Voice書評から
2010年12月03日 公開 2022年08月17日 更新
『カイシャ維新』
冨山和彦 著
新自由主義vs.社会民主主義という非生産的な二項対立的論争で盛り上がっているのはいまどき日本だけ、という喝破で始まる本書。現場で「資本主義」と格闘してきた著者ならではの、現実に立脚した多元的なビジョンに膝を打つ人も多いはずだ。
改革に伴う不条理のルサンチマンを一手に引き受ける意志力こそ、この時代に必要なリーダーシップであり、中高年世代は自己犠牲を受容する品格を示せ。さもなくば国が滅びぬ程度に破綻せよ、という言葉が、逆説的にいま日本に残された希望を教えてくれる。(K・T)
『危機第三幕』
倉都康行 著
2008年のリーマン・ショックから2周年を迎えたが、その爪跡はまだ深い。ギリシャで火を噴いたソブリン危機が第2幕であり、サブプライム問題以降の震源地であるアメリカこそ第3幕の舞台である、と著者はいう。
今回の危機でバーナンキが採った処方箋は本当に正しかったのか。そこからどのようなリスク・シナリオが描き出せるのか。そこに中国という存在はどのような影響を及ぼすのか......。精緻な分析に基づいた冷静な視点は、今後数年の経済の流れを読み解くうえで、大きな示唆を与えてくれるだろう。(T・F)
『ロシアの論理』
武田善憲 著
冷戦終結後に弱体化したロシアは、プーチンという強力なリーダーと、天然資源を中心とした貿易を通じて、政治的にも経済的にも力を取り戻してきた。この隣国・ロシアは今後、日本の「脅威」となりうるのか。
本書は、長くロシアに滞在した経験をもつ若き現役外交官による現代ロシア論。ロシアの国内政治、外交方針、経済・社会政策など、あらゆる分野が網羅され、外部からはうかがい知れない核心に迫る。20世紀とは決別した「新しいロシア」の行動原理を読み解くに必読の1冊だ。(E・T)
『声出していこう』
朝倉かすみ 著
平凡な街の地下鉄駅構内で通り魔事件発生!負傷者は十数名、犯人は逃走中。平凡な街で起きた、非日常的な事件を軸にその界隈で暮らす13歳から50歳までの、6人の人びとを描く連作短編集。一見ミステリーのようだが、内容は人間ドラマが描かれる。第1章の主人公は13歳の男子中学生・森繁正則。本心とは裏腹に、冷静沈着キャラを保とうと努力する彼の描写など、とてもユーモラスだ。章ごとに主人公が代わり、章の最後の一文が次の章の最初の一文となるなど、ひねりを加えた文体が面白い1冊。(M・T)
『最強の農家のつくり方』
木内博一 著
「農業界の革命児」の異名をもつ木内博一氏が代表を務める和郷園(千葉県香取市)は、90以上の地元農家から成る農事組合法人である。野菜の生産のみならず、加工、流通、販売と農業の6次産業化による高付加価値経営を実践し、グループ年商40億円を誇る。
その木内氏が熱く語る、日本の農業の優位性、そして日本経済の牽引車としてのポテンシャリティーとは――。いま各界から注目が集まるプロ農家集団の成功の方程式、そして農業を通じて実現可能な「究極のニッポン成長戦略」を大公開!(Y・S)
Voice 2010年12月号
「通貨安競争」や「ソブリンリスク」が喧伝されるなか、日本マーケットの停滞ぶりが際立つ。果たして2011年の日本経済は上向くのか、それとも「二番底」に突っ込むのか......。そこで、気になる論点について、正反対の見立てをもつ論客たちが大激論!時代を先取りするビジネスマン、必読の総力特集です。もう1本の特集は、「『アップルの時代』を超克せよ」と題し、どうすればアップル社の快進撃を止められるのか、テクノロジーの最前線をルポ!今月号もご堪能ください。