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松下幸之助さんの人の話を聞く姿はすさまじかった

水野博之(元パナソニック副社長)

2016年03月08日 公開 2024年12月16日 更新

『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2014年11・12月号Vol.20より

 

松下幸之助、永遠に成長する魂

幸之助さんについて最も印象に残っているのは、人の話を聞くときの姿勢です。ひざの上に手を当てて、姿勢を正して、じっと前を向いてうなずきながら聞いてくれます。この姿勢を崩さないのです。

少なくとも私は、幸之助さんがあぐらをかいたり、足を組んで座ったりしたのを見たことがありません。腕を組んだ姿も見たことがない。人の話を聞くときは、何時間でも、どんな若僧の話でも、1時間でも2時間でも、ひざの上に手を当ててうなずいて聞いてくれました。これだけでみんなファンになるのです。人の話を聞く幸之助さんの姿はまことにすさまじいものでした。

私の恥ずかしい経験を申し上げましょう。ちょうどLSI(大規模集積回路)が世の中に出始めたころ、幸之助さんや重役の方々の前で説明をしたことがありました。まだ今からこういうものが出る、という段階での話でした。私も若くて、むずかしいことをむずかしく言うものだから、重役の皆さんは腕を組んだり足を組んだり、最後は皆、居眠りをしてしまい、なかにはいびきをかく人も出てくるありさまでした。しかし幸之助さんだけがいつまでもまじめに聞いてくれるのです。

説明のあとで幸之助さんに、「何かご質問はございますでしょうか」と言ったところ、「水野君、それは儲かるのかい」とおっしゃいました。私も生意気でしたから、「こんな技術は儲かるとか儲からないとかいうことを言っていただいては困ります。やらなくてはいけない技術です」と答えたのですが、あとになって考えると、幸之助さんは、きょう儲けろとおっしゃったのではありませんでした。今から投資をして、いつの日か企業にリターンがあるのかどうか、そのリターンの匂いを嗅ぐために、私のわけの分からないむずかしい話を1時間あまりじっと聞いていたのです。おそらく内容は全然理解できなかったと思います。しかし、自分の経営のセンスでその匂いを嗅ごうという一心で、難解な話を聞き続けた。これは、ふつうの人にはできません。

幸之助さんは、いろいろな意見を、たとえつまらない意見でも黙って聞かれます。

聞いた結果どうするかと言うと、それをどう判断したらいいかをまた別の人に尋ねるのです。私の経験を申し上げますと、幸之助さんのところに新しいプロジェクトを持っていき、まずはゆっくり聞いていただきます。説明が終わると、「隣の部屋でちょっと待っとれや」ということになります。隣で待つ2、30分のあいだに幸之助さんはどこかに電話をかけて、「どう思いますか」と、だれかに尋ねているのです。

幸之助さんの社外のネットワークは凄いものがあった。いま申し上げたように、幸之助さんと話をすると、じっくり聞いていただくだけで相手は嬉しくなって、見事なヒューマン・ネットワークができあがるわけです。自分は勉強しなくても百科事典が後ろにいるようなものです。

専門家だいたい3人ぐらいに聞いておられました。その結果、3人に面白そうだと言われたら「やってみい」となりますが、異議があると、「いま意見を聞いてみたんだけれども、こんなときはどうや」と指摘され、それが見事に当たっているのです。

シリコンバレーは、組織を超えた人と人の横のつながり、つまりヒューマン・ネットワークによって発展してきた側面があると言えます。シリコンバレーよりも先にヒューマン・ネットワークを駆使していた幸之助さんは、まさにいちばんのパイオニアだったと思います。

 

2009年4月27日、松下幸之助没後20年の命日に開催の記念カンファレンス(PHP研究所京都本部)での講演より

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