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本屋が斜陽産業じゃなくなる⁉ 書店員ナイトのホンネトークから見えた未来

2018年12月28日 公開 2019年01月07日 更新

「総合」である必要はない。できない部分は削り、得意を伸ばす

古幡:大手チェーンの書店をよく「総合書店」といいますね。町の小さな本屋さんに対して、売り場面積が広くてあらゆるジャンルを揃えたのが総合書店とはいいますが、どこまで置いたら「総合」なんだという話がありますね。

大矢:総合書店と対になるものってなんでしょうね。一般書店? 専門書店? 個人的には文脈が必要な言葉だと思います。よく定義のわからない言葉ですね。ただ2018年の現在においては、カフェがあるとか、CD・DVDや文具・雑貨があるとか、かつて総合書店と目されていた大型書店が、落ちた本の売上を補填するため色々なことをやり始めたことで、定義もさらに変わりそうです。

古幡:さわや書店には、総合書店意識はないんですか?

田口:うちはむしろ、それをやめようと思ったんですよ。150坪でそれをやってもしょうがないし、僕らでわからないジャンルのことはできない。盛岡でいうと、ジュンク堂書店さんができたとき「これで任せられる!」と思いました。

大矢:地域のためには、なるべくたくさん品ぞろえをして、本が手に入りやすい場を作らなければという使命感が出ますよね。任せられる、という意識もわかります。

田口:任せられると思ったところで、今度は自分たちができない部分をどんどん削っていきました。建築とか、芸術とか……。さわや書店はいろんなジャンルが抜けている本屋なんです。自分たちがどれほどのものなのか、身の丈を知っていますから。取扱っていない本のことを聞かれたら、「そこにジュンク堂さんがあります」と(笑)。うちに問い合わせに来てくれて、帰りに買う予定じゃなかった文庫本を2~3冊持ってレジに来てくれたらいい。だからこそ、「来店したら、必ずうちから買いたくなるよ」と言える店を目指して来ました。

古幡:それが地域読者とのコミュニケーションを深めるとか、さわや書店名物のあの独特の文字だらけの手書きPOPにつながっているんですね。あれを読んでいたら、お客さんの滞在時間がむちゃくちゃ長くなりそうですもんね。

田口:POPというより、いまや壁新聞です(笑)。学生がよく写メして帰っていきます。その様子を見ながら、買うかな……と思ってレジから見ていると、手ぶらで出て行ってしまう。でも、それでいいんです。読者と本とをつなぐという意味では、十分手ごたえを感じています。心のどこかにさわや書店でいい本と出会った記憶が残れば、いつか買うお客さんになって帰ってきますよ。

大矢:いまアマゾンのような電子書店が色々な仕方で仕入れと品揃えに取り組んでいますが、まだ唐突に売れる本や、2~3年先どんなテーマが流行るかという需要予測まではできていないように思います。そこに書店の現場で戦える余地はまだあるわけで、事前に予測して仕入れ、電子書店で在庫切れしそうな商品を大きく展開をするとか、書店員個人の力はまだまだ発揮する余地があると思います。
 

日常のなかに当たり前に本がある「豊かさ」が求められはじめる

田口:ネット書店は、買いたいものがわかっている人には便利ですよ。全国に「無書店地帯」といわれる自治体は山ほどありますし。するとネット書店にない価値を、本屋がどこまで提供できるかですね。それには今までみたいな待ちの姿勢ではなく、「うちはこんな本屋です。こう使ってほしい」と積極的にアピールしないといけないと思います。

古幡:出版業界そのものが、情報発信がうまくないなと思います。何かを調べたいとなったときに、書名を入れて検索するとだいたいアマゾンが先に出てしまう。出版社がみんな公式サイトを持っているのに、その本について一番詳しいのがアマゾンのサイトというのはどうなのかな、と。

大矢:ちなみに医学書のサイトは、かなり専門的な情報を載せるので、アマゾンより上に版元の商品ページの検索結果が来ることが多いようです。ただ一般書の場合はまず無理ですね。アマゾンのサイトの方が書誌情報も多くなりがちで、グーグルのような検索サイトに信頼されていますから。

田口:ぼくはもともと、さわや書店を「盛岡における本のメディア」にしようと思ってやってきました。流通のエンドでお客さんに本を売るのではなく、本を通じて世の中に何かを発信する本屋にしたい。いまのフェザン店店長の松本大介が言ったんですが、「時代を疑う店にしましょう」と。多数派ではなく、少数派に寄り添う店にしようと話したんです。地域に寄り添った「まちの本屋」にはそれができるんですね。ツイッターで情報発信も積極的にしていますが、あくまでも「さわや書店でなんか面白そうな本屋だなあ」と思っていただくためのツールで、それ以上のものではないですね。

古幡:田口さんのお店は、行かないと伝わらないですから(笑)。わたしがいつも考えるのは、本屋さんってまだまだ昔のシステムで回っていて、そのなかで取次にできることはお店ごとの「平均点を上げていく」ことかなと。毎日毎日出る本を適切に仕入れて、並べて、売るのはとても大変で、何も考えなくても一定のお店が作れるシステムがやはり必要です。それが取次主導の店づくりで「金太郎飴書店を生んでいる」と批判されるんですが、取次が「こうしてください」と言って、同じ書店ができたことはありません。ただ「これだけやれば、売上げにつながります」というポイントはあって、アルバイトで回すことが多くなっている現状では非常に大切で、それをそれぞれの本屋さんに合わせて提案をできるようにならなくてはと思っています。

大矢:ぼくとしては、本の可能性を拡げるという仕事を、ますます突き詰めたいですね。たとえば本が好きとかいいながら、造本のこととか、印刷や流通のしくみとか、抜け落ちている知識が多い。伝えるためには知らなくてはいけません。どう可能性を拡げるかという意味では、ミツバチのようにあちこち飛び回りながら、人と人、人と本をつなげたり、書店業界のなかにIT系の知識を持ち込むような活動をしたい。受粉のきっかけを作り、「本を売る可能性」をみんなで押し広げていけたらと思います。書店員時代に培った個人的なバイヤーとしての知識やスキルも、できる限り後輩の書店員たちに伝えていきたいですね。

田口:日常のなかに本が当たり前にある状態を、もう一度作りたい。「暮らしの中に本がある」って、ぼくは「豊かさ」だと思うんです。本屋というと斜陽産業の最先端のように言われていますが、本屋の可能性はむしろ拡がっていると思います。これから消費税が上がってオリンピックが終わって、下り坂をみんなで下っていくような時代に、何を心のよりどころにして生きるのかといったら「豊かさ」しかないんです。富とか、人と比べてどうとかではなくて、自分の心の中の豊かさを担保するものがきっと必要になる。その豊かさの尺度の中に、読んできた本の蓄積が入るのではないかと思っている。「これからの豊かさ」を支える読書というものの意味を発信することが大事なのだろうと。そのための発信役を「本屋」がやればいいんだと考えています。

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