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核武装なくして日本は国民の安全を守れるのか?

日高義樹(ハドソン研究所首席研究員)

2018年02月15日 公開 2022年11月02日 更新


 

米朝「偶発」戦争の危機に日本はどう備えるべきか

ドナルド・トランプ大統領が朝鮮半島周辺に、アメリカの圧倒的な軍事力を展開して強力な対北朝鮮政策を行使した結果、北朝鮮のキム・ジョンウンはアメリカおよび韓国と話し合いをする姿勢を打ち出してきている。

トランプ大統領は北朝鮮に対して「歴史に前例のない大規模な打撃を与える」と警告し、実際に戦略爆撃機B2による北朝鮮周辺のパトロールを続けている。最近では最新鋭のステルス性戦略爆撃機B1Bをグアム島に配備し出撃態勢をとらせている。

アメリカの核戦力を勢揃いさせたトランプ大統領の厳しい姿勢に対して北朝鮮がとった手は、アメリカの同盟国である韓国に「オリンピックに参加する」などという提案をちらつかせ、アメリカと話し合う姿勢をとることだった。これは北朝鮮がこれまで幾度も、繰り返してきたやり方である。

北朝鮮に対してクリントン政権やブッシュ政権は、経済制裁で圧力をかける一方で経済援助を行うというムチとアメの政策をとった。これに対して北朝鮮は、政治的に引く態度を見せてアメリカの攻勢に対抗し、石油や食糧などをせしめた。だが核兵器とミサイルの開発をやめることはしなかった。

いまキム・ジョンウンがとろうとしているのも、このやり方である。これから紆余曲折があるにしろ北朝鮮は、「押さば引け、引かば押せ」を繰り返しながら核保有国としての道を歩み続け、結局はアメリカ本土を攻撃するミサイルと核兵器を完成させるに違いない。

トランプ大統領は強力な軍事政策を実行して北朝鮮を「押した」結果、北朝鮮のキム・ジョンウンが「引いて」話し合いになるが、結局はアメリカが再び遅れをとる見通しが強い。こうした状況になるたびに私が思い出すのは、12年前にヘンリー・キッシンジャー元国務長官と北朝鮮問題を話し合ったときのことである。

2006年12月、ニューヨークのフィフス・アベニューに面した由緒あるクラブで行ったインタビューの冒頭で私が聞いたのが、北朝鮮の核兵器開発の問題だった。「北朝鮮が核兵器を持ち、中国が大量のICBMを保有している情勢に日本はどう対応すべきか」という私の質問に、キッシンジャー博士はこう答えた。

「それはまず何よりも日本人が自分で判断すべき問題だ。これから当分のあいだはアメリカが日本を守るだろう。だが日本のような歴史と伝統のある重要な国が、いかに友好的であろうとも、よその国に安全を頼り切ってしまうことはありえないだろう。日本はこれから軍事力を増強すると思う。国際的な影響力を強化し、自衛隊をさらに遠くまで派遣することになるだろう。10年のあいだに日本は軍事大国になるだろう」

さらに私は尋ねた。

「北朝鮮が核兵器を持ち、ほかの国々も持とうとしている情勢では、日本が核装備するのは当然の結果だと考えるわけですね」

キッシンジャー博士は、こう続けた。

「それは、この番組で以前にも私が予想したことだ。すでに日本は核兵器の開発に取りかかっているだろうと考えた。実際にいつ核兵器をつくり、保有国になるかどうかは、核拡散防止法の成り行きにも関係している。だが、日本がまったく核装備をしないとは考えられない。慎重に準備を始めるだろう。ただ、このことは私の個人的な見解であって、アメリカ政府のものではないが」

私は重ねて聞いた。

「すると、日本の政治家が核装備しようとしていると聞いても驚かないわけですね」

これに対して、キッシンジャー博士は冷静に言った。

「あまり聞きたくはないが、驚きはしないよ」

あれから12年が経ち、いまや北朝鮮の核ミサイル、そして毒ガスミサイルが日本の都市を襲おうとしている。こうした事態になっても、選挙で国民の絶対多数を獲得した安倍晋三首相は核装備や抑止力などについて一切、口にもしておらず、考えているようにも見受けられない。

北朝鮮からの核ミサイル攻撃を阻止するためには、断固たる抑止力を持たなければならないはずである。核兵器とミサイルを十分に備えることによって日本の安全を図らなければならない事態になっているのだ。

キッシンジャー博士の予測は裏切られてしまった。日本は何もしてこなかったし、何もしようとしていない。いま日本に迫っているキム・ジョンウンの核ミサイルと毒ガスミサイルの脅威は、12年前のキッシンジャーの予測を日本の政治家と国民が裏切った結果である。
 

※本記事は、日高義樹著『米朝「偶発」戦争』より、一部を抜粋編集したものです。

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