(写真:永井浩)
<<複雑な年金制度を完全に理解するのは容易ではない。しかし、多くの人が知りたいのは「いかに多くの年金をもらうか」だろう。
経済ジャーナリストの荻原博子氏が、現行制度の、本人の意向で65歳になる前にもらう「繰り上げ受給」と後からもらう「繰り下げ受給」を比較しつつ、年金支給開始の「損益分岐点」を探る。>>
※本稿は『Voice』2018年8月号、荻原博子氏の「年金で損する人、得する人」を一部抜粋、編集したものです。
「何歳まで生きられるか」という問題
年金の支給開始年齢については、現在の制度でも希望すれば60歳から70歳のあいだで、支給開始時期を自由に選べます。
現在、年金の支給は原則65歳からです。しかし、これはあくまで「原則」。各人の意向によって、60歳から前倒しで受け取ることも、70歳から受け取ることも可能です。支給開始年齢を前倒しするのを「繰り上げ受給」、後ろ倒しするのを「繰り下げ受給」といいます。
では、この「繰り上げ受給」「繰り下げ受給」とはどんな仕組みで、受給者が損をしないためにはどうすればよいか。まずは問題の整理のため、現行の制度から紹介したいと思います。
まず知っておかなければいけないのが、65歳よりも年金を早くもらう「繰り上げ受給」は、支給を1カ月早めるごとに受給額が0.5%減額されること。反対に、「繰り下げ」は1カ月遅らせるごとに0.7%上乗せされます。
たとえば、現行制度で70歳からの受給に繰り下げたとすると、65歳から70歳の5年間は年金がもらえません。
70歳を過ぎてからの受給額は上乗せ0.7%×12カ月×5年で、65歳でもらいはじめる人よりも受給額が42%アップします。つまり65歳で10万円の年金を受け取れる人ならば、70歳からに繰り下げれば14万2000円が生涯、支給されます。
ただし忘れてはいけないのが、前述した65歳から70歳までの未受給期間です。あらかじめ受給開始を繰り下げた場合、上乗せ額と未受給期間の額を比べる必要があるのです。
このときに重要になるのが、「何歳まで生きられるか」という問題です。たとえば、年金受給を70歳に繰り下げた人が71歳で天寿を全うしたならば当然、もらえるはずだった年金を受け取れない。まさに「大損」です。