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革命論の“陰と陽”…230年前の名著が表す「現代日本の省察」

佐藤健志(作家/評論家)

2021年01月05日 公開 2023年01月19日 更新

 

自由や権利は古来のもの

名誉革命協会が説く第三の権利、すなわち「自分たちのために政府をつくる権利」だが、これも実際に名誉革命において行われたこととは縁もゆかりもない代物にすぎない。

かの革命は、われわれが伝統的に享受してきた権利と自由、およびそれらの基盤たる憲法を守るためになされた。イギリス憲法の精神や、名誉革命当時に取られた諸政策の真の内容を知りたいのなら、ぜひともわが国の歴史や記録、あるいは議会で制定された法律や上下両院の議事録といったものを参照してほしい。

プライス流の説教だの、名誉革命協会の宴会におけるスピーチだのを、ゆめゆめ真に受けてもらっては困る。

新政府の樹立という発想は、われわれに嫌悪と恐怖を引き起こす。名誉革命の際も、また現在も、イギリス人は自分たちの権利や自由を「先祖より受け継いだもの」と見なしてきた。代々にわたって継承されてきたこの大樹に、異質な何かを接ぎ木しないよう、われわれは気をつけてきたのだ。

わが国における政治的改革は、つねに「古来の精神に立ち返る」という原則に従って行われてきた。将来行われるであろういかなる改革も、過去の事例を重んじ、手本とすることを願う。いや、そうなることを確信していると言っておこう。

名誉革命に際して制定された権利章典でも、議会両院は「自分たちのために政府をつくる権利」がどうこうとは一言も述べていない。

議会の関心事は、長年にわたって尊重されてきたにもかかわらず、存続の危機にさらされたイギリスの宗教、法律、そして自由をいかにして守るかという点にあった。

「われらの宗教、法律、そして自由が失われてしまう危険をなくすための制度をつくる、その最善の手段は何かを真剣に考慮した」結果、議会はまず「われらの祖先が同じような事態において、古くからの権利や自由を保障するためにしてきたこと、すなわち宣言を発すること」が最善だと述べる。

そして新たな王と王妃にたいし、「ここに定められる権利や自由はすべて、この王国の国民が古より享受してきたものであり、決して否定されえないものである。こう宣言し、かつ保障していただきたい」と求めたのである。

自由や権利を「祖先から直系の子孫へと引き継がれる相続財産」として扱うことこそ、イギリス憲法の一貫した方針と言える。それはイギリス人であることに由来する財産にほかならず、より一般的な人権や自然権とは関係していない。

おかげでわが憲法は、きわめて多様な内容を持ちつつ、一つのまとまりを保てるのだ(訳注=イギリスには成文憲法典、つまり文書の形式で示された憲法がなく、「憲法習律」と呼ばれる慣習法によって憲法の主要部分が成り立っている)。

王位も世襲なら、貴族の地位も世襲、下院や一般民衆が持つ特権や市民権や自由も、代々受け継がれたもの。

これは人間のあり方をめぐる深い思索のうえに定められた方針に思える。いや、大自然のあり方にならったものとしたほうが、より的確であろう。

自然とは理屈抜きで正しいと感じられるものであり、理性を超えた英知を宿しているのだ。

 

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