松下幸之助はなぜ、運が強い人を採用したのか
2016年12月22日 公開 2022年10月27日 更新
あなたは運が強いほうか
人間万事塞翁が馬
「人間万事塞翁が馬」という言葉があります。それは中国の次のようなお話から生まれたものです。
砦(塞)の近くに老人(翁)が住んでいました。ある日、その老人が飼っていた馬が逃げ出してしまいました。隣人らは慰めようとやってきましたが、老人は落胆するでもなく「これが幸福にならないとも限らないではないか」と淡々としています。すると数カ月後、何と逃げたはずの馬が駿馬を引き連れて帰って来たのです。隣人たちは口々に幸運を祝いますが、老人は喜ぶこともなく今度は「これが不幸のもとになるかもしれないではないか」と言いました。その後、逃げた馬が連れてきた駿馬のおかげで良馬に恵まれるようになり、老人の家は日に日に栄えていきました。
ところが、そうした折に老人の息子が乗馬中に太ももの骨を折る大怪我をしてしまいます。隣人たちはその不運を憐み、またお見舞にやってきました。それでも老人は「これが幸福にならないと限らないではないか」と言います。実際、その大怪我から1年ほど経った時、隣の国が砦に攻め込んできました。男たちは弓矢を持って応戦に出ていきましたが、ほぼ全滅。けれどもその老人の息子だけは、足が不自由だったおかげで戦に参加しないですみ、生き残ることができたそうです。
運が強いか弱いか、ほんとうのところは誰にもわかりません。前述の話のように、幸運だと思っていたことが不運の原因になり、不運だと思っていたことが幸運を招き寄せることだってあります。
運が強い人を採用・登用した松下幸之助
パナソニックの創業者・松下幸之助は、「知識のあるなしということなら、試験でもすればすぐわかる。人柄とか性質といったことも全面的にはわからなくても、だいたいのところはわかる。才能もある程度まではわかるだろう。けれども運が強いかどうかはちょっとやそっとではわからない。第一、…中略…運というような、そんな非科学的なものはありはしないという見方も、あながち否定はできない。運があるという証拠を見せろと言われても、なんとなくそういうものがあると思うという程度のことしか言えないのがほんとうのところである」(『人事万華鏡』)と言っています。
運というものがあるのかどうか、証明のしようがありません。しかし一方で、なんとなくではあっても、自分はもとより他者についても、運が強い、運が弱いということがあるように思えます。小さな出来事であれば、ビンゴゲームやくじによく当たっている人がいれば、なかなか当たらないと愚痴を言う人がいます。長い目で見ても、多少の浮き沈みはあったが、自分の人生は運に恵まれていたと言う人がいれば、そういう人をねたみ、うらやみ、自分の人生がいかに不遇であったかと語る人もいます。
運というものがあるのかないのか、あるとしても強弱ということが言えるのかどうか、はっきりしたことは誰にも言えないでしょう。しかしこの運に関して松下は、次のようにも述べています。
「私はやはりそうした運といったものがあるという見方に立ったほうが、物事がより好ましい姿で進んでいくのではないかと思っている。だから人を採用するにしても、登用するにしてもそういうことを加味して考えることが大切だと思う」(前掲書)。
科学的にどうかはわからないけれども、運があると考えて物事を見、考え、判断していくほうが結果はいいように思うというわけです。運が強いかどうかを採用や登用の条件の一つにしている、ここまで言い切る経営者は他にいないのではないでしょうか。
就職活動でようやく最終面接にたどり着いた皆さんに、仮に社長である松下が尋ねます。「ところで、あなたは運が強いですか」。さて皆さんは、どうお答えになるでしょうか。
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