽象的な方がみんなに刺さるのかなと思いがちなんですけど、たなかさんが焦点をグッと絞ってくれたことによって、より人に伝わるということが起きたりもして、面白い発見でした。
――具体的な生活のシーンも多かったですよね。たなかさんはいかがですか。
【たなか】又吉さんからお話をいただいて、すぐに「ぜひ」とお答えしたんです。なんとなく描けるだろうという確信はありましたし、描けたなと思いました。又吉さんの読み札をいただいて、抽象的なものを具象化するうちに、文字と絵って支え合っているなと感じて。一人でやっているのと全然違うなという感触がありました。共著というのも初めてで。
【又吉】挿絵のようなイラストだと誰かの本文とぶつからないように配慮する必要がある場合もあると思うんですけど、今回はたなかさんが確定しに行っても問題ない作り方でしたね。
【たなか】ちょっと攻めたところもありましたし、時間もあったのでじっくり制作することができました。