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仕事

社員一人ひとりに起業家魂を~メガチップス

進藤晶弘(メガチップス会長)

2014年05月07日 公開 2014年05月09日 更新

《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』 2014年5・6月号Vol.17[特集]実践! 自主責任経営 より》

 

――やりたいことをやることが自己責任の意識を育む

気が狂っている――。周囲からそう言われつつ、50歳直前で大企業社員の地位を捨ててLSI(大規模集積回路)ファブレスメーカーのメガチップスを創業し、現在は同社会長の進藤晶弘氏。わずか10年で東証1部に上場させるほど、同社を大きく育てあげた人物だ。時代に先駆けてオーダーメードのシステムLSIの開発に力を入れ、不可能と言われることも成し遂げてきた。同社は現在、グループで従業員数700名、売上高600億円を超える規模に成長し、今なお、自主独立の精神で新しいものを生み出していくエネルギーに満ちているという。進藤会長本人に、創業の経緯やベンチャー哲学を語ってもらった。

<構成・写真撮影 高野朋美>

 

「起業家」「事業家」「経営者」

 50歳直前で勤めていた会社を飛び出し、メガチップスを創業した私を、人は「起業家」と呼びます。でも、会社を興せばだれでも起業家なのでしょうか。私はそうではないと思っています。起業家とは、会社ではなく、事業を興す人。自分がやりたいことを事業として興す人のことです。

 私は実のところ、自分の勤務していた会社でやりたいことを実現したかった。新たに会社を設立するよりずっとラクですから。でも、私がやりたくてやりたくて、燃えるような思いで主張し続けたことを、会社は受け入れてくれませんでした。「既存の組織で実現できないのなら、自分で会社をつくってやるしかない」。そう思ってメガチップスを立ちあげたのです。つまり、やりたいことをやるための手段が会社設立だった。それだけのことです。

 私は、「起業家」「事業家」「経営者」はそれぞれ違う才能を持っている人だと思います。事業を興す人が起業家で、事業家は既存の事業を含め企業や事業規模の拡大に才能を発揮し、経営者は既存の組織・事業の中で効率的に運営する才能に()け、利益最大化に手腕を発揮する人です。ところが世間では、この3つを区別しないでひとくくりにしている。それこそが、日本にベンチャー魂を根づかせない1つの原因になっているのではないでしょうか。

 また、起業家というのは、たんに事業を興すだけの人ではありません。その特徴は、やりたいことをやり抜くことです。だから、会社を大きくすることには、あまり興味がない。やりたいことを達成できれば、それでいいのです。なのに世間は、「開業率を上げろ」「会社を増やせ」だの言う。しかし、「ハコモノつくって魂入れず」。会社をつくることばかりが大事なのではありません。一人の人間として「何をやりたいか」がいちばん大切なのです。

 自分がやりたいことをやって、ほかにないものを1つでも開発し、1人でも2人でも雇用を生み出す。すごく価値のあることじゃないですか。ところが世間は、大金を生み出す人だけを「成功者」と言う。では、失敗した人は意義のある仕事をしなかったのかというと、そうではない。事業を興して1人でも雇用すれば、サラリーマンで一生を終える人より、よっぽど社会に貢献していると思いませんか。

 カネもうけをするのが起業家だという観念が定着しているから、「起業家はうさんくさい」というイメージを払拭できない。そのとらえ方を改めないかぎり、日本で真の起業家なんて育つはずがありません。

 

ゲーム機の構想が転機に

 「ならば進藤さん、あなたが会社をつくってでもやりたかったこととは何ですか?」と問われれば、それは「顧客専用のシステムLSI事業」と答えます。

 私は50歳直前まで、三菱電機とリコーでサラリーマンをしていました。1970年代、三菱電機に勤務していたとき、マイクロプロセッサーやメモリーなどの標準LSIが登場します。機器メーカーはこれを使って、自社製品を製造しました。ワープロなどOA機器がその代表です。

 しかし、これには問題点がありました。どの商品にも同じ標準LSIが搭載されるわけですから、同業他社がソフトをちょっと変えるだけで、次々と類似商品が誕生し、機器の寿命が短くなってしまう。そんな状況を目の当たりにし、「はたして、機器をつくる人はこれで幸せなのだろうか」という疑問を抱きました。

 「これではいけない」と思い構想したのが、顧客ごとに特化したオリジナルの「システムLSI」。他社が容易にマネできない製品、世の中にない斬新な機能を実現するには、顧客専用LSIが不可欠と考えました。

 でも、当時の会社での仕事は、汎用性のある標準LSIを大量につくること。「このまま一生、半導体工場のクリーンルームで過ごすのはイヤだ。設計など、もっと別のことをやりたい」という思いが募り、会社に訴えました。しかし、認めてもらえませんでした。

 それでリコーに転職し、顧客専用システムLSIの事業化に取り組もうとしました。ただ、当初は実績がないので注文が来ない。

 転機が訪れたのは、任天堂との出合いです。あるとき、顧客専用システムLSIを売り込みに訪問したところ、応対してくれた開発責任者が、「今、こういうものを考えている」と、子ども専用ゲーム機のコンセプトを見せてくれました。ふつうだったら「なんだ、子ども用のゲーム機か」と思うだけでしょうが、私には「すごい」と感じるところがありました。これまでにないゲーム機の誕生を予感したからです。

 第一に、キーボードレスであること。それまでのゲームは、パソコンを使ったものが主流でした。しかし、キーボードをなくせば、子どもの指先だけで操作できる。第二に、子どもが買える値段であること。本体価格は2万円までで、ゲームセンターにあるような1台100万円もする業務用ゲーム機ではない、ということです。第三に、クオリティーが1台100万円のゲーム機に劣らない性能。当時、ゲームセンターでは「ドンキーコング」というゲームがはやっていて、キャラクターの滑らかな動きが子どもたちの心をとらえていました。だから、「あの滑らかな動きははずせない」と言うのです。

 

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。以下、「起業家はできる方法を考える」「下請けか、自主独立か」「社内にベンチャー文化が定着」「若手が共同で新理念を構築」などの内容が続きます。記事全文につきましては、下記本誌をご覧ください。(WEB編集担当)

<掲載誌紹介>

2014年5・6月号Vol.17

5・6月号の特集は「実践! 自主責任経営」

「自主責任経営」とは、“企業の経営者、責任者はもとより、社員の一人ひとりが自主的にそれぞれの責任を自覚して、意欲的に仕事に取り組む経営”のことであり、松下幸之助はこの考え方を非常に重視した。そしてこれを実現する制度として「事業部制」を取り入れるとともに、「社員稼業」という考え方を説いて社員個人個人に対しても自主責任経営を求めた。
本特集では、現在活躍する経営者の試行や実践をとおして自主責任経営の意義を探るとともに、松下幸之助の事業部制についても考察する。
そのほか、パナソニック会長・長榮周作氏がみずからを成長させてきた精神について語ったインタビューや、伊藤雅俊氏(セブン&アイ・ホールディングス名誉会長)、佐々木常夫氏(東レ経営研究所前社長)、宇治原史規氏(お笑い芸人)の3人が語る「松下幸之助と私」も、ぜひお読みいただきたい。

 

著者紹介

進藤晶弘(しんどう・まさひろ)

メガチップス会長

1941年愛媛県生まれ。’63年愛媛大学工学部卒業、三菱電機入社。’79年リコー入社。同社電子デバイス事業部副事業部長、同社半導体研究所所長などを経て、’90年株式会社メガチップス創業、代表取締役社長。’98年同社株式店頭公開。2000年同社東証1部上場。’02年同社会長(現在に至る)。以降、大阪市立大学大学院創造都市研究科特任教授を務めるなど、起業家の育成に力を入れてきた。

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