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「責任はオレがもつ」の言葉を信用してはいけない理由

仁志敏久(横浜DeNAベイスターズファーム監督)

2021年06月02日 公開 2022年06月09日 更新

現役時代に読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズで強打の内野手として活躍し、数々のタイトルに輝いた仁志氏。引退後は大学院に通い心理学やコーチング理論を学び、侍ジャパンU–12監督に就任。

2020年に開催された「第5回WBSC U–12ワールドカップ」において過去最高成績の準優勝に導いた。現在、横浜DeNAベイスターズファーム監督を務める仁志氏が、組織を率いるリーダーが押さえておかないといけない「心構え」について紹介する。

※本稿は、『指導力 才能を伸ばす「伝え方」「接し方」』 (PHPビジネス新書)の内容を抜粋・編集したものです。

 

「オレの責任」発言に注意

現役引退後に解説の仕事で球場に足を運ぶ機会があります。そこでは、指導するうえでの「学び」の場でもありました。

私にとっては試合前の練習風景を見ることもその一つ。そのなかで、練習への取り組み、コーチとしての考え方などを話してくれる方はとても貴重な存在です。その一人、白井一幸さん(元北海道日本ハムファイターズコーチなど)がコーチとしての考え方を話してくれたことがあります。

「よくコーチが選手に『責任はオレがもつから』って言うだろう? でもな、選手がやる前からコーチが全部責任取っちゃダメなんだよ」そう言いました。

これはとくにランナー1塁の場面で、1塁ベースコーチが選手の耳元で「こっちが責任もつから走っていいよ」と話すケースなどがあてはまります。

選手時代はその言葉を心強くも感じていたのですが、何がダメなのかを続けて話してくれました。

「選手がプレーをする前にコーチが責任を取ってしまったらそのプレーに対する責任がなくなってしまう。あくまでもプレーの選択は選手の責任、出た結果についてコーチが責任を取るもの。選手は自分のプレーには責任をもたないといけない」

非常に納得しました。選手とコーチにおいての責任の所在を考えるうえで理想的だと思います。

コーチの言う「オレの責任」は、上に立つ者の覚悟、人間的な大きささえ感じるようなひと言です。

しかし、たとえば盗塁が失敗に終わった場合、責任をもつと言っても、実際どう責任を取れるのかということ。記録上はその選手の失敗であり、その瞬間に試合が終われば明らかにその選手がやり玉にあがる。結局は責任を負わなければならないのは選手です。

コーチが責任を負うと思うならば、試合後に「あれは私の責任です」などと言い回らなければ、誰もそんなことには気づきません。

あくまでもプレーの選択に対する責任はまず選手がもつべき。選手はその選択に自信と覚悟をもって臨み、コーチは信頼をもってその選手の選択したプレーを支持し、間違いがあれば正しながらその責任を負う。

そして監督はそれらすべてを受け止め、責任を負うだけでなく、責任を取る覚悟をもたなければならない。その「流れ」がプレーそれぞれにおいて必要であり、それは余裕のある場面でも緊迫する場面でも変わらない。

白井さんのお話は、その後ずっと参考にさせていただいています。

 

「いいチーム」には信頼感がある

監督、コーチ、選手それぞれ背負うべきものが違います。

現場の最前線で戦う選手にはつねに結果が求められ、しかも勝利に結びつく結果であることが望まれます。

そういった選手の現実に近くで寄り添うのがコーチの役割です。技術的アドバイスだけでなく、チームにおけるその選手の立場や役割を伝え、共有し、試合中に判断に迷いが生じないよう準備をさせるのも大事な役目です。そして、その選手の判断力にあらかじめ方向性を与えることが監督の仕事かと思います。

チームというのは基本的に「監督が醸し出す色」に染まります。戦術や戦略も含めてどんな方針を軸にするのかという方向性を示します。その色に沿ってコーチは動き、選手と向き合います。

コーチは選手たちを平等に見るうえでは、ある時には事務的、またある時には情熱的な部分が必要です。

また、監督や選手に対して、その存在感がありすぎても薄すぎてもよくありませんが、距離感として、どちらかというと選手に近いほうがいいだろうとは思います。選手にとっては、いつも見ていてくれる、味方でいてくれるという安心感が信頼につながります。

監督、コーチ、選手をつなぐのは信頼。役割はそれぞれ大きく違いますが、勝利をめざすことを前提に、信頼し合うことがチームにとっては最も重要です。いいチームとは「そういうチーム」だと思います。

 

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