日本最高峰の書評ブロガーが教える、世界中の本から運命の一冊に出会える「意外な方法」
2020年06月15日 公開 2023年01月05日 更新
「いい作家」こそ、「いい本」を知っている
いい作家は、いい本を読んでいる。これ鉄板な(ただし、逆は真ならず)。この原則を用いると、おもしろいように「人」が見つかる。自分の知らない、でも自分にぴったりの本を読んでいる人である。
そして、この「いい」とは、自分にとって「イイ趣味してるねぇ」という意。わたしが好きな作家は、必ず、わたしが好きな本を読んでいる。
もし、あなたがいくつかの「好きな作家」や「好きな作品」を持っているなら、『作家の読書道』(WEB本の雑誌 編/本の雑誌社)が役に立つ。いまどきの作家の読書体験をインタビュー形式でまとめたシリーズだ。読む姿勢、書く方法など、本を生業としている人たちの思いも十人十色であることがおもしろい。
探し方はこうだ。
①あなたの好きな作家が読んでいる、あなたの知らない本を見つける
②あなたの好きな作品を読んでいる、あなたの知らない作家を見つける
まず、あなたの好きな作家が、あなたの知らない本をプッシュしてたとしよう。迷わず読みたくなるだろうし、それが当たりの可能性は極めて高い。お気に入りの作家が熱っぽくオススメする、あなたが知らない本、こういう本をスゴ本と言わずして何と言おうか。
次に、あなたの好きな作品を推している、あなたの知らない作家がいたら、趣味があう可能性大である。その作家の本を読んでみたいでしょ。知らない作家に手を出すキッカケはたいていこれ。わたしが小野不由美をチェックするのは、『十二国記』の続きのためだけではなく、「S・キングは初期が好きー」と言ってたから(『屍鬼』がスゴ本なのは『呪われた町』が傑作だから)。
たとえば、もし好きな作家の一人に恩田陸がいるとしよう。すると、彼女が熱く語る『アレキサンドリア四重奏』(ロレンス・ダレル/河出書房新社)は要チェックになる。文章と構成に魅了されて、「なめるように読んだ」というのなら、読まねばあかん。
こんな感じで、①と②を繰り返してゆく。こうしたインタビュー集や書評集は、本のカタログである前に「人のカタログ」として見るのだ。特に、②で知った作家が推している本が①と被ったなら、もうこれは間違いないね。
自分の好みに合う「人」はネットで探す
「本」を探す前に「人」を探す手法は、ネットだと最大効力を発揮する。Amazonだけでなく、大型書店や出版社のサイトの新刊紹介、書評サイトやSNSを検索することで、芋づる式に「人」が見つかるから。
しかし、闇雲に検索すると、いわゆる有名どころの書評家ばかりがヒットするかもしれない。ジャンルに特化して、売れそうな新刊をモリモリ読んで、ちょっとした粗筋と気の利いたコメントを売っている人だ。その人との趣味が合うなら止めはしないが、毎週・毎月トコロテンのように押し出されてくる「これを読め!」を読みたいか? そもそも、その押し付けから離れ、より自分の好みに合った一冊を探してるんだろう? だったら、自分の好みにあった「人」を探すんだ。
そのポイントは、「自分は好きなのだけど、あまりメジャーでない作品」を混ぜること。だれもが知ってる、有名どころばかりだと、「好み」の色合いが薄まってしまう。趣味とは偏りだから、あなたの偏りを混ぜよう。そうすることで、よりあなた色のリストになる。そうした人をフォロワーの別枠で管理したり、RSSリーダーに詰め込むことで、本探しのアンテナ代わりにするのだ。
たとえば、そのリストにAさん、Bさん、Cさんといるとしよう。以前からあなたが気になっていた本をAさんが薦めたら、きっと読みたいと思うだろう。そして、Bさんも同じ本を薦めたら、もっと読みたくなるだろう。おそらくそれは、あなた好みの一冊となるだろう。
この、各人が薦めるタイミングは、同じ時期でないほどいい。出版社のキャンペーンやプロモーションで、ある時期に特定の本に人気が集まることはよくある。数年前にAさんが薦めた作品を、先週Bさんが読んで評価したなら、より当たりに近くなる。
これをさらに進めて、そもそも「あなたが知らない本」であるほどいい。「でも、それは一種の賭けなのでは?」そのとおり、Aさんが薦める「あなたが知らない本」は、Aさんに偏った好みであり、あなたには向かないかもしれない。だが、あなたが知らないその本を薦める人が、Aさん、Bさんと被ったら? これは要チェックだろう。さらにCさんがその本を推すならば、決定的となる。
まず、「あなたの好きな本」を好きな人のリストを作る。次に、その人たちが共通してお薦めする「あなたの知らない本」が狙い目になる。さらに、共通度が高ければ高いほど、タイミングが離れているほど、スゴ本である可能性が高くなる。