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「ジャガイモ」を愛したマリー・アントワネットの悲劇

稲垣栄洋(植物学者)

2018年07月11日 公開 2023年01月10日 更新

「悪魔の植物」と呼ばれ、裁判にかけられたジャガイモ

さらに、ジャガイモは「聖書に書かれていない植物」であった。聖書では、神は種子で増える植物を創ったとされている。ところが、ジャガイモは種子ではなく芋で増える。

ヨーロッパの人々にとって、芋で増えるジャガイモは奇異な植物だったのだろう。西洋では、聖書に書かれていない植物は悪魔のものである。そして、ジャガイモは「悪魔の植物」というレッテルを貼られてしまったのである。

中世ヨーロッパは、魔女裁判などが盛んに行われた時代でもある。

そして、ついには悪魔の植物であるジャガイモも裁判に掛けられてしまうのである。世の中の生物は雌雄によって子孫を残す。しかし、ジャガイモは種芋だけで繁殖する。これが性的に不純とされて、ジャガイモは有罪判決となってしまうのである。

その刑罰は、驚くなかれ「火あぶりの刑」である。直火でこんがり焼いたジャガイモからは、良い香りが漂ったような気もするが、人々はこれを見ても美味しそうだとは思わなかったのだろうか。

 

エリザベス1世もジャガイモの毒にあたった?

「悪魔の植物」と言われたジャガイモは、食用ではなく、珍しい観賞用植物として栽培されることが多かった。

しかし、アンデスのやせた土地で収穫できるジャガイモは、食糧として重要だと評価する識者たちもいた。しかも高地に育つジャガイモは、冷涼な気候のヨーロッパでも育てることのできる特殊な芋である。

そして、大凶作に苦しむヨーロッパでは、このジャガイモを普及させるための挑戦が始まるのである。さて、この悪魔の植物をどのようにして広めていけば良いのだろう。

ジャガイモを普及させようとしたのは、イギリスのエリザベス1世である。

エリザベス1世は、まず上流階級の間にジャガイモを広めようと、ジャガイモ・パーティを主催する。ところが、ジャガイモを知らないシェフたちが、ジャガイモの葉や茎を使って料理を作ったため、エリザベス1世はソラニン中毒になってしまった。

こうしてイギリスでは、ジャガイモは有毒な植物というイメージが強まり、ジャガイモの普及が遅れてしまうのである。

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ドイツを支えたジャガイモ

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