人事部が起こすイノベーションとは
2013年07月08日 公開 2024年12月16日 更新
「史上最年少社長による株式上場」(2000年当時)などと話題になった、インターネット関連サービス大手のサイバーエージェント。
しかし上場直後、華やかな企業イメージの裏側で、同社は中途入社の社員と生え抜き社員の対立や、ネガティブな考えの連鎖、大量退職などに悩んでいた。
10年ほど前には「社内の雰囲気はギスギスして最悪だった」会社が、わずか数年で、「働きがいのある会社」ランキング(GPTWジャパン)で上位の常連になっている。
業績もコミュニケーションサービスサイト「アメーバ」などで破竹の勢いだ。そこには何か秘策があったのか。
「21世紀を代表する会社」をめざして戦略的な人事施策を打ち出す同社の「人事の要」が語ったのは、意外にも「日本的経営」を進化させることへの情熱だった──
<取材・構成:加賀谷貢樹>
※本稿は、『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2013年7・8月号 Vol.12【特集・哲学ある人づくり】の内容を、一部抜粋・編集したものです。
飲み会の多い会社
「きのうは○○部の社員と飲みに」
「きょうは△△部の新入社員とランチ」
私のブログ「デキタン」にアップする記事で多く見られる内容です。
サイバーエージェントの役員というのはなんて飲み会が多いのかと思われるかもしれません。
事実、社内では「曽山さんは飲み会が好きな人だ」とブランディングされてしまっているようです。手帳の夜の予定は2カ月先まで黒々と埋まっていますから、あながち外れてはいません。
しかし実は、飲み会の予定はあえて入れているというのが本当で、しかも私一人だけのことではありません。当社では8人の役員全員が、多少の頻度の差はあるにせよ、似たような状況なのです。
理由は、役員それぞれが社員との接触頻度を意図して増やしているから。社員との距離を縮め、社員一人ひとりが考えていることを知るためです。
ちなみに弊社では、役員だけでなく社員の多くも、ブログや「フェイスブック」にランチや飲み会の写真を頻繁にアップしていますが、それほど飲み会が浸透しているのは、2003年に始まった「懇親会費用支援」制度の成果です。
社員同士のつながりを強化するために、対話を増やすことをめざしてつくられたこの制度では、部署で食事に行くことを条件に、毎月1人につき5000円が会社から支給されます。
役員も、部門を超えてさまざまな部署に積極的に声をかけたり、逆に誘われたりして出かけます。むしろそうすることが奨励されているので、役員の懇親会参加頻度は必然的に多くなります。
社員と飲むのはとても楽しいものの、週に2、3回をずっと続けるというのは、実は楽しいだけでやれるほど簡単な仕事ではないのですが。
私自身は、ランチや飲み会で、ひと月に100人前後の社員と接点を持つようにしています。
他の役員もしかり。社員数(単独)1400人ほどの会社でそれだけの頻度で接触を行なっていますから、社内の「空気感」の変化や、部署ごとの風土、活性化の度合いなどを、役員それぞれが手に取るようにキャッチできるようになります。
「打てば響く」組織をつくる
私が尊敬する松下幸之助氏も本に書いていますが、会社とは「打てば響く」ものでなければならない、と私は思っています。風通しのよい組織をつくらなければ、社員たちは自分の存在意義を実感できないし、所属意識も芽生えないでしょう。当然、業績にも影響します。
社員にとっては、自分たちの声に基づいて会社が実際に何かを「変えて」くれるかどうかは別にして、まずは会社が社員個人の意思を「受け止めて」くれることが、モチベーションを維持するうえで大切です。「懇親会費用支援」は、そのための1つのしかけです。
当社ではまた、風通しのよい組織づくりのための取り組みの1つとして、創業以来「トピックスメール」を続けています。社員一人ひとりが「自分は職場で役に立っている」「必要とされている」という自己肯定感を高めることをめざしたしかけで、
社員やチームが受注に成功したり、大きなプロジェクトをまとめたりしたときに、そのトピックを先輩やマネージャーが部署内にメールで配信し、情報を共有して皆で褒め合うのです。
褒められた当人は「自分のがんばりや努力が認められた」「周囲の人が自分の活躍を知ってくれた」という充足感を味わえます。
さらに、業績をあげた仲間に対して「おめでとう」を伝えるお祝いメールも飛び交い、部署内にポジティブな空気を生み出すことにつながっています。
部署によっては、トピックスメールの中から特にすぐれたものを社長の藤田晋が選んで発表する「ベストピ」(「ベストトピックスメール」の略)もあります。
人を褒めるメールを、会社のトップが褒めることで、社内に褒めの連鎖が生まれ、褒める文化が定着することに貢献しています。