さっきまで遊んでいたのに「健太郎くんはお祭りには来ちゃダメ」…少年時代のショックが、200ヵ国以上の国歌を歌う男に教えたこと
「健太郎くんはお祭りに来ちゃダメだよ」
仲良く野球をしていた友達から、そう告げられた少年時代のKENTさん。理由は、町内が違い、子ども会費を払っていなかったからでした。
現在、200カ国以上の国歌を歌う「人間国歌ジュークボックス」として活動するKENTさん。国や文化の違いを知り、楽しむことの大切さを伝えるKENTさんに、世界への興味の原点や、子どもたちに伝えたいことを聞きました。
(取材・文/PHPオンライン編集部)
運動会で国旗に夢中になる子どもだった
―200カ国以上の国歌を歌えるとのことですが、子どもの頃から国歌に興味があったんでしょうか?
まず、興味を持ったのは国旗でした。
小学1、2年生の頃、給食に出てきたチーズに、世界の魚の写真が載っていたんです。もともと魚が大好きだったんですが、そのチーズには魚の横に小さな国旗も付いていて。そこから、国旗にも興味を持つようになったんです。
運動会のときも、競技より、飾られている国旗ばかりをずっと見ていました(笑)。種類が多くて、それぞれ違うのがおもしろかったんでしょうね。
後に国歌に興味を持ったんですが、きっかけは『キン肉マン』のアニメです。キャラクターの登場シーンで国歌が流れるのがかっこよくて、少しづつ国歌を覚えるようになりました。
―「国」に興味がある子だったんですね。ちなみに、その頃はどんな夢を持っていましたか?
小学校の卒業文集には「ノーベル賞を取る」と書いていました。友達がテストの裏にガンダムの絵を描いているなか、僕はノーベルの絵を描いていましたね(笑)。
当時使っていた学習ノートに、ノーベルの肖像画やノーベル賞について書かれたページがあって、授業そっちのけで夢中になって読んだのを覚えています。
高校生になると、今度は政治家になりたいと思うようになりました。世界を動かしていく仕事って、すごく面白いだろうなと。大学受験に失敗したことで挫折をしましたが、「国」や「世界」というものへの興味が強かったんだと思います。
外国語のラジオがいつも流れていたけど…
―興味を持つポイントが面白いですね。ご家庭の影響もあったのでしょうか。
そうかもしれないです。家では、NHKのラジオ講座でハングルや英語、フランス語などがいつも流れていました。何を言っているのかはわからなかったんですけど、「アンニョンハセヨ」みたいな言葉のリズムは、なんとなく頭に残っていました。
後になって知ったのですが、母はドイツ語を勉強していて、祖父もギリシャ語をはじめ、さまざまな言語を学んでいたそうです。そういった家庭環境が、いろいろな国の国歌に惹かれることにつながっているかもしれません。
ただ、不思議なことに、なぜか僕は英語は全然できなかったんです。中学で英語の授業がはじまって、最初のテストは17点で(笑)。ずっと苦手意識がありました。世界に興味があるものの、語学は別だったんですよね。
違いを違いとして楽しむことを伝えたい
―現在、各地の学校で国や国歌についての授業をされているそうですが、授業の中でKENTさんが子どもたちに伝えたいことは何でしょうか?
地球儀や地図には、国境という線が引かれていますよね。でも、本来の地球そのものに、線が引かれているわけではありません。国境という線は、人間の頭の中にしかない線なんです。
僕には、小学生の頃にショックを受けた経験があります。友達と仲良く野球をして遊んでいたんですが、ある日、その友達がお祭りに行くというので、僕も一緒に行こうとしたんです。すると、「健太郎くんは来ちゃダメだよ」と言われて。
理由を聞くと、町内が違って、子ども会費を払っていないからだというんです。
「さっきまで一緒に遊んでいたのに、どうして急に分けられちゃうんだ!?」と衝撃を受けました。
母に「なんであそこの町の子ども会費を払ってくれなかったの?」と聞いて困らせたりして(笑)。もちろん、そういう仕組みだから仕方がないのですが、子どもながらに、大人の事情やさまざまな理由で、人と人との間に線が引かれることがショックだったのかもしれません。
もちろん、国境があることも、国や地域によって文化や考え方が違うことも事実です。でも、その違いを理由に誰かを差別したり、攻撃したりするのではなく、お互いを知って、理解して、楽しみ合うことが大切なんじゃないかと思うんです。
みんなが同じだったら、面白くないじゃないですか。たとえば、どこの街に行っても同じお店ばかりだったら、ちょっとつまらないですよね。その土地ならではのラーメンや郷土料理があるからこそ、旅先での楽しみも生まれると思うんです。
言葉や文化の違いも、それと同じように楽しめたらいい。違いを知ることは、人類にとって大切な学びだと思っています。
今は学校にも、いろいろな国にルーツを持つ子どもたちが増えています。だからこそ、違いを違いとして楽しむことを、子どもたちに伝えていきたいですね。