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"感性マーケティング”でビジネスを変えよう!

小阪裕司(オラクルひと・しくみ研究所代表)

2010年12月21日 公開 2022年08月17日 更新

「モノが売れない」といわれるようになって久しいが、消費者の消費意欲は衰えておらず、販売不振の実態は彼らが「買うという行動」をとらないことにある――。人間の行動と、行動の源泉である感性に着目した「感性マーケティング」を提唱するのはオラクルひと・しくみ研究所代表の小阪裕司氏に、顧客目線で見つめるマーケティングについて話をうかがった。[取材構成:金澤匠 写真:鶴田孝介]

 

「売れない」と嘆くより「価値創造」への転換を

「商品が売れない」といった沈んだ声をよく耳にします。その一方で、同じ商品を扱っているのに、売り上げをぐんぐん伸ばしている店もあります。これはいったい、どういうことなのでしょうか。
肩を落とす経営者の多くは「不況のせいだから」と言います。しかし、それは大きな誤解だと思います。
たとえばですが、私はSF映画スターウォーズのファンで、その映画の登場人物に関するある商品を10万円で欲しいと思っています。でも、その映画にあまり関心をもたない方は「欲しくない」はずです。欲しくないモノは、どんなに安くなっても人は買わないでしょう。これは景気とは何ら関係のないことなのです。
消費者が購買行動に至るまでには2つの「ハードル」があります。1つ目は、「買いたい」か「買いたくない」か。このハードルを越えた後にあるのが、「買える」か「買えない」かという2つ目のハードルです。

不況が続いているため、この2番目のハードルが上がっており、「買いたい」と思っているのに「買えない」という判断を下す人は少し増えたとは思います。それでも、消費者は買い控えをしたいわけではなく、「毎日の生活を充実させ楽しみたい」と思っているのです。

端的にいえば、「商品が売れない」といった言葉を発する多くのビジネスパーソンは、消費者をみていない。商品そのものや数字ばかりに気を取られているのではないでしょうか。言い換えれば、消費者の「感性」に目が向かず、その感性を土台にした消費行動を見通せないため、適切なアプローチができないでいるのです。

消費者はいまや物資的に満たされており、じつにさまざまな情報やサービスに触れています。そのため、彼らの多くは、たんにモノやサービスを受け取るだけでなく、モノやサービスの消費に「心の充足」を求めています。

だからこそ、モノやサービスを提供するだけではなく、消費者の購買意欲に火を点けて、心を充たしたい彼らの求めに応えることが重要となっているのです。

そこで、必要となるのがビジネスの発想の転換です。その際にキーワードとなるのが「価値創造」です。消費者が買いたくなるような「価値」を心の中に生み、それを実際のモノやサービスを通じて彼らに提供する-。そんな「価値創造型ビジネス」へ舵を切ることが重要なのです。

 

「感性」「行動」に着目し消費者に「働きかける」

私は、10年ほど前から、そんな「価値創造型ビジネス」を実践する会を主宰しています。その「ワクワク系マーケティング実践会」には、全国の約1500社が加盟しています。

その会員の多くが毎年、目を見張るような好業績を成し遂げています。その成功は、業種や地域、会社の規模を問わず、景気や業界の動向も関係ない。実践企業の会には、酒販店や呉服店などの、一般には消費離れや買い(利用)控えが進んでいるとされる業種の経営者も数多く参加しています。

会員の成功事例を1つ、紹介します。年末年始用のある銘酒の売り上げを、1年で30倍に伸ばした酒販店オーナーがいます。それまでは毎年末に20本ほどを売っていたにすぎないのですが、ある年、一気に600本を売りました。同じ日本酒の販売数量は、ほかの店ではほとんど変化はなかったのに、彼の店だけが大幅な増加を記録したのです。そしていまでは、同じ銘酒を1200本、継続的に売り続けています。

どうして、このような成果を挙げることができるのか。

そのポイントは、商品や数字ではなく、その商品を買ったり使ったりする人の「感性」と「行動」に着目してビジネスを実践したことにあります。
「どう売ろうか」と考えるのではなく、「この商品を買ってもらうにはどうすべきか」と、消費者の行動と動機に焦点を合わせ、需要を作り出していく方法です。

繰り返しになりますが、かつてのモノの少ない時代とは異なり、いまや世の中にモノが溢れています。消費者の多くは「一体、何を買ったらいいのか、よくわからない」といった状態に陥っています。

これは、消費者の消費意欲がなくなったということではないのです。「人生を豊かにしてくれる商品を買いたい」というばくぜんとした欲望は心の中に渦巻いているのですが、それがどのようなモノやサービスの消費を通じて得られるのかがわからないのです。

ですから、その商品を手に入れることで、どんな価値がもたらされるのかを提示していかなくてはならないのです。それに合わせて売りたい商品の素晴らしさも、たんにスペックだけでなく顧客に十分に伝える必要があります。そうして、消費者がその商品を「買う理由」「買わなければならない理由」を見出すように、働きかける必要があるのです。

これは、大学卒業後に婦人服を売っていた私が発見したビジネスの視点です。それをしっかり理解したおかげで、同一商品を扱っているにもかかわらず、私の売り場だけが業績を伸長させることができました。また、その後に転職した広告代理店におけるさまざまなイベントのプロデュースの際などにも大いに役立ちました。

かつては、高品質な製品をいかに均質にいかに効率よく生産するか、それらをいかに効率的に運ぶか、販売の現場においてはそれらをいかに効率よく売るか-が重要とされました。

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