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「21世紀型の職人」を作りたい

秋山利輝(秋山木工グループ代表)

2011年04月04日 公開 2021年05月21日 更新

 

あくまで「お客さん」あっての職人

(桐山)だからこそ、秋山木工では「木の道」という、丁稚になる前の「予備校」をつくったそうですね。

(秋山)よくウチに来る若者が「一からやらせてください」といってくるんです。履歴書をみたら年齢は27歳で、転職先が3軒ぐらい書いてある。だから私はいう。「一からやり直したいといっているけれど、その一をいってみろ」と。すると「えっ?何をいえばいいんですか」と聞いてくるので、ここに3つ就職先が書いてある。全部これを卒業してきたんだろう。あなたは何をやれるの?と問うんです。若いうちに3つも会社を渡り歩いたと思っている人間は、私にいわせれば、絶対に「ゼロ発進」できない。自分は何ももっていない、と感じている人だけが、「ゼロ発進」できるのです。

(桐山)予備校のカリキュラムにも興味を惹かれますが、よい家具をつくることのできる職人には、そのような資質が必要ですか。

(秋山)モノづくりとは、「人をびっくりさせ、感動させてなんぼ」という商売です。私はよく、お客さんを驚かせろ、というのですが、この人に頼めば、こういうものができるだろう、という想像の範疇を超えて、「これを頼んでこれが来るのか」という作品をつくる。まずはこれが大事。

もう一つ大事なことは、われわれはあくまで「お客さん」あっての職人ということです。工作作家ではない。それを混同したままうちにやってくる人間もいますが、そういう人には「山のなかで好きなものをつくっていろ」といってやる(笑)。しかし、この点はモノづくりの衰退ともつながっていて、昔の職人は自分が玄人でお客さんは素人というプロ意識のあまり、ある意味ではお客さんをナメていたところがあった。

とくに戦後間もなくボロ儲けした職人たちにはおおよそ、そういう気質がありました。彼らは「機嫌をとってもらわないと仕事しない」人たちでしたが、そんな状況では衰退しないほうがおかしい。いま問題意識として思うのは、「21世紀型の職人」をつくらなければならない、ということです。

(桐山)21世紀型の職人というのは?

(秋山)やはり日本が豊かになって、顧客の目も肥えてきた。だからこそ、単純に「モノをつくれます」というだけではなく、政治経済、芸術、文化まで自分の哲学をもったうえで、仕事ができなければならない。腕があるのはもちろん、さまざまな意味でオールラウンド・プレーヤーでなければならない、ということです。昔の宮大工の棟梁は町の名士だったでしょう。だからよろず相談から揉め事の処理にまで関わった。技術だけではなく、人間を教育することでそのような職人を育てなければならない、ということです。

さらにいえば、「21世紀型の職人」には先を読む力がなければなりません。30年後に世の中がどうなっているかを見通さなければ、その部族自体が滅びてしまいますから。30年後には俺たちの大舞台が必ず用意される。その舞台に上がるにはどうするか、ということを、いまから考えねばならない、ということです。

(桐山)若者たちをみていると、「目立ちたい」「お金を稼ぎたい」というモチベーションよりも、「他人のために働きたい」「自分を超えた何かに尽くしたい」という気持ちが強まっているように感じます。秋山さんのところに人が集まるのも、「職人」が注目されるのも、そのような流れと関係ある気がするのですが。

(秋山)そうですね、これだけ生きがいのない、感動のない社会に生きていると、感動とは何かがわからなくなってくる。しかしだからこそ、どこかで素晴らしい出会いを本能的に若者は求めているし、それを経験すれば、その印象が強く焼きつくんです。そこで何かを感じた人がウチにやってくる。そういうものを与えてくれる大人はいないか、といって。

(桐山)最後に、秋山さん自身が考えている30年後のビジョンを教えてください。

(秋山)戦国武将でたとえるなら、信長でも秀吉でもなく、家康で死にたいですね。徳川幕府が270年も続いたのはやはり、家康が日本を平和に繁栄させたい、と死ぬまで願っていたから。「21世紀型の職人」づくりに精を出し、それによって次世代の日本が少しでも活力のある国になればよい、と思います。

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