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仕事

冴えた脳で仕事をしたいなら……今夜は思い切って帰りませんか?

築山節(財団法人河野臨床医学研究所附属北品川クリニック所長)

2017年06月02日 公開 2022年06月30日 更新

「疲れない脳」をつくるために……

仕事を完成させて、満足してその日を終える─。

これはこれでいいことだと思います。ですが、私は仕事を途中で止めることも、明日のやる気を保つために有効な方法だと考えています。

徹夜してでも、仕事が終わるまでは無理してがんばる。このようにして仕事を終えることは、組織人としては理想的かもしれませんが、いつまでも沍えた脳を維持するための脳や身体の体調管理としては、必ずしも正しい方法ではありません。

無理してがんばった場合、確かに「達成できた」という満足感を得られることもあるでしょうが、つらかった、大変だったという嫌な感情が残ってしまうこともあります。

私は仕事にそのようなマイナスの感情を抱くよりは、必ずしも満足はできないけれど、やる気だけは明日に残しておくことのほうが、職業人としては大切なのではないかと思います。

ですから、「仕事を途中で止めてみる」というのは終わらない仕事に対する理性的な対応です。自分の感情を常に理性的にコントロールしている、これは沍えた脳を維持するためには、とても重要なことなのです。

ではどうすれば、毎日人間らしく、理性的に計画的に行動することができるようになるのでしょうか。

ここでは、過剰になってしまった「感情」を例に考えていきたいと思います。たとえば、「怒り」という感情。相手に対する怒りで興奮しすぎた感情は、脳機能を混乱させてしまいます。

皆さんも「怒り」でいっぱいになっている人を見たことがあるかと思いますが、そのときの光景を思い出してみてください。

・真っ赤な顔をして、怒りに震え、いつまでも黙っていた
・何度も同じ台詞を繰り返し言っていた
・大きな声を出して、わけのわからないことを喚いていた

いずれは収まるにしても、こんなふうに怒っているとき、脳は理性的な働きをしていません。「身体の動きが止まっている」あるいは、「支離滅裂な動きをしている」のいずれかであると思います。

怒りにしても、悲しみ、あるいは悔しさにしても、脳の活動がその表現でいっぱいになってしまっているときには、そのために他の脳の働きは止められてしまうことになるのです。

ここまで極端なことは少ないかもしれませんが、その前段階の状況というのは、多くの人が日々経験しているのではないでしょうか。

その前段階の状況とは、気持ちの悪い感情、ネガティブな感情を抱いているときです。

このネガティブな感情のときには、人は何でも悪く考えてしまう傾向にあります。

・お客さんが集まらず、イベントがうまくいかなかったらどうしよう
・大切なプレゼンで、提案の意味が相手に伝わらなかったらどうしよう。これまでがんばってくれたスタッフに申し訳ない
・スタッフの一人が私の意見をはっきりと否定した。この人は私の敵になろうとしているのだろうか?
・上司がこれまでと違う新しい稟議規定を作っている。自分たちの管理を強化しようとしているのかもしれない
・自分の意見に簡単に賛成してくれた。あまりに簡単すぎる。本当にこの人に従っていていいのだろうか? 違ういい意見が同僚から出されたら、同じように簡単に彼に賛成してしまうのではないだろうか
・試験の前に一生懸命にがんばったけれど、他にも何かすべきことがあったのではないか。答案用紙を見たら、わからないことばかりだったりしないだろうか?
・所属する部の他の人たち皆がわかっていることで、自分だけが知らないということがあるのではないか?
・「大丈夫」と皆は言っているが、本当に大丈夫なのだろうか?
・いつも成績のよくない人が、結果的にグループで一番と評価されたあの人や上司と、どこか違うところでつながっているのではないか?

実際このような感情のときには、考えが定まらず心も安定しないものです。ですから、私はこのような感情で満たされてしまったときには、その段階で仕事を途中で切り上げるようにしています。あれこれと考えたことが、後で冷静になって考えたとき、杞憂だったということはよくあるのですから。

繰り返しになりますが、自分の考え事が進まないとき、仕事を途中で止めることは、自分のやる気を保つ意味でも大切だと考えています。人は何事も早く終えてしまおうと考えがちですが、友人と会話していたり、家族と雑談しているとき、ふとよい考えや対策が出てくることがあります。ですから、早く終わらせることがベストだとは言い切れないのです。「絶対に終わらせないといけない」と自分を追い込みすぎずに、「途中で止める」という選択肢も用意するように心がけていただければと思います。

※本記事は、築山節著『「疲れない脳」のつくり方』(PHPビジネス新書)より、その一部を抜粋編集したものです。

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