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「劇場型百貨店」が感動を生み出す

椙岡俊一(H2Oリテイリング相談役)

2015年07月30日 公開 2023年02月15日 更新

《隔月刊誌『PHP松下幸之助塾』[特集:活力を吹きこむ]より》

 

「モノ」を売る前に「コト」を売る逆転の発想

百貨店の市場縮小が止まらない。マーケット全体の規模は、いまやバブル時代の6割程度。老舗と呼ばれた百貨店の多くは、統廃合を繰り返しながら生き延びてきた。そんな中、消費税増税後も、連日多くの顧客でにぎわい、売上を着々と伸ばす百貨店がある。2012年、大阪都心にリニューアルオープンした「阪急うめだ本店」だ。百貨店不振の時代、なぜ活況ぶりを見せているのか。デパート革新の仕掛け人、椙岡俊一氏が、その理由を語る。
<取材・構成:高野朋美/写真撮影:清水 茂>

 

「舞台」が生む感動と感激

 この胸につけたバッジが何だかお分かりになるでしょうか。12月でもないので季節外れと思われるかもしれませんが、サンタクロースです。これはH2O(エイチ・ツー・オー)グループが行なっている「H2Oサンタ」という社会貢献活動のキャラクターなのです。百貨店活性化のお話をするのに、「なぜ社会貢献の話を?」と思われるかもしれませんが、関係なさそうで、実は関係あるのです。

 阪急うめだ本店では、小さなNPO団体を店頭でご紹介する活動を行なっています。単なる金銭や物の寄贈ではなく、百貨店というメディア特性を生かした社会貢献です。常時、9階の祝祭広場の一角で、NPOの方々の活動のPRをしており、年2回、「NPOフェスティバル」を開催しています。

 これが私たちの予想をはるかに上回る大盛況を博したのです。4000人ものお客様が参加され、チャリティイベントを楽しんでくださいました。一番喜んでくださったのは、NPOの皆さんです。宣伝力のある団体ならともかく、小さな団体がこれほど多くのお客様と接点を持つ機会は滅多にありません。「自分たちの活動を知ってもらえた」と大感激され、お客様にも「いい勉強ができた」と喜んでいただきました。

 企業の社会貢献というと、どうしてもお金の寄付に留まりがちですが、阪急うめだ本店では、こうしたフレキシブルな活動ができ、しかも予想外の反響を得ています。これができるのは、私たちが「感動を生み出す舞台」を持っているからにほかなりません。

 

モノが売れない時代にどう売るか

 阪急うめだ本店は、「劇場型百貨店」というコンセプトを持っています。簡単に言えば、百貨店は舞台、という考え方です。これを詳しく説明する前に、まず百貨店業界がいまどんな状況に置かれているのか、明らかにしておく必要があります。

 全国百貨店売上の推移を見ると、1991年のバブル期を頂点に、一転して下り坂をたどっています。バブル崩壊後に「また持ち直すだろう」と思っていたら、ピーク時に9.7兆円あった売上高は、2014年には6.2兆円まで縮小しました。

 この背景には、マーケット構造の変化があります。変化の要因の1つは、少子高齢化と人口減。購買客が減るから、当然マーケットはしぼみます。2つ目は、成熟化によるモノ離れ。消費者はすでに、必要なモノは手に入れており、いますぐ買わなくても事足りている状態にあるのです。こうした状況が織り混ざり、百貨店から客足がどんどん遠のくようになったのが現状です。

 私が阪急百貨店(現エイチ・ツー・オーリテイリング)の社長に就任したのは、百貨店業界が下降線をたどり始めた15年前のことで、モノをそろえれば売れていた時代から、モノがいくらあっても売れない時代に突入していました。

 こうした流れに対応した経営へと舵を切るため、最初の2年間は抜本的な構造改革に着手。そして2002年からは、いよいよ「今後のマーケットにどう向き合うか」という難題と対峙しました。

 テーマとなったのは、21世紀の小売業はどうなるか。モノは十分にあるのに、さらにお買い求めいただくには、どういうことが必要だろう……。その議論の末、私たちはある1つの結論にたどり着きました。

 

人は「機能」だけではお金を払わない

 それは「成熟化時代の生活者は、モノの持つ機能だけでは興味を示さない」ということ。つまり、私たちがこれまで売り文句にしてきた「軽いですよ」「丈夫ですよ」といった価値には、もう目が向けられなくなったということです。

 モノには、目に見える価値と、目に見えない価値があります。見える価値とは、先ほどの「軽い」「丈夫」といった機能的な価値。一方、見えない価値とは、金銭では計れない、生活者一人ひとりの固有の価値です。私たちはこれを「文化的価値」と呼んでいます。

 包丁を売るとき、品質の良さをアピールするのに、目に見える機能的な価値を訴求します。一方、包丁の上手な使い方や使い勝手の話をする、つまり使用価値を提案することが、文化的価値の訴求になります。要するに、「モノ」を売る前に「コト」を売るという発想なのです。

 目に見える価値には、「品質と価格」という価値もあります。大量生産を背景につくられる〝安くていいもの〟という価値です。でも、その分野で勝負しても百貨店は勝てません。なにより、百貨店という業態特性を考えれば、私たちの進むべき道がそれではないことは明白でした。

 生活者は、目に見える価値、見えない価値のどちらか一方を選んでいるわけではありません。両方の価値がつねに一人の生活者の中に併存していて、時と場合によって使い分けられています。だとするなら、私たち百貨店が着目すべきは、安くていいもの路線ではなく、「コト」を売ること。つまり目に見えない文化的価値にアプローチすることだと判断したのです。

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。

 

著者紹介

椙岡俊一(すぎおか・しゅんいち)

エイチ・ツー・オー リテイリング相談役

1940年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、’64年阪急百貨店に入社。営業、販売促進、商品政策など主力業務を幅広く経験し、’94年取締役を経て、2000年社長に就任。経営改革に取り組み、’05年会長に。’07年阪神百貨店との統合による社名変更を経て、’15年4月より現職。社長時代に「劇場型百貨店」を構想し、’12年の阪急うめだ本店のリニューアルを成功に導いた。

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