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クイズ王・日高大介―クイズの勉強は役に立つのか?

日高大介(クイズ・クリエーター)

2013年10月07日 公開 2013年10月24日 更新

《PHP新書『クイズ王の「超効率」勉強法』より》

 

クイズができる人は「頭がいい」!?

 

 クイズ番組の煽り文句などで、「一番頭がいい○○は、いったい誰(どこ)?」というフレーズを聞くことがあります。テレビ番組ですから、視聴者を惹きつける演出としてこういった文言を使うのでしょう。ここではその是非は論じません。

 本質的には、「クイズ」というのは「頭の良し悪し」を決めるものではありません。もちろん、頭のいい人が効率的な勉強法を見つけ出し、より短期間でクイズの実力を伸ばしていく可能性がある――とはいえると思います。しかし「クイズ」は、知的好奇心や向上心さえあれば、いわゆる「偏差値」などにかかわらず、どんな人でも楽しめる趣味・ゲームであると僕は思います。

 クイズにはクイズ専用の勉強法があります。僕自身、よく「百科事典とか全部覚えるんでしょう?」「新聞は何紙読んでいるんですか?」といった質問を受けることがありますが、僕は特に百科事典を「あ」から順に熟読した経験もなければ(あ! そういえば大学生のときに1度だけチャレンジしたことがありました。「アイルランド」のあたりで挫折しましたが……)、新聞も人並みにしか読んでいません。

 それよりも、クイズによく出る問題や、出そうな問題を脳内にインプットして、効率的なタイミングでアウトプットする訓練に特化すれば、誰でもある程度のレベルまでは達することができます。さらには「クイズに強くなる」だけでなく、その過程で「おもしろ知識」をゲットできるというオマケまでついてくるのです。

 僕は中学2年生のときにクイズの勉強を本格的に始めたと先に述べましたが、学校のお勉強(特に理科と社会!)は褒められた成績ではありませんでした。ところが、クイズの勉強に没頭していたころ、テレビで『パネルクイズ・アタック25』(朝日放送)を見ているときに、「江戸時代の老中で、天保の改革を行ったのは誰でしょう?」という問題に正解できたのです(答えは「水野忠邦」)。しかも、「寛政の改革は松平定信だから、そっちではないほう……」と頭の中で瞬時に反芻したうえでの正解。教科書を何度読んでも頭に入らなかった知識が、大好きなクイズに置き換えた結果、とても効率的なかたちで頭の中に収まっていた!これは、自分にとって大きな自信となりました。

 その後、クイズの勉強を逆に学校の勉強に応用するという、とてもひねくれた方法で、なんとか高校受験をクリアすることもできました。

 デキの悪い僕のエピソードではありましたが、ここで申し上げたかったのは、学校の勉強が得意ではなくても、クイズ力を上達させることは可能である、ということです。方法論を上手に会得すれば、学校の勉強や資格試験などあらゆる知的活動に応用することが可能であるともいえます。

 クイズはあくまでもゲームであり、競技です。そして声を大にしていいたいのは、クイズの勉強というのは、はっきりいって「楽しい」ということ。「ハマる」という言い方が適切かもしれません。

 

「そんなこと知っていて何の役に立つの?」

  

 「クイズに強い人=頭がいい」という誤解と、同じような頻度で出合ってしまう誤解がもう1つあります。

 僕は「クイズ王」としてテレビに出演し、うんちくを披露するお仕事もしていますが、よく耳にするのが「でもそんなことを知っていて、いったい何の役に立つんですか?」というフレーズです。最近では「クイズ王なんていろんなことを知っているようだけれども、そんなのネットで検索すれば答えなんか一瞬で出るじゃん」とも……。こういった手合いに遭遇するたびに、いまでこそ「お、また現れたな(笑)」と思ってやりすごすようにはしていますが、当初はいわれるたびに悲しい気分に陥ったものでした。

 この世間のみなさんとのギャップが、クイズに携わった人間が最初にぶつかる壁となります。なぜかクイズというものは、世間から偏見をもたれるものなのです。あらゆるスポーツや競技というのは相応の評価を受けるものですが、ことクイズに関してはそうはならない。

 これは僕なりの分析なのですが、クイズの問題は、日常に根ざしたことや、学校の勉強に近い部分が題材として扱われやすいので、誤解が蔓延してしまうのかもしれません。野球やサッカーといった日常と隔絶したプロの世界ではなく、身近な生活の延長線上にあり、なおかつ多くの人々が苦い経験をもつ受験勉強……そのような分野で突出した「クイズ王」なる人物が現れると、つい反感を抱いて「そんな役に立たないことでエラそうな顔をして」とツッコミを入れてしまうのではないでしょうか。

 はっきり申し上げますが、「クイズ」は日常生活では役に立たないに決まっています。実用的なものではありません。たしかに、知識やうんちくを得ることによって興味が広がったり、結果的に新しい趣味ができたり好奇心がどんどん広がったり、といった効用は大いにあるかもしれない。でも、クイズのために覚えた知識が本質的に役に立つ場面は、クイズ番組(大会)で正解して1ポイントを獲得する局面に集約されます。その快感極まりない瞬間をめざして、僕たちは1問1問のクイズを頭の中に刻み込んでいるのです。

 いささか極論ですが、クイズの競技者に「そんなこと覚えて何の役に立つの?」と聞くのは、サッカー選手に「手で入れたほうが早いのに、なぜわざわざ足で蹴ってゴールに入れるのですか?」と開いたり、登山家に「結局みなさんは下山をされるのに、どうして山に登るのですか?」と質問したりするのと変わらないのではないでしょうか。

 クイズは「クイズ」というフィールドで行われる、知的なスポーツだと信じています。たんに知識や記憶力だけではなく、体力や集中力、メンタリティや駆け引き、さらには運や流れを味方につける能力なども必要な、奥が深くて複雑な体系をもった、じつにおもしろい知的スポーツ。その奥深さ、楽しさの一端でも本書でご紹介できれば幸いです。

 まあそこまで大袈裟でなくとも、クイズを通して、日常のおもしろいことを100でも200でも、いや1000でも1万でも知っていたほうが、それだけ彩りに溢れた豊かな人生になるのではないかなあ、と僕は思います。

 

ビジネスにも役立つ先読みのカ

 

 クイズは役に立たないと申し上げましたが、クイズ王としてさまざまな番組に出演したり、クイズ作家としてクイズ問題を構成したりする仕事をしていくなかで、「これを応用すればビジネスパーソンの方々にもきっと役に立つだろうな」と思った出来事はいくつかあります。

 あらゆるジャンルの単語を、頭の中に知識としてたくさんもっていれば、突然、何かの話題をふられたとしても話をつなげることができます。脳内にストックされた単語そのものが、コミュニケーション・ツールになるということです。

 また、クイズ力の向上を志す人であれば、「世界の国々の首都」や「アメリカの歴代大統領」を丸暗記する、という壁にいつかは遭遇することになるのですが(笑)、たとえば体系的に「日本の歴代総理大臣を全部覚える」というプロセス(方法論)を1度でも身につけてしまえば、いろんなことに応用がきくはずです。

 「語呂合わせ」などがわかりやすい例ですが、その場で瞬時にモノを覚えられる技術は存在します。いったん語呂合わせに特化した頭になってしまえば、ビジネスの場で名刺交換をして先方の社名や役職、名前を語呂合わせで瞬時に覚えることも不可能ではないはずです。たとえば僕の先輩にあたるクイズ王の方は、夜空に輝く88個の星座の名前を連ねた「歌」をつくり、それを歌うことですべての星座の名前をアウトプットすることができます。また、歴代オリンピック開催地の「頭文字」で五七調のリズムをつくり、スラスラと暗誦して順番に開催地名を引き出せるようにしている方もいらっしゃいます。

 クイズを通して記憶法を確立し、自分なりに「ある知識体系」を記憶するという訓練に習熟すれば、他ジャンルの物事も体系的に覚えることが可能なのです。

 また僕はクイズ作家として数多くの問題を作成していますが、この面に関していえば、たとえば新聞記事のなかから「あっ、この部分は問題になりそう!」と取捨選択する“モノを見る目”が養えます。これこそがクイズ作成の生命線で、人が知りたいと思える「おもしろい」と「おもしろくない」のラインをシビアに判断することが求められるのです。

 クイズによってシビアな目が養われれば、企画書などをつくるうえでも、「どの部分を強くアピールするか」という点に人よりも敏感になれるかもしれない。ビジネスにおいて非常に大事な「いかに人の目を惹きつけるか」という部分を磨くことができます。

 反対に解答者目線から考えてみると、「出題者はきっとこの部分を聞いてくるだろうな」という「裏読み」や「先読み」といった感覚が研ぎ澄まされます。相手は何をいわんとしているのか? 自分に何を答えさせることを期待しているのか? 図星にあたる部分を先回りして予測することは、結果的に「人がおもしろがるツボ」に敏感になることにもつながるのです。

 さらにいえば、「僕自身はあまりおもしろいとは思わないんだけど、あれっていま人気があるんだ」というモノにも敏感になります。クイズはタイムリーな側面をもっているので、情報性を盛り込むために、当然その時代に合わせてつくられています。

 あらゆるジャンルから出題される可能性がある以上、勝つためには「自分は映画には興味がないから、その方面の知識はシャットアウトしよう」というわけにはいかない。そうなると否応なしに人の話に耳を傾け、興味のない記事にも目を向けることになる。つまり客観的に状況を分析することが求められ、必然的に「マーケティング能力」が鍛えられるというわけです。

 


<書籍紹介>

クイズ王の「超効率」勉強法

日高大介 著
本体価格760円

そんなこと知ってどうするの? ムダな知識のように思えるクイズにも日常で役立つ発想やノウハウがあった。クイズ王がその奥義を開陳。

 

<著者紹介>

日高大介

(ひだか・だいすけ)

1977年宮崎市生まれ、静岡県浜松市育ち。『パネルクイズ・アタック25』(朝日放送)優勝、『タイムショック21』(テレビ朝日)優勝、『クイズ王最強決定戦~THE OPEN~』(フジテレビ)準優勝2回などの実績を誇る。クイズ作家として、クイズ番組やイベントの問題作成・演出・監修まで、幅広く手掛ける。携わった番組は『高校生クイズ』(日本テレビ)、『クイズ!ヘキサゴンⅡ』(フジテレビ)、『クイズプレゼンバラエティーQさま!!』(テレビ朝日)など50本以上。提供したクイズ問題は10万問以上。最近はクイズの「司会者」や「解説者」として、また人を惹きつける「うんちくの達人」として、オールマイティーにメディアを問わず活躍中。
著書に『クイズ作家が教える「マメちく」の本』(飛鳥新社)がある。

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