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社会

結果責任で「政治主導」の実現を

飯田泰之(駒澤大学准教授)

2011年03月14日 公開 2022年08月17日 更新

「専門性」の盾を破れるか

 菅内閣成立後、急速に政策立案における官僚のプレゼンスが高まっている。たとえば、その善し悪しはおいておくとして、首相の突然の増税方針への転換や今次の予算案は、財務省の影響力の拡大を示す典型的な事例であろう。本格的な政治主導への期待が、官界とのしがらみの少ない民主党への政権交代を生んだ。その金看板である政治主導の放棄が支持率を押し下げるのは、当然のことといえる。

 10年以上にわたって喧伝された政治主導が果たされないのはなぜなのだろうか。

 高度に複雑化した行政において、政治家が個々の案件に直接指示を下すことができると考えるのは、無理がある。それゆえに滞りなく、継続的な行政サービスを提供するための装置として官僚は欠くべからざる存在なのだ。したがって、政治主導とは政治家の決めた方針に対し、忠実かつ全力で官僚がその達成に努める状態と理解される。

 だが、単純な業務委託先になってしまっては、官僚には「旨み」がない。権力は裁量に宿るといわれる。自身の判断で関連業界の利益を左右し、傘下の特殊法人の命運を決することができるからこそ官僚は重用されるのである。これらのグリップを政治に握られることは、官界にとって致命的な損失となる。ここに政界と官界の利益相反があるのだ。

 政治からの介入を防ぐ最大の盾が、業務における専門性である。現在すべての省庁、自治体、さらには中央銀行をはじめとする公的機関の業務のうち、門外漢に容易に理解できるものは一つもないといってよい。この専門性という盾をもって、「専門的な見地から変更は不可能」「高度に専門的な内容のため民主的決定になじまない」として政治からの介入を防ぐのである。

 民主党政権が官僚主導へ傾斜する第一の理由がここにある。各省庁はその業務のなかで膨大な実務上の知識を身につけている。これに実効性のある指示を下すためには、政治側に十分な理論武装が必要である。しかしながら、民主党は組織されたブレーンを抱えておらず、さらには政府政策案をとりまとめるシンクタンク部門が整備されていない。その結果、政府案の作成そのものを霞が関という日本最強のブレーン集団に委託せざるをえない。これが民主党特有の政治主導の困難性である。

大臣任期が1年程度では……

 だからといって、政策調査会を通じて業務上の課題への理解を深め、専門性を会得する族議員システムならばよいというわけではない。これは自民党政権下で政治主導が達成されていたわけではないことからも明らかであろう。政治家が政策細部の事務・法務的な手続きの専門家になる必要はない。むしろ、なってはいけないとさえいえるかもしれない。

 必要とされるのは、細部の専門知識なしでも官僚を使って政策目標を達成できるようなシステムをつくることである。いつ、いなくなるかわからない大臣に忠誠を尽くすよりも、省益拡大に努めるほうが得なのだから、官僚側に政治からの要請に真剣に応じるインセンティブを用意しなくてはいけない。

 第一の手段は長期政権の存在である。1年程度では「専門性」を盾に介入をかわすことができるかもしれない。しかし、たとえば4年にわたって同一の大臣に面従腹背を続けることは困難であろう。

 しかしながら日本の議会システムでは、つねに長期政権が継続する状態を期待することはできない。

 そこで次に要請されるのが人事面でのインセンティブである。与党の政治目標の達成に功があった職員が昇進上のメリットを得られるならば、自身の昇進を目標に、政治からの要請に応えようとする者が増える。政治が目標を設定し、その遂行に自信のある職員が手を挙げて、成果に応じた昇進が約束される。その一方で目標達成ができなかった場合には、人事面でのペナルティーを受ける。結果責任による管理は、人事管理手法の王道である。

 ただし、この方法がうまくいくためには政治側にも大きな意識改革が求められる。民主党政権下で活躍した官僚が政権交代後に、職務に積極的であったがゆえに罰を受けるならば、このルートは機能しない。これは小泉・安倍首相退陣以降の各省庁でもみられた話だ。政治主導のためには、政治側がより明確に「官僚とは政策目標達成の業務委託先である」と意識し、官僚側に「業務委託先になってもよい」と思わせるインセンティブ・スキームを用意する必要がある。そしてさらには、「政策の内容にかかわらず、効率的に目標を達成する官僚こそが優秀な官僚である」との意識改革が必要なのだ。

 このように並べてみると政治主導への道は、現代の日本企業に求められる人材活用システムの改革と大きく重なっていることがわかる。企業部門と政治、先に改革を完遂するのはどちらになるのだろうか。

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