健康寿命を延ばし、元気に老後を送るためには、日々なにを食べるかはとても重要です。高齢期に気をつけたい食事のポイントを、書籍『精神科医が教える 心が軽くなる「老後の整理術」』より紹介します。
※本稿は、保坂隆著『精神科医が教える 心が軽くなる「老後の整理術」』(PHP文庫)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「人生で食事を楽しむのはあと何回?」老後こそ量より質の食べ方を
男性の同窓会で昔の仲間が集まると、必ず飛び出すのが「若い頃はラグビー部だったから、そりゃあよく食べたものさ。皆で『食べ放題』の店に行くと、大抵は店の人に嫌な顔をされたな」という若い頃の「大食い自慢」です。
たまには健啖だった昔を懐かしむのも良いのですが、年を取れば、食に対する考え方にも方向転換が必要になってきます。
その方向転換の一番のポイントは、「量より質」への意識的な切り替えです。
若い頃は、とにかくボリュームたっぷりで食べ応えのあるメニューに魅力を感じていた人も、年齢を重ねるとともに、だんだん味や食材のクオリティに関心が移っていくのが一般的です。
そうなると、安くて量があるものより、本当に美味しいもの、味わい豊かなものを食べたいと思うようになるのです。
「人生の中でふと、あと何回食事を楽しめるのだろうと考えたら、一回一回の食事をいい加減に済ませてはもったいないと思えたんです。それで、これまで以上に食事には気を遣うようになりました」
こう話すFさんは、料理を「老後の趣味」として選び、週に一度の料理教室で和食を学んで、家でも蕎麦を打つほどの腕前になったそうです。
会社に勤めていた頃は、料理は奥様に任せっきりで、台所にも入らなかったのですが、同じく老後の趣味として始めた釣りで魚を持ち帰っても、自分でさばけないのはどうかと思い、料理を習い始めました。そうすると、今度は釣りより料理のほうが楽しくなって、今では奥様と料理の腕を競い合うほどになったといいます。
「基本的には質素な献立なんですが、一品だけは『こだわりのある食材』を取り入れて、満足感のあるメニューにしているつもりです。他にはこれといった贅沢はしていませんが、月に一度、妻とちょっと良い店に外食に出かけるのが一番の楽しみです」
会社員時代とはまったく違う楽しみができて、充実した生活を満喫しているFさんと同様、奥さんも食には強いこだわりを持っています。しかし、その関心はFさんとは別の方向に向かっているようです。
「私も美味しいものには目がないのですが、それ以前に『食の安全』を考えてしまうのです。最近は、輸入食品の危険性も話題になっているので、食品を購入する際は、老眼鏡持参で、じっくり調べてから買うようにしています」
このように、夫婦とはいえ、食へのこだわりは人それぞれです。いずれにせよ高齢になると、食事は心身の健康を左右する重要なファクターですから、決しておろそかにできないことは確かです。
また、毎日の食事を作るのを「面倒くさい」と感じるか、今度は何にしようか「楽しみ」と思うかでは、単調になりがちな老後の生活では大違いです。
質素でシンプルにまとめた献立の中に、ひとつ旬のものを取り入れたり、ご当地の産物や手作りのデザートを加えたりするなど、こだわりのあるアクセントを持ってくることで、クオリティの高い食卓を演出できるでしょう。
健康づくりのための「粗食生活の充実」こそ現代の贅沢
健康的な食事を考える時、脂肪や糖分、塩分などが非常に多いのが現代食だとすると、目指すのはその反対の「粗食」ということになります。
ただし、注意してほしいのは、ここでいう粗食とは「粗末な食事」ではないということです。
粗食と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、玄米のどんぶり飯に漬物と小魚、味噌汁だけのような「貧しい食卓」ではないでしょうか。
確かに、昔のテレビ小説「おしん」の時代なら、そうした食事が多かったでしょうが、コンセプトが「健康づくりのための粗食」であるなら、そこには貧しさというより、伝統食ならではの知恵や工夫が求められるはずです。
粗食という言葉のニュアンスが誤解を招くなら、「伝統食」や「郷土食」などと言い換えても良いでしょう。
「『地産地消』で地元の食材を使った料理」「食品添加物などを含まない手作りの料理」「地域に伝承されてきた調理法で作られた料理」「脂肪や塩分、糖分などを控えた健康に良い料理」であることが、広義での「現代版」粗食の条件です。こうして条件を並べてみると、今の便利さ・効率優先の食事より、こうした粗食のほうがずっと食べるのが難しいかもしれませんね。
かねてより先進国では肉や油の摂取量が増え、肥満や生活習慣病が増える傾向にあることから、シンプルで自然な食生活が見直されています。
それが世界的なスローフードの普及や、「ロハス」(健康で持続可能な生活スタイル)な暮らし方の拡大につながったのですが、その日本オリジナル版が「粗食」というスタイルだとも言えます。
たとえばコーカサス地方のヨーグルトや、イタリアのオリーブオイルなどを代表とするヘルシーな郷土食は世界的に有名ですが、日本の伝統食といえば、ごはんを主食として、お味噌汁や漬物に、季節の野菜、魚介類や大豆製品、海藻、芋やきのこなどを多彩に組み合わせた食事でしょう。全体に、動物性の油分が少なく食物繊維が多い、低カロリーが特徴です。
つまり、これは糖尿病や高脂血症などの生活習慣病の改善に応じたメニューとほぼ同じ特徴を持っているわけですから、健康的な「日本の粗食文化の良さ」が改めて世界に認められるのも分かるというものです。
私たちの周りには、このように「健康に良い」と言われる食品がいくらでもあるのです。さらに、日本人の遺伝子に刻まれた伝統の味には、どこかホッとするような懐かしさを感じるものです。
前述の江戸時代の本草学者・貝原益軒は、著書『養生訓』で、過食を戒しめ粗食を尊ぶ「粗食長寿説」を説いていました。
ごはんを主食に一汁三菜という伝統的な献立にすることで、肥満や生活習慣病などのリスクを遠ざけ、健康を維持できるのなら、粗食生活を続けられる環境こそ、現代人にとっては贅沢なことなのかもしれません。