ほとんどのビジネスパーソンが定時に帰るというスウェーデン。子供や家族がいる人だけでなく、独り暮らしであったとしても時間がきたらすぐに退勤する人が多いといいます。
スウェーデン在住の久山葉子さんは、著書『スウェーデン人はなぜ朝の3時間で仕事が片づくのか』の中で、現地でのインタビューをもとにスウェーデンの働き方・生き方を語っています。スウェーデンの人々は仕事が終わったあと、どのような時間を過ごしているのでしょうか。同書より、現地の人のプライベートな時間の使い方について紹介します。
※本稿は、久山葉子著『スウェーデン人はなぜ朝の3時間で仕事が片づくのか』(PHPビジネス新書)より一部を抜粋・編集したものです。
家族がいなくても定時に帰る… 独り暮らしが多いが、孤独ではない
早く帰るのは子供や家族がいる人だけではない。独り暮らしだからこそ、仕事以外に重要な人生のミッションがあるのだ。
それは「孤独にならない」こと。
特に定年退職したあとの孤独は、世界中で問題になっている。
人間は群れで生き延びてきた動物だ。かつては群れから追い出されることは死を意味した。だからこそ進化の過程で、脳が「人と一緒にいる時に幸せを感じる」ようになっている。
強固な人間関係がある人は、早期死亡や慢性疾患のリスクが50%も低い。逆に言うと、孤独な人はアルコール依存やタバコを1日15本吸うのに匹敵するリスクを抱えているという。
近しい人間関係に満足している
意外かもしれないが、子育て先進国スウェーデンはヨーロッパでも群を抜いて独り暮らし世帯が多い国でもある。
2024年の統計では世帯の41%が単独世帯で、ヨーロッパの平均27.5%(2011年)よりもかなり高い(日本も単独世帯率が高く、2023年に34%)。
大学進学を機に若者の大半が実家を出ること、高齢になっても子供と同居することがないのも一因かもしれない。離婚した人(ご存じのとおり離婚率は高い)、パートナーが遠いところに住んでいる人、誰かとずっと一緒にいるのがしんどいから独り暮らしを選ぶ人もいる。
独り暮らしだからといって残業をするわけではないし、した場合は後日早く帰るというのも変わらない。「早く帰っても寂しいだけ」というわけではないのだ。
独り暮らしでも孤独ではないというのは数字にも表れていて、スウェーデン人は近しい人間関係に満足しているという調査結果がある。10点満点で8.5、EUの平均は7.9だ。
そして97%のスウェーデン人が「困った時に助けてくれる人がいる」と感じている。
独り暮らしでも友達がいるから寂しくないし、頼れる人がいる。
そんな状況をつくるために、どんな時間の使い方をしているのだろう。スウェーデンで長く暮らす日本人に、どんなふうに独り暮らしを楽しむようになったかを尋ねてみた。
夜は料理や音楽を楽しむ
ケース①
パートナーがヨーロッパの別の国に住んでいるので、普段は独り暮らしの後藤豊さん。
ここ13年スウェーデンに住んで、ヨーテボリの名門シャルメシュ工科大学で研究職に就いているが、自宅でゆっくりするのが上手になった自覚があるという。
平日の夜や週末は大好きな料理が気分転換で、友達を家に呼ぶことも多い。音楽は聴くのも自分で演奏するのも好きだし、定期的なランニングも欠かせない。朝は5時半頃に起きて、22時半には布団に入る。「この生活を10年以上続けているから、満足しているんだと思います」と笑う。
ケース②
オーグレン英里子さんは、20年前にスウェーデンに来てから大学で出版を学び、スウェーデン人でもなかなか就職できない人気の出版業界で正社員として働いている。作家エージェントのロイヤリティマネージャーという仕事柄、どうしても残業が多くなる時期もあるが、他のスウェーデン人同様、残業した分は別の日に早く帰る。
最近離婚して、今は独り暮らしを満喫中。離婚しても名字を変えなくてよかったのが、正社員として働く身としては本当に楽でありがたかったという。普段は定時に帰っているが、仕事が終わったから帰るのではなく、これ以上やっても能率が悪くて意味がないから帰る。周りの独り暮らしの友人も同じ考えだ。
英里子さんの周りでは退社後にヨガなどの習い事やジム、スポーツをやっている人も多い。17時半や19時など、夕方からのクラスがほとんどで、退社してそのまま向かえるようになっている。出版業界の仲間たちは、映像化作品チェックのためにも、ネットフリックスなどサブスク系のサービスでドラマや映画を観ている人が多いという。
現地の会社で働くのは楽しいことばかりではない。全員ネイティブのスウェーデン人同僚の中で奮闘する日々だ。仕事のストレスに負けないよう、冬でも4時に起きて、週に数度は朝暗いうちから運動をする。そのために夜は21時にはベッドに入り、18時以降はSNSを見ないなど、自分で設けたルールを守っている。
休みの日は、趣味のグループで定期的に集まったり、日本人だけで心おきなく日本語を話すために集まったり。お酒を飲みながらのスポーツ観戦も盛んだ。独り暮らしでも男女とも大きなテレビやソファを置いていて、自宅で集まれる環境が整っている。
地方ではアウトドアを満喫
ケース③
スウェーデン国立スペース物理研究所で上級研究員を務める山内正敏さんは、北極圏のキルナという町に暮らして36年になる。研究界というのは世界的にブラックな職場で、スウェーデンの統計でも、残業時間が一番多い業界は大学だ。
山内さんも、「研究者というのは世界的に、昼でも夜でも思いついた時に仕事してしまう傾向がある」と言う。
そんな山内さん自身は7時間勤務の契約にしているので、普段は16時前のバスで帰宅し、自宅で30分~1時間ほど仕事をして、毎日21時には寝るという。
都市部に比べると娯楽が少なくて退屈なのでは……というのは杞憂で、小さな町の良さは自然が近いこと。山内さんは身体を動かすのが大好きで、京都で大学生だった頃は鴨川沿いを走るのが趣味だった。
スウェーデンに来てからはヴァーサロペット(毎年3月に開催される世界最古で最大規模のクロスカントリースキー大会)にも出場していた。41歳でギランバレー症候群という難病を患ってからは、歩行器を押しながら夏は10キロ歩く。
肺に酸素が入ると血がしっかり流れ、頭も冴えるし、調子が格段に良くなる。仕事でものすごく疲れた日には、逆に運動しないと眠れないくらいだと言う。
キルナの人々は仕事後に夕方から気軽にクロスカントリースキーを楽しんでいる。あとはフロアボールだったりバドミントンだったり、山内さんの周りで趣味を持たない人は1人もいない。
去年の夏、私も家族で山内さんのお宅にお邪魔させていただいたが、魚屋から仕入れたというノルウェーの魚の燻製2種類、トナカイの生肉の燻製とマリネなど、北極圏らしい名物をいくつもご馳走してもらった。デザートにはオーブンで焼いたブルーベリーケーキも。この町でも、普段から同僚や友人と集まるのは自宅だそうだ。
3人の生活を覗かせてもらうと、「残業をなるべくせずに能率を上げる」「友人との時間」「運動」「早寝早起き」といった共通項が見えてくる。どれも人生を長く健康で楽しむために欠かせない要素だ。