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「日本の現場力」を信じよ

冨山和彦(経営共創基盤CEO)

2011年04月11日 公開 2023年10月04日 更新

 2011年3月11日に発生した大震災に寄せて、月並みなお見舞いやお悔やみはもういうまい。この原稿を書いている瞬間にも、被災者の皆さんも、いろいろな形で救援に入っている人びとも、地元で自ら被災しながらもそれに耐え、より厳しい状況にある人びとの支援を行なっている人びとも、原発問題の最前線で戦っている東電とその協力会社の職員、自衛隊、機動隊、消防の皆さんも、それぞれに愛する家族、仲間、同胞、共同体、国家国民、そしていまは亡き人びとのため、悲嘆や恐怖に耐え、勇気を振り絞って生き抜こう、闘い抜こうとしているのだ。そういった人びとの、未来に向かって生きよう、命を生かそうとする心と行動を讚え、精一杯の思いを馳せ、それぞれにできる最大限の行動をすることこそが、いま私たちがなすべきことである。3月16日の天皇陛下のお言葉に、すべて語り尽くされているとおりだ。

 じつは私がCEOを務める経営共創基盤(IGPI)も100%子会社である「みちのりホールディングス」を通じて、被災地域において、「福島交通株式会社」(本社福島県福島市)、「茨城交通株式会社」(同茨城県水戸市)、「岩手県北自動車株式会社」(同岩手県盛岡市)という3つの地方バス会社グループに100%出資・経営支援している。今回は、地元バス会社の視点から現地の状況をお伝えし、被災地復興、さらには日本再生への道筋についての思いを述べたい。

 これらのバス会社は、路線バス事業者として、被災地域における公共交通機関の中核的存在であり、弊グループだけで合計2100名の従業員、1200台のバスが岩手、福島、茨城の各地域で働いている。現在、職員の3名にいまだ連絡が取れず、引き続き安否確認を続けているほか、車庫・営業所等の建物にも一部損傷被害を受けた。家族や親戚が被災者になっている職員の数も少なくない。しかし、保有バス車両に関する被害は比較的軽微であり、かつ本社機能は維持されており、現在、地域住民の皆さまの移動手段として、安全確保に留意しつつ、精一杯の努力で最大限の運行を復旧、維持している。鉄道の本格復旧にかなりの時間がかかることが予測されるなか、また自家用車の多くが破損、あるいはガソリン補給が厳しくなるなか、ほとんど唯一の公共交通ネットワークとして、被災地域の生活と復興を支えるべく不眠不休で奮闘を続けているのだ。この状況は、被災地域で路線バス事業を営む事業者においては、各社みな同様である。

 また、国土交通省をはじめとする中央官庁や各地方公共団体等、当局の要請に基づき、

・福島第一原子力発電所、福島第二原子力発電所周辺の避難対象住民の方々の移送業務

・国内外の各方面から被災地支援に到着された方々や医療チームの輸送業務

・不通鉄道の代替輸送業務(高速バス輸送力強化)

・津波によって甚大な被害を受けた岩手県沿岸部の被災者の内陸部への移送業務

などについても、他のバス事業者とともに昼夜兼行で対応中だ。

 われわれも、この国家的、歴史的な危機においては、公共的、長期的な使命を第一に不退転の覚悟をもって取り組むべきものと考え、現在、現場要員を地震発生時点の倍に増員し、東京からの支援体制も整備し、みちのりホールディングスおよび地方バス3社の役職員一同とともに、まさに体を張って被災地における公共インフラとしての使命を果たすべく、格闘を続けている。

 この間、地震直後の週末には現地の燃料不足が深刻化することがはっきりしていた。広域かつ寒冷地での非都市部の激甚災害では、病院等の自家発電や緊急車両用燃料だけでなく、物資や人を運ぶための車、バス、トラックの燃料、暖をとり煮炊きをする灯油や重油、プロパンガスの供給は重大な意味をもつ。被災地域のバス事業者の燃料も、当局要請の緊急運行もあって、あっという間に逼迫した。こちらは土曜日の時点から、政府のいろいろなレベルに直接、間接に働きかけたが、とにかく指揮命令系統は大混乱。おそらくバス協会、トラック協会を含め、いろいろな人が早い段階から同様の窮状を訴えていたはずだ。

「防災は県単位対応」が原則なところに襲った広域激甚災害。県の対策本部、国交省、経産省、警察、官邸の対策本部、そして東電と関係者が多く、いろいろな指示が行ったり来たり。原発問題の深刻化もあって、完全にオーバーフロー状態であった。NHKをはじめ、メディアが現地の燃料不足とその深刻な影響を本格的に報道しはじめたのが週明け火曜日。枝野官房長官が、被災地の燃料不足解消のため、国民全体に買いだめ自粛を求めたのは翌水曜日になってから。取り崩した石油備蓄の被災地優先配分の方針が、明確に打ち出されたのがその翌日。それまでに全国各地で燃料の買いだめが猛烈に進んだのはご案内のとおりだ。

 たんに混乱していて遅れたのか、国民全般に痛みの共有を求めることがかえってパニックになると恐れたのかはわからない。しかし政府が日本国民を信じるならば、もっと早い段階で同じ要請を国民一般と関係業界にできたのではないか……いや、これももういうまい。

 大事なのは未来である。この間、私たちのところでは、むしろ役所の現場レベルや外郭企業が頑張ってタンクローリーを回してくれたり、心ある運送業者が軽油を回してくれたりしたおかげで、ぎりぎりバスを止めずに済んでいる。他の路線バス事業者も似たり寄ったりの状況のようだ。きっと同じような現場の踏ん張り、助け合いが自発的、多発的に被災地のあちこち、日本のあちこちで起きていたのではないか。やはり日本人はすごい、日本の現場力はすごい。以前にも書いたが、私たちは私たち自身をもっと信じ、もっと誇りをもっていい。そして国のリーダーたちも、日本人、日本国民を信じて、これからの復興過程の政治のかじ取りをしていってほしい。

 最後に読者の皆さまも、それぞれに大変な状況かとは思いますが、いまこそ世界に誇るべき日本国、日本国民の底力をみせるときです。お互いに支え合い、力を合わせて、この難局を、必ずや日本再生の出発点にしていきましょう。

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