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「男性育休の義務化」が企業にとって“メリット”しかない理由

天野妙

2020年10月15日 公開 2024年12月16日 更新

話題を呼んでいる男性育休の義務化。そもそも、義務化の是非以前に、企業や取得した社員には男性育休によってどのような変化がもたらされるのだろうか。

本稿では、『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』(PHP新書、小室淑恵・天野妙の共著)から、内容を抜粋してお届けする。

 

メルカリは男性育休の取得率が9割

男性育休が企業にもたらす大きなメリットの1つは、若手の優秀な人材の確保です。

コロナ禍等による一時的な市況の落ち込み・採用抑制があったとしても、長期的には日本市場における若手の人材不足傾向は今後も続くことは確実です。中でも、採用に苦戦しがちなのが、ベンチャー企業や中小企業ではないでしょうか。

昨今のベンチャー企業の代表格の1つ、メルカリの事例を紹介しましょう。

同社は昨今のエンジニア不足の中、優秀なエンジニア人材を採用し続けています。その背景の1つに、同社ならではの福利厚生があるようです。同社では、住宅手当など全員に平等に行き渡る福利厚生ではなく、育休中の給与の100%保障や高額不妊治療費補助、認可外保育園にかかる差額保育料保障など、子育て世代の社員への福利厚生を充実させています。

メルカリ会長の小泉文明氏は、筆者天野に次のように語ってくれました。「子育てや介護で不安がある人に『仕事でチャレンジして』と言ってもできないでしょう。だからこそ、誰もがチャレンジできるような福利厚生にしています。福利厚生で重要なのは、全社員に同じようにメリットを与えることではありません。機会の公平性を保つことが重要です」。

子育て中でも引け目を感じなくて良い社内文化が浸透しているためか、女性社員の多くは出産から5カ月ほどで復職し、男性社員の約9割が育休を取得しているそうです。

また、メルカリの男性社員が育休を取得しやすい理由として、会長の小泉氏自ら二度育休を取得していることが挙げられます。それにより、男性が育休を取りづらい空気を払拭しているのです。

「会社の上司が育休を取ったときの部下に与える影響は、同僚同士の影響よりも2.5倍も強い」と経済学者の山口慎太郎氏(東京大学教授)も語っていますが、まさに、トップが取得することの効果が感じられる実例です。

このように、社長自らが育休を取得して、柔軟に働ける会社であることを、トップダウンでアピールしているのは、メルカリだけではありません。グループウェアを提供するサイボウズの青野慶久社長や、クラウド会計ソフトを展開するfreeeの佐々木大輔社長といった著名経営者も同様です。

 

「採用に困ることはない」と言い切る、新潟の中小企業

企業にとって男性の育休取得が「人材採用」につながるのは、特に中小企業において顕著です。新潟県に、男性社員の育休取得率100%、残業ゼロで採用がうまくいった中小企業があります。建築金具の製造業で社員数150人規模のサカタ製作所です。

同社では、『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』(PHP新書)の共著者である小室淑恵の講演を機に、働き方改革を実施。残業ゼロを実現し、これまで払っていた残業代・年間3400万円を社員に分配するなど、社員満足度向上に努めました。

その過程で、男性社員が育休を取りたいと希望していることが明らかになったと言います。そして、取得が進まなかった理由を探ったところ、多くの企業と同じように、社内に「取りづらい空気」があったことが判明したようです。

そこで同社では、男性社員の妻が妊娠したことが分かったタイミングで、上司とその上長の3名で面談の場を設けることにしたのです。

「どの時期に育休を取るのが良いか」と事前に決め、仕事量の調整をはかったり、表計算ソフトで育休取得中の給付金の手取り額を計算して渡したりと、「取りづらい空気」だけではなく、収入の不安も取り除くことで、社員の背中を押すようにしました。

その結果、同社は2018年の「イクメン企業アワードグランプリ」にも選ばれ、知名度も上がり、今では採用に困ることはなくなったそうです。

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男性育休がもたらす変化…―時間当たりの生産性が高い働き方にシフト

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