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話し方のプロが教える、「人間関係のうまい下手」を分けるもの

野口敏(グッドコミュニケーション代表取締役)

2018年01月27日 公開 2024年12月16日 更新


 

「弱み」や「いたらなさ」こそ、さらけだそう!

みなさん、人間関係のうまい下手を大きく分けるものとは何か、ご存じですか?

それは、「弱み」の扱い方、にあります。

人間関係が苦手な人は、自分の弱みや至らなさを人に見せればその人との関係が不利になり、見下されてしまうという誤解を持っています。

私が主宰するTALK&トーク話し方教室では「朝、目覚めてから布団を抜け出すまでに30分ぐらいかかりますが、そんな話をすれば人は自分のことをなまけ者だと思うのでは?」と心のうちを聞かせてくれた方もいました。

そんな心配があれば、自分のいたらなさを人に見せることはむずかしくなり、この部分を話題にすることはできません。すると人にお話しできるところがひとつ減るということになりますね。

これは、とても、もったいないことです。

人間関係が豊かな人は、自分の弱みやいたらなさこそ、他人が親しみを感じてくれる大事な部分だということをよく知っていて、ここを喜んで公開してくれます。

「5年も下の後輩が、自分より先に支店長になっちゃった。私がいるから彼はやりにくそうだ。私はまったく気にしていないのに、かわいそうな奴だ」

「フェイスブックはじめたけど、よくわからなくてね。書き込みしてくれた人に電話かけて、フェイスブック書き込みありがとうって言ってるんだよ。意味ないよね」

こんなことを言ったからといって、その人を悪く思う人はいません。いえ、実は弱みやいたらなさを表現してくれる人の前では、自分もいたらない部分を見せてもいいんだと誰もが安心できるのです。

部下の前で虚勢を張り、自分の優れている部分ばかりを語る上司に部下はついて行きません。反対に自分のいたらなさを自然に見せてくれる上司に、部下は心を開きます。

「オレ最近気づいたんだけどさ。小5の娘がくれる父の日のプレゼントって、母の日のプレゼントより予算が半分ぐらいなんだよ。寂しい! 知らなきゃよかったよ」

こんな上司になら、自分の悩みを打ち明けてもかまわないって部下は思うでしょう。

最近の親にもこの傾向は強くて、子供の前で弱さを見せないようにしている人は多いようです。しかしそれでは子供はあまりに窮屈。決してのびのびと育ちはしません。

「お母さん、子供のころからそそっかしくてね。おばあちゃんから学校に行くついでにゴミを出して行ってって言われて、ボーッと歩いていたらそのゴミ袋持ったまま学校に着いちゃったのよ。恥ずかしかったわぁ」

こんな親の前でなら、子供はどんな失敗も、どんな苦手もあってかまわない、と思うでしょう。

え?「そんなことをしたら、子供が言うことを聞かなくなる」ですって?

子供はかしこくて、実はなんでもわかっています。努力したほうがいいこと。今のままではいけないこと。すべて知っているのです。「親は失敗をしたことがない」なんて顔をして偽りの心で接するほうが、子供の人格形成にいびつな影響を与えるでしょう。

さあ、あなたの弱みやいたらなさはなんですか。

探さなくても、いっぱいあるでしょう。

それを事前に思い出し、記憶しておきましょう。いいタイミングで誰かにお話すれば、自分も相手も気分が軽くなって、すぐに誰とでも仲良くなれるはずです。
 

自分を語りたがらない人は、「面白い人」への道を断念している

「弱みの扱い方」と同じように、「プライバシーの扱い方」も人間関係のうまい下手を分けます。

プライバシーの定義が近頃どんどん広がって、多くの人が自分の大部分を人に知られたくないと思うようになってきました。もちろん貯金の額や恋愛体験のようなものならば、誰だって人に知られたくないでしょう。人によっては学歴がコンプレックスになることもよくわかります。そういうことを無理して語る必要はないでしょう。

でも男性で年齢を他人に言いたくない人が増えているって知っていましたか? なんでも実年齢を言うと、相手が、
「その年になってその程度の実力かい⁉」
って思われるのではと心配になるそうです。付き合いにくい。

「お家はどのあたりですか?」
と聞くと、
「ここから30分ぐらいです」
って答える人もいっぱいいます。どこなのかちっともわかりません。私はあきれてそれ以上話しかけるエネルギーが持てません。

「スポーツはなにかしていましたか?」
と聞くと、
「はい、ぼちぼちです」
なんて答える人も。もはや会話ではありませんね。

これらの例は極端かもしれませんが、会社では家庭の話を一切しない、学生時代や幼いころの話などしたことがない、友人にも恋愛の話は絶対にしない、という人なら山ほどいるでしょう。私たちの社会は恐るべき秘密社会へと突き進んでいます。

多くの人たちが、他人に自分のことを何か語ればそれはすぐさま悪評価へとつながり、その場に居づらくなると恐れているようです。本当にそんなことが起こるのでしょうか。自分をオープンに語ることは、そんなにリスクの高い暴挙になるのでしょうか。

教室の生徒でもオープンな方はいらっしゃいます。ある男性が教室のレッスンに訪れたときのことです。彼は3回目の受講でしたが、教室のドアを開けるやいなや、
「先生、家内が、3日前から実家に帰ってしまって戻って来ないんです。どうしましょうか?」
と言うではありませんか。

それから事のいきさつを細かく教えてくれて、私たちも深刻に聞くべきところを思わず大笑いしながら聞かせてもらいました。彼は教室に入っても他の生徒に同じような相談をしていました。なかには20歳ぐらいのAKBにいそうな可愛い女性までもが、彼の話を聞いてくれて、それだけで彼はたいそう幸せそうでした。

そして、みんなからもらったアドバイスを胸に、奥様の実家に迎えに行き、
「オレが悪かった。これからはもっと大切にするから戻って来てくれ」
とアドバイス通りに謝り、奥様も機嫌を直して家に帰って来てくれたことを翌週報告してくれたのです。

自分を隠す人から見ればまさに暴挙、ありえない行動でしょうが、彼はクラスの人気者になって色々な人々と交流を深めているご様子。彼をけなす人もいなければ、さげすむ人も皆無です。それどころか、みな彼を好きになってしまったのです。オープン万歳!

心を開くとは人を迎え入れること。心を閉じることは人を拒むこと。自分を語りたがらない人は、もう面白い人への道を断念したと同じです。つまらなくて当たり前。

さあ、自分を語れば人は自分を嫌うかもしれないという恐れを断ち切って、自分を人に伝えてみましょう。今まで自分がいかに暗い闇の中で生きて来たかが、そのとき初めてわかるでしょう。
 

※本記事は、野口敏著『マジで会話が苦手でも、「楽しい人」になれる本』(PHP文庫)より一部を抜粋編集したものです。

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