「7時間寝ると長生きできる」、「疲れは寝れば取れる」、「病気は寝れば治る」。睡眠にまつわるこうした言説の割に、「寝ても疲れが取れない」と悩む人も多い。
株式会社インテグリティ代表で予防医療診断士の田村広大氏は、1日3時間睡眠で日々を快適に過ごす「短眠法」の実践者であり、本業の保険営業で世界トップ1%の成績を残し、他にも5つの仕事をかけもちするスーパービジネスマンとしても活躍する人物だ。
本稿では田村氏の新著『夢をかなえる短眠法~3時間で熟睡し、5倍濃く生きる』より、多くの人が抱きがちな「睡眠の誤解」について書かれた一節をご紹介する。
※本稿は田村広大著『夢をかなえる短眠法~3時間で熟睡し、5倍濃く生きる』(技術評論社刊)より一部抜粋・編集したものです。
「7時間寝ると長生きできる」は本当なのか?
そもそも、どのくらい睡眠時間を取るのが適切なのでしょうか?
多くの書籍を見てみると、「最適な睡眠時間は7時間程度」と書かれています。その根拠として挙げられるのが、カリフォルニア大学サンディエゴ校による睡眠時間と寿命の関係についての研究です。
ガンの研究に参加した110万人の入院患者を6年間追跡調査したところ、睡眠時間が6.5時間~7.4時間の人は、それより睡眠時間が短い人や長い人たちにくらべて死亡率が低いという結果になりました。
また、名古屋大学大学院が11万人以上を対象に平日の睡眠時間と10年間に死亡した人の割合を調査したところ、同じく睡眠時間7時間の人の死亡率が一番低いという結果になりました。
ですが、これらはあくまで入院患者、つまり健康ではない人を対象にしたもの、というところがポイントです。睡眠時間が7時間より短い人は、病気などによって眠りが浅く、その結果、睡眠時間が短くなっていることが考えられます。
また、睡眠時間が7時間以上の場合、寝たきりだったり、動くよりも寝ているほうが都合のいい方である場合も多いでしょう。
また、家庭環境や仕事のストレスなど、睡眠時間以外の要素も関係していると考えられます。調査をおこなった当時、名古屋大学大学院の玉腰暁子助教授(現・北海道大学医学研究院教授)も、「現在の睡眠時間が7時間よりも短い人、長い人がそれぞれ7時間にしたからといって、死亡リスクが下がるわけではない」とおっしゃっています。
ちなみに、いずれの研究でも、「睡眠時間が長くても、かえって死亡リスクが高まる」という結果が出ています。
ということで、単に「睡眠時間を7時間にすればいい」というものではないことがおわかりいただけるのではないでしょうか。最近では、4時間以上の睡眠なら、6時間でも9時間でもあまり差がないという説もあります。
寝るだけでは取れない疲れがある?
「疲れたら寝なさい」とよく言います。
「寝不足だから疲れが取れないのだ」とも。
でも、これって本当なのでしょうか?
じつは、疲労回復と睡眠はあまり関係がありません。
「疲労」には2種類あります。「動作疲労」と「静止疲労」です。
動作疲労は、運動するなど、身体を動かすことでたまる疲労のことです。一般的に「疲労」というと、この動作疲労を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
でも、疲労にはもう1つ、「静止疲労」があります。これは、パソコンを打ったり、デスクで事務作業や細かい作業をおこなったりするなど、身体を動かさずじっとしていることでたまる疲労です。
長時間机に向かっていると肩や首は固まり、お尻や背中もこわばって疲れますが、それは「静止疲労」によるものなのです。
つまり、動いても疲れますが、長時間同じ姿勢を取ってもまた疲れるというわけです。寝ている間は、床でほぼ同じかっこうをしていますね。つまり、睡眠中も静止疲労がどんどんたまっていくのです。
では、静止疲労を回復させるには、どうすればいいでしょうか?
それは「身体を動かし、ほぐす」ことにあります。動作疲労を回復させるには、「身体を休めること」です。このように、動作と静止は互いに補完し合い、バランスを取り合っているのです。
にもかかわらず、「睡眠こそが完全な身体の回復法だ」と思い込んでいるために、一生懸命寝ようとして、どんどん疲れてしまうのです。
特に最近は、田植えや畑仕事などのように額に汗して動き回る仕事よりも、机に向かってパソコンを打ったり、メールをしたり、電話に向かったりするデスクワークをしている人のほうが多いのではないでしょうか。
ほとんどの方の疲れは、「静止疲労」です。なのに、さらに長時間寝てしまったら……。静止疲労はどんどん加速し、肩こりや腰痛を引き起こすことにもなるでしょう。
先にもお話ししたように、静止疲労の回復には「動作」が大事です。静止疲労がたまりやすい現代には、意識して身体を動かすことが必要なのです。