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なぜ、サッカーW杯開催地は新興国が多いのか?

サッカーマニア・ラボ

2014年06月12日 公開 2024年12月16日 更新

※本稿はサッカーマニア・ラボ著『[図解]ワールドカップで世界がわかる』より一部抜粋・編集したものです
 

W杯は新興国で開催せよ!

2014年6月12日から7月13日にかけて、ブラジルで20回目のサッカー・ワールドカップ(W杯)が開催される。前回2010年のW杯は南アフリカで開催された。

ブラジルの後には、招致争いでアメリカ、イングランド、日本に圧勝したロシアが2018年に、カタールが2022年に開催することが決まっている。さらに、2026年のW杯は中国が招致しようとしているとの報道もある。

つまり、W杯は4大会連続(中国が招致に成功すれば5大会連続)で、「新興国」での開催となる。W杯を主催する国際サッカー連盟(FIFA)は、経済不振の続く先進国よりも、高成長の期待できる新興国の市場に惹かれているようだ。

そもそも新興国とは、急速に経済成長している国を指す。ブラジル、ロシア、インド、中国が代表的な新興国とされ、この4カ国はそれぞれの頭文字をとって「BRICS(ブリックス)」と呼ばれている。

4カ国は国が成長する条件である国土・資源・労働力の豊かさをすべて満たしており、潜在的な経済力が極めて高いと評価されている。

南アフリカはアフリカ屈指の経済大国で、「VISTA」(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチンの頭文字から命名)と呼ばれる新興国のグループに属する。

カタールは中東のペルシャ湾に面した産油国で、「MENA」(アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、サウジアラビア、バーレーン、モロッコなど)と呼ばれる新興国のグループに属している。

 こうした新興国にとってW杯やオリンピックのようなビッグイベントの招致は、さらなる経済発展への起爆剤となる。

たとえば日本が1964年に東京オリンピックを開催したときには、それを機に新幹線や首都高速などのインフラが整備され、1960年代半ばからの高度経済成長へとつながった。

2014年のW杯、さらに2016年の夏季オリンピックを控えるブラジルでも、スタジアム建設や交通機関の整備などに約100兆円もの金額が投じられている。HSBC投信が発表したデータによると、その投資がもたらす直接的な経済効果は1.8兆円、波及効果まで含めると5.2兆円にのぼるという。

 

世界が知ったブラジル社会の現実

しかし、新興国はそれぞれ課題を抱えており、決して万事快調というわけではない。場合によっては、W杯を開催できなくなる事態に陥るかもしれないのだ。

ブラジルの場合、格差の問題が大きく立ちはだかっている。確かに、ブラジルは2000年代以降、著しい経済成長を果たし、国民の平均所得は上昇、失業率も低下した。しかし、庶民が利用する公共交通機関や医療サービス、教育などの質が充実しているとはいえず、政治の汚職も頻発している。

これらの改善を求めるブラジルの人々は2013年6月、コンフェデレーションズカップ(プレW抔)期間中にデモを実施。開幕戦となったブラジル対日本の試合前、スタジアムでルセフ大統領が挨拶した際には、地元の観衆の多くがブーイングを行った。W杯に巨額の投資をするよりも、国民の生活環境の改善のために投資すべきだというのだ。

やがてデモはサンパウロ、リオデジャネイロ、ベロオリゾンテといった主要都市にも拡大し、最終的には80都市以上で約140万人が参加する全国規模のデモヘと発展。コンフェデ杯を観戦した世界中の人々が、ブラジル社会の現状を知ることとなった。

ブラジルの次にW杯を開催するロシアは、2014年冬にソチオリンピックを成功させ、大国のプライドを見せつけたが、経済の停滞に手を焼いている。ロシア経済は石油や天然ガスといった資源への依存度が高すぎ、工業は国際競争力がない。したがって、資源価格が下がればロシア経済は一気に傾いてしまう。

カタールは移民に過酷な労働条件を強いていることが問題視されており、中国は「奇跡」といわれた経済成長に陰りが見えはじめている。

新興国が大きなポテンシャルをもっていることは間違いない。だが、過度な成長期待はもはやできないというのが現実になりつつある。今後、FIFAは新興国を優先するような形でW杯の開催地を選定したことを後悔することになるかもしれない。

 

 

〔サッカーで読み解く国民性〕

☆Brazil(ブラジル)☆

多民族の融合がもたらした魅惑のサッカースタイル

 ブラジルのサッカーは美しく楽しい。華麗なドリブル、巧みなパス、独特のフェイント、トラップ。高い個人技に裏打ちされたテンポのよい攻繋的サッカーは、世界中のファンを魅了し続けている。この魅力的なサッカーは、多民族の融合によって形成された感性重視で情熱的な国民性の発露といえる。

 ブラジルは「人種のるつぼ」といわれ、先住民に加えて欧州系、アフリカ系、アジア系、アラブ系など、ありとあらゆる人種が混在している。サッカーにおいては植民地時代に奴隷として連れてこられたアフリカ系の黒人の影響が強く、ブラジル一流のボールタッチや身のこなしは彼らにルーツがあると考えられている。アフリカ系以外の人々も、その影響下でプレーしているから、やはり独特のものになる。

 同じ南米でもアルゼンチンなどは白人の割合が多いため、ブラジルのようなリズミカルなサッカーを生み出すことはできない。多様性のあるブラジルだからこそ、万人を唸らせるサッカーが生まれたのである。

<DATA>
国土面積:851万2000k㎡
人口:1億9840万人
言語:ポルトガル語
主要住民:欧州系、アフリカ系、東洋系、混血
宗教:カトリック65%、プロテスタント22%
W杯出場回数:20回

 

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