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悩みは人生のスパイスになる~松下幸之助 心軽やかに生きるコツ

大江弘(PHP研究所経営理念研究本部主席研究員)

2020年01月27日 公開 2022年10月27日 更新

悩みは人生のスパイスになる

松下幸之助は言います。

「悩みのない人生は、かえって味わいのない人生だともいえましょう。昔からある数多くの物語、小説、芝居、映画などは、すべて何らかのかたちで悩みを取り扱っており、そうであればこそ人々は、その物語や芝居に涙し、喜び、そして感動するのであります。この悩みを人生の味わいとして、だれもが十分にその味をかみしめ、その意味を感得しうるならば、悩みは決して不幸ではないのであります」

しばしば“平穏無事が幸せ”という話を耳にします。たしかに一面その通りでしょう。戦乱の中にいるわけではない、飢えることもない、住むところにも困っていない、和やかな気持ちで毎日を送っている。平穏無事に生きていること自体、とてつもない幸運に恵まれていると言えます。その点に気づき、感謝の心を持つことができれば、自ずと幸せが感じられるにちがいありません。

とはいえ、実際に平穏無事に暮らすのは容易ではありません。

人には少なからず欲があります。もっとお金持ちになりたい、有名になりたい、偉くなりたいという思いがあります。そうした個人的なことに限らず、子どもの幸せ、社会の平和と繁栄を願う欲もあります。そうした欲を満たすためには、どうしても様々なことに取り組まなければなりません。もとより、困難にぶつかり、苦労を乗り越えていくことも起こってきます。ときには無理無茶、難題に立ち向かっていかなければならないこともあるでしょう。平穏無事どころか自ら波乱万丈の道を歩まざるをえなくなるのです。明らかに平穏無事とは真反対の生き方です。しかし大なり小なりその道を私たちは知らず識らずに生きています。

結果として、やはり悩みからは逃れられない。つまり、そもそも人はなかなか平穏無事というわけにはいかないのです。そこで松下幸之助は、その事実を踏まえてそれも一つの生き方であり、人生の彩(いろどり)ともなるのではないかと語りかけます。

平穏無事も結構ですが、毎日変わり映えのしない時間が過ぎていくだけの人生はあまり楽しいものではないように思えます。それはひたすらまっすぐな高速道路を運転することに似ているかもしれません。同じような景色が延々と続き、ハンドルやアクセルを注意して操作する必要もないとなれば、ボーっとして眠くなるでしょうし、気が付いたらゴール、つまり人生が終わっていたということになりかねません。また、どれほどおいしい料理も朝昼晩、毎日続くとなれば当然飽きてきます。飽きることも過ぎれば、食べたくもない、見たくもないということにさえなるでしょう。

子どものころに『未来惑星ザルドス』という映画を見たことがあります。大きな透明なカプセルで覆われた町の中で不老不死として生きていた人々が、カプセルの外の世界にいた原始的な普通の人々によって最後には虐殺されるというお話です。ところがそこで殺される人たちは決して逃げようとはせず、むしろ自ら殺してくれと叫びながら喜んで死んでいきます。たしかに不老不死はとても素晴らしいものなのかもしれません。しかし映画の中の不老不死の人々は生きることに飽き、何の喜びも感じなくなっていたのです。ラストシーンは、一組のカップルが子どもを産み、育て、その子どもが旅立ち、カップルが骨になって木の下に横たわるというものでした。SF好きだったとはいえ、子ども心に不老不死、永遠の命に疑問を感じたものです。

人には生まれながらにして欲望が与えられています。その欲望を適度に満たすことがとても大切です。もちろんそのためには、努力が必要です。苦労が求められます。いくつもの辛酸をなめることもあるでしょう。しかしそれらは、人生を味わい深いものにしてくれるスパイスのようなもの。つまり悩み事は、厭うものではなくむしろお互いの人生をより豊かに幸せにするために欠かせないものなのではないか。松下幸之助はそう皆さんに訴えているのです。

避けたいものと思っていたものが、見方を変えると逆に大切なものになるというのは、松下幸之助ならではのものの見方考え方、いわゆるプラス思考だと言えます。

悩むことを恐れず避けず、お互いにすべてが人生のスパイスになる、生かしていこうと心掛けるなら、心軽やかに一歩一歩着実に歩んでいくことができるのではないでしょうか。
 

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