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本屋が斜陽産業じゃなくなる⁉ 書店員ナイトのホンネトークから見えた未来

2018年12月28日 公開 2019年01月07日 更新


 

写真左より、古幡瑞穂さん(日本出版販売株式会社)、田口幹人さん(株式会社さわや書店)、大矢靖之さん(株式会社ブクログ)。於:「本のあるところajiro」

秋の本の祭典「福岡ブックオカ2018」で、「書店員ナイトin福岡[拡大版]」(11月18日開催)があった。拡大版にふさわしく、「文庫X」を仕掛けたさわや書店の田口幹人さんに、大手出版取次の古幡瑞穂さん、Web本棚サービスを展開するブクログの大矢靖之さんというユニークな顔ぶれの鼎談。3人の対話を通じて見えてきた、これからの時代を見据えた「本屋のかたち」とは――。
 

今の読者、これまでの読者ではなく、「これからの読者」をどう作るか

古幡瑞穂(以下、古幡):日本出版販売の古幡と申します。入社した当時は紀伊國屋書店の卸の担当、その後、楽天に出向して「楽天ブックス」の立ち上げにかかわりました。現在は日販に戻り、マーケティングと広報の仕事を兼務しています。本屋大賞も立ち上げの頃から関わってきました。

大矢靖之(以下、大矢):株式会社ブクログの大矢です。ブクログはWeb上に自分の好きな本棚を作れるサービスで、私はその中で著者情報、注目書ピックアップ、記事執筆・編集など「コンテンツ制作」に関わる仕事に携わっています。前職は書店員で、CDやDVD、書籍の仕入販売、SNS活用を務めました。

田口幹人(以下、田口):さわや書店の田口です。8月に『もういちど、本屋へようこそ』(PHP研究所)という本を3年がかりで刊行しました。お二人には本書に寄稿していただいています。

古幡:この本は、日本各地の書店員さんのほか、たくさんの方々が寄稿されています。どうして本書を作ろうと思ったんですか?

田口:担当編集さんと話しながら全国を回って取材するうちに、「卒業論文」のような書籍が作りたいなと。数年前に執筆した『まちの本屋』(ポプラ社)では自身の体験を中心に書きましたが、この本では、新刊書店としての「まちの本屋」について、自分なりに総括できたのではと思っています。

古幡:大矢さんのところには、どんなふうに依頼がいったんですか?

大矢:書店員をやめてブクログに転職した後、本屋大賞懇親会で田口さんにお会いしたんです。そのとき、今度は本をどう売るかではなく、「本をどう伝えるか」にシフトした仕事を務めたいとお話ししたら、それいいですねと。

田口:読者と本との接点を、どう作るかがすごく大事ですよね。ぼくも、今の読者、これまでの読者だけを相手にする本屋ではなくて、「これからの読者を作る本屋」をやりたいとずっと考えてきました。同じ方向で考えていた人のひとりが、大矢さんだったんです。

大矢:本の売り買いをするだけではなくて、読者に本との接点をどれだけ提供できるか。月に1~2冊本を読むくらいのライトユーザーに何をどうアピールするか。書店員のときは、日常的に相当数を読む読書家や、向こうからコミュニケーションをとってくれるお客さんを相手にしがちだったので、読書人になる手前の人、これからいい読者になってくれる層に、もっとアプローチしたいと当時から考えていました。
 

黒字はすべての薬です――経営感覚のある書店員になること

田口:古幡さんには、会社にうかがってインタビューしたんですよね。

古幡:「取次の仕事、今の仕事を説明してください」と依頼されたんですが、みなさんが取次の何に興味があるのかがわからない。それで自分で書くより、田口さんに直接聞いていただいたほうがいいかなと。

田口:今、出版業界がよくないことを「取次が諸悪の根源」みたいにいう人もいますが、出版には絶対に必要な存在ですよね。

古幡:少し取次の説明をさせていただきます。恒常的に本を出す日本の出版社は約3000社、書店は1万店ちょっとですか。しかも他業種と違い、出版の世界では毎日が新商品発売日です。書籍だけで毎日200点以上、雑誌も発売日の設定は毎日あります。これを「卸」が集約せずに版元や書店が個別に注文し合ってやるのは不可能です。委託商品なので、返品業務もありますしね。出版社と書店の間に入って流通を円滑化するのが役割ということになります。

大矢:取次の仕事は本当に大変ですよね。書店は取次を悪者にしがちだけど、取次のおかげで書店の様々なコストが軽減されてもいる。書店経営という観点からも取次の仕事は評価されないといけませんよね。店長とかにならないと、現場の書店員は「経営」という感覚がなかなか持てません。何冊売ったとか、どのくらい補充するかとかはいいんですが、「黒字を出す」とは何かがわからない。自戒をこめて言えば「小売業としての知識」が足りないんだと感じていました。

田口:さわや書店では経営側から「あれしろ、これしろ」とはまったく下りてこないんです。各店舗が戻す「利益」の数字だけが与えられる。ある意味こわいことですが、ありがたかったですね。現場に自由がある環境は、働く者の幅を広げる一方で、大きな責任が伴う。だからこそ、読んだ本は「責任を持って売り切ろう」とやってきました。ですから、版元から来る販促物は一切使いません。自分たちで読んでいいと思ったものをあらゆる手段で売り切ろうと。

大矢:田口さんが店長だったフェザン店に足を運んだとき、「経営感覚」が現場メンバーに染みついているように思いました。売上、そして利益を確保しようという現場の心構えを感じましたよ。面白い仕事なのに、上から言われたことをやるだけの「やらされてる感」で働くなんてもったいないですよね。だからこそ、やるべき数字はクリアしていくべきで、やはり黒字はすべての薬です。

古幡:大矢さんは、相当、日本中の書店を見ていらっしゃいますね?

大矢:7大都市圏は回りましたがまだ30都道府県ほどです。大手書店だけでなく、町の本屋の経営と実情を知りたくて。今日は門司港の本屋さんを見てきましたが、町の規模に比べ昔からの本屋が残っていて、中央市場のなかの「角打ち」をしながら新刊を並べている店もある。「こういうところにも、多様な本のコミュニティがあるんだな」というのが嬉しかったです。「本屋減少の危機」という論調とは別の切り口から、本屋の記録を残すため、全国で写真を撮り概要を記録して回っています。

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「総合」である必要はない。できない部分は削り、得意を伸ばす

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