《医師・医学博士の霜田里絵(しもだ・さとえ)さんは、世界各国の著名画家な画家に共通点を見出しいた。それは、一流の画家の多くが長寿であることだ。
国内でも、葛飾北斎(89歳)、横山大観(89歳)、東山魁夷(90歳)と長寿揃いだが、海外に目を向けてもパブロ・ピカソ(91歳)、マルク・シャガール(98歳)など、不思議と長命という点で共通する。
霜田氏はその疑問からスタートし、脳神経内科医の視点から画家たちの長寿の未必を解き明かす書『一流の画家はなぜ長寿なのか』を上梓した。
本稿では、作家エージェントでかつ自身も『花戦さ』などのヒット作品の著者でもある鬼塚忠さんが、霜田さんに見出した「画家たち長寿の秘訣」の一端を聞いた。》
健康長寿を左右するのは、お金ではなく「脳の使い方」
(鬼塚)脳神経内科医として多方面でご活躍の霜田先生とは、著作を通じて、もう10年以上のお付き合いとなります。今日はお忙しい中ありがとうございます。
(霜田)こちらこそ、いつもお世話になっております。
(鬼塚)最近、脳の分野に関して、霜田先生が感じていらっしゃることはありますか?
(霜田)そうですね。私は東京の銀座に自分のクリニックを開業していますが、場所柄もあって、国内外問わず、様々な職業や立場の方々が来てくださいます。皆さんを診察していて感じるのは、健康に対する意識の高さですね。
(鬼塚)意識が高いと行動も変わってきますよね。
(霜田)そうなんです。私の患者さんで90歳前後になっても、すごく元気な方たちがいます。さしたる慢性疾患をかかえていないだけでなく、見かけもとても若々しい。良い意味で、皆さんちょっとお茶目で非常識です。年齢相応の服装をするとか、年だから無茶な旅をしない、というような考え方をしないのです。
(鬼塚)お金をかけたからといって、必ずしも健康になるとは限りませんしね。
(霜田)皆さんに共通するのは「脳の使い方がお上手」ということです。
(鬼塚)それは、どういうことですか?
(霜田)はい。ひと言で申し上げるなら「自由に生きている」ということです。ただし、誤解のないように補足すると、「自由」と言っても奔放に生きることを意味するわけではありません。
自分の感じ方、行動の仕方に制約を設けず、情熱をもって感性豊かに目の前のことに取り組んでいらっしゃる、という意味での行動力の優雅さです。
インプットするだけでは脳は活性化しない
(鬼塚)脳を上手に使うとは、具体的にどのようなことでしょうか?
(霜田)脳は実に飽きっぽくて、単調なことのくり返しが苦手です。使う部分が一定で、固定化されていると、広範囲な神経ネットワークはあまり活動せず、下手をすると萎縮の片棒を担ぐことになるかもしれません。
例えば、こういう方はいらっしゃらないでしょうか。
朝起きて決まりごとのように、何となく同じメニューの食事をいただき、新聞に目を通して、ぼんやりしているうちにお昼ご飯。テレビをつけっぱなしにしたり、インターネットが好きな方なら漠然とネットサーフィンをしたり。そのうち、あっという間に夜がきて夕食。数時間後に就寝……みたいな。
(鬼塚)笑えないですね。シニア層の、特に定年退職後の男性の生活に多いかもしれません。奧さんとの買い物くらいしか外出しない人も増えているようです。現代社会に広がっている「孤独死」とも大きく関係している気がします。
(霜田)そんな生活を何年も、いえ下手をしたら何十年も続けていたらどうなるでしょうか。インプットすることは増えても、表現することがほとんどありません。これでは、脳は同じことのくり返しで活動性もやる気も起きないものです。
新しいチャレンジにわくわくすることもなく、適度なドーパミンの分泌をはじめとした神経伝達物質の豊かなブレンドを味わいにくくなってしまうでしょう。
(鬼塚)確かに、いつでもどこでも手に入るような情報も、好奇心や興味をもってまとめようとか、誰かに発信しようとしなければ、同じことのくり返しばかりで、脳は衰えていくいっぽうになるでしょうね。