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日本企業の風土病「国際談合」はなぜなくならないのか

マネジメント誌「衆知」

2017年06月06日 公開 2017年06月06日 更新

佐久間健(さくま・たけし)
株式会社コミュニケーション戦略研究所代表取締役。グローバル危機管理研究者。経営倫理実践研究センター主任研究員。コンサルティング、講演、執筆などで活躍。早稲田大学卒業後、株式会社電通パブリックリレーションズ営業部長、営業本部長歴任。経済人コー円卓会議日本委員会エグゼクティブアドバイザー就任。『徹底検証グローバル時代のトヨタの危機管理』『トヨタのCSR戦略』『特許と危機管理:アップルとサムスンの特許を巡る武闘裁判』など著作多数。

 

コンプライアンス経営実践のヒント

日本企業の談合での摘発が多い理由

なぜ、日本企業は談合で摘発される件数がダントツに多いのか。狙い撃ちされているのではないかという声もある。しかし、それは違うと考える。邦人ビジネスマンはビジネスの基本を知らないと、海外では言われてしまう。摘発される内容を分析すると次のようなことが言える。

1)海外のビジネス商慣習、法令にうといことが談合摘発を増やす

EU競争法、米国反トラスト法への知識不足やビジネス相手国の商習慣への認識不足が原因であることも多い。米国企業は談合を行なう習慣はない。米国では業界の会合はほとんど行なわれないので、会合を行なう場合は、当局に会議の内容を事前に通告しておくほうがよい。

摘発が増えている背景には「域外適用」がある。「域外適用」とは、国外での行為が国内市場に実質的な影響を与える場合は、国外の行為にも競争法を適用できるという考えだ。例えば、日本の部品メーカーが国内で価格調整を行なっていても、部品や完成品を輸出・販売した現地当局から摘発される可能性が高い。

2)日本企業の業界文化が談合を引き起こす

海外では業界仲間との会合や打ち合わせの間に知らないうちに談合に巻き込まれ、摘発されて気がつくことも多い。特に問題なのが、日本企業の業界慣行だ。同業者との情報交換会、ゴルフコンペ、懇親会は日本では普通だが、海外ではほとんど例がない。談合はたいした犯罪ではない、捕まらないという意識が日本企業にはある。

3)日本企業のビジネス習慣は談合の証拠をつくる

日本人特有のビジネス、業務体制が談合の証拠をつくる。その代表的なものが上司へのレポートだ。ライバル企業も同じだ。ライバル社の報告書に自社の名前が出てくることもあり、その中に価格という文字があると、ライバルが談合の疑いで調査を受けた場合、自社にも談合の疑いがかけられる危険性が高い。Eメールの「大変良いお話が聞けて感謝いたしております」は、談合の証拠とされることもある。司法当局の調査を受けると、eディスカバリーという難しい問題が生じ、パソコンや携帯電話の関連内容の自主的な開示を求められ、それが談合の証拠になることもある。隠したことが発覚すると、隠ぺいしたとして制裁金が大きく加算される。

4)リニエンシー制度(談合参加企業による告白)の促進

リニエンシー制度(米国ではアムネスティ)は、企業が関与する談合情報を競争当局に提供した場合、罰則などが減免される、「お上によるお慈悲制度」だ。EUや米国での摘発が増えたのはこの制度の影響だ。談合主謀者が発覚を恐れて、仲間を売り自分が全面的に無罪や減免になることはよくあることだ。外国企業は、最初からリニエンシーを考えて談合をする。だが、日本企業は仲間を信用するため、逃げるのは外国企業で、摘発されるのは日本企業という構図となる。

リニエンシー制度は、1978年に米国で初めて導入され、1993年に改正され、企業が罰則の減免を受けられることになってから、広く採用されている。日本でも独占禁止法が改正され、2006年1月から施行されているが、制裁金は非常に低く、それが談合を助長していると海外では言われている。

要注意事項としては、談合者が、リニエンシーを行ないたいと上司に報告した場合、上司がこれを止めると上司も重い罰を受け、企業の制裁金も高くなる。

5)第三者であるライバル企業や購入業者、海外の業界団体からの告発

2013年7月、米フォードが日本の自動車部品メーカーなどをワイヤーハーネスの価格談合の疑いでデトロイトの連邦裁判所に提訴した。米司法省の調査の結果、10社が罪を認めた。ドイツ造船団体が、日本企業を訴えたこともある。

以上のように、基本的な知識なくビジネスに奔走していると、いつの間にか談合の渦潮に入ってしまう。談合は深刻な経営問題である。

※本記事は、マネジメント誌「衆知」2017年3・4月号、「コンプライアンス経営実践のヒント 」連載第6回より一部を抜粋編集したものです。

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