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日本を作った「イネ」。そのすごい力とは?

稲垣栄洋(植物学者)

2018年07月05日 公開 2023年02月24日 更新

稲作に適した日本列島

さらに日本列島はイネの栽培を行うのに恵まれた条件が揃っている。

イネを栽培するには大量の水を必要とするが、幸いなことに日本は雨が多い。

日本の降水量は年平均で1700ミリであるが、これは世界の平均降水量の2倍以上である。日本にも水不足がないわけではないが、世界には乾燥地帯や砂漠地帯が多い中で、水資源に恵まれた国なのである。

日本は、モンスーンアジアという気候帯に位置している。モンスーンというのは季節風のことである。アジアの南のインドから東南アジア、中国南部から日本にかけては、モンスーンの影響を受けて雨が多く降る。この地域をモンスーンアジアと呼んでいるのである。

5月頃にアジア大陸が温められて低気圧が発生すると、インド洋の上空の高気圧から大陸に向かって風が吹き付ける。これがモンスーンである。モンスーンは、大陸のヒマラヤ山脈にぶつかると東に進路を変えていく。この湿ったモンスーンが雨を降らせていくのである。

そのため、アジア各地はこの時期に雨季となる。そして、日本列島では梅雨になるのである。

こうして作られた高温多湿な夏の気候は、イネの栽培に適しているのである。

それだけではない。冬になれば、大陸から北西の風が吹き付ける。大陸から吹いてきた風は、日本列島の山脈にぶつかって雲となり、日本海側に大量の雪を降らせる。大雪は、植物の生育に適しているとは言えないが、春になれば雪解け水が川となり、潤沢な水で大地を潤す。

こうして、日本は世界でも稀な水の豊かな国土を有しているのである。

 

「田んぼを作る」のは簡単ではない

もっとも、雨が多ければイネを栽培できるというほど単純なものではない。イネを栽培するためには、水をためる田んぼを作らなければならないのだ。ところが、これが簡単ではなかった。

日本の地形は山が急峻であることで特徴づけられる。山に降った雨は一気に平野へ流れ込み、増水してあちらこちらで水害を起こす。そのため、日本の平野部は人の住めないような湿地帯が広がっていたのである。そうかと言って高台に住んでいれば、雨水は一気に流れ去ってしまうから、田んぼに使う水を確保できない。雨が多くても、実際に田んぼを拓き、イネを栽培することは簡単ではなかったのである。

田んぼを作るには、山から流れる川の水を引き込んで、田んぼの隅々にまで行き渡らせることが必要である。こうして、大きな川から小さな川を引き、小さな川から田んぼに水を行き渡らせて、田んぼに水をためることによって、山に降った雨は一気に海に流れ込むことなく、地面を潤しながらゆっくりと流れるようになったのだ。

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「何もない」景色に隠された途方もない努力

著者紹介

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)

植物学者

1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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