不倫はやはり不謹慎!?…戦時中に上演が禁止された「落語ネタ」
2020年02月07日 公開
立川談志の弟子であり、慶應義塾大学卒、元ビジネスマンという異色の経歴の持つ落語家の立川談慶氏。
新著『ビジネスエリートがなぜか身につけている 教養としての落語』にて、落語は吉田茂元首相、実業家・渋沢栄一といったやエリートたちの"教養”として親しまれてきたと語る。
本稿では同書より、昨今のニュースを賑わせる「不倫」を題材とした落語ネタをその時代背景とともに解説した一節を紹介する。
※本稿は立川談慶著『ビジネスエリートがなぜか身につけている 教養としての落語』(サンマーク出版刊)より一部抜粋・編集したものです。
江戸時代の「不倫」には重い罰則が?
今、ドラマ『昼顔』が人気になったり、今年になってからもワイドショーを度々にぎわせたりしている「不倫」ですが、不倫ネタは古今東西、存在してきました。
現在「不倫」と呼ばれている行為は、江戸時代には「不義密通」と呼ばれていました。特に妻が不倫をすれば、その夫にとっても、家にとっても、相当な不名誉とされていました。
そのため、あえて表沙汰にはせず、今でいう「示談」で済ませたケースも珍しくなかったようです。
また、江戸時代の不倫に対する罰則は、大変厳しいものだったという記録が残っています。とはいえ「実際のところは意外と自由奔放だった」と指摘する専門家もいます。
「大家の旦那のお妾(めかけ)さん、芸人の愛人などは普通で、いないほうがおかしいぐらいの風潮だった」という説もあります。
あくまで失敗談?
『ビジネスエリートがなぜか身につけている 教養としての落語』でも触れましたが、落語は江戸時代に、「仏教を庶民に面白く伝えるための笑い話」として発祥し、その後、歌舞伎と並ぶ庶民の二大娯楽として大流行しました。
そんな落語の世界でも、「不倫」という題材を扱った作品は数多く存在します。しかし現代のように、「不倫=悪」と真正面から糾弾するような噺は、あまり見当たりません。
現代の倫理とは違うかもしれませんが、現代語の「不倫」につきまとうような暗さを感じる噺は少なく、むしろ「不倫の失敗談」が圧倒的に多いのです。
「不倫がうまくいかなかった」「不倫をした事実が実は周囲にバレていた」という具合で、要は「ドジ話」が主流なのです。
「そうはいっても不倫はいけないだろう!」と正論を振りかざすのではなく、 「まったく、バカだねぇ」と感情移入できる噺が多く存在します。そんなところが「人間の失敗図鑑」と称される「落語」のおおらかさであり、寛容さを象徴しています。
「権助魚」という不倫噺をご紹介しましょう。